MUCCが新たな扉を開いた夜 代々木第一体育館ライブレポート

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 2014年9月23日。MUCCはこの日、国立代々木競技場第一体育館にてライブを行った。これは、3月6日からスタートさせたツアー『MUCC SIX NINE WARS-ぼくらの七ヶ月間戦争-』のファイナルでもあった。『MUCC SIX NINE WARS-ぼくらの七ヶ月間戦争』とは、7ヶ月間連続で、対バンを含める異なる全6種類のライブをEpisode1.からEpisode6.のブロックに分け、各9公演行ってきたモノで、その総数は実に55本と、かなり長いツアーであった。

 結成から17年。様々なライブの形を経験してきた彼らだが、200日に渡り、ここまでいろんな戦い方で自らに挑んだ経験はない。そう。彼らは、この戦いの先に、まだ見ぬ世界を置きたかったのだろう。ファイナル公演国立代々木競技場第一体育館のタイトルは、『THE END』。THE ENDとは、まぎれもなく終わりを意味する言葉である。しかし。その終わりこそ、始まりを意味するモノであったのだ。

 2014年9月23日。17時20分。長かった戦いの最後の幕が上がった。彼らはこの日、初日であった3月6日の恵比寿LIQUIDROOMと同じ始まりを選んでいた。彼らが選んだ始まりは「THE END OF THE WORLD」。リーダーでありメインコンポーザーであるミヤが公言するように、この曲は、MUCCがルーツとするフォークを彷彿させる1曲だ。その曲は、紗幕の向こうで鳴り始めた。紗幕に、モノクロで映し出される日常の景色は、何故かいたく心を突いた。この、胸を締め付けられるような感覚こそが、彼らMUCCが描き続けてきた景色であり、メッセージでもあると言えるだろう。紗幕が落とされ、ステージに点在していたTHE END OF THE WORLDの文字が次々に燃え上がり、順に逹瑯、YUKKE、SATOち、ミヤが姿を現した。フロアからは、いままでに見たことのないその始まりに驚きの声が沸き上がった。

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 最後の戦いに相応しい印象的な幕開けは、一気にオーディエンスの気持ちを惹き付けると、「ENDER ENDER」「Ms. Fear」へと繋げられていった。光を一杯に受けたミラーボールが蒼を放ち、会場に散った光景の中、7ヶ月間戦い抜いてきた彼らの音が力強くフロアに放たれていった。

 「禁断のSHOW TIMEを始めようぜ!」(逹瑯)
 
 「好き勝手やっちゃえよ!」(ミヤ)

 そんな叫びの後、「謡声(ウタゴエ)」「ガーベラ」と言った歌謡テイストな旧曲を2曲挟み込み、ライブは少し景色を変えたのだが、逹瑯が「ガーベラ」終わりで、“等身大の今のMUCCを存分に楽しんで帰ってください!”という言葉を発すると、そこから中盤にかけて、ニューアルバム『THE END OF THE WORLD』の中にあるジャンルレスな楽曲たちが、“MUCCという個性”で、素晴らしく結ばれていったのである。

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 特に印象的だったのは、ガレージ系の無骨なロックサウンドである「WateR」と、70年代を思わすファンクなノリとヘビーロックが融合した新たなアプローチである「369-ミロク-」を合体させた状態で届けたそのセンスだ。それは、確実にMUCCというバンドの個性と、MUCCというバンドの“今”をまざまざと見せつけた瞬間であったと言えよう。そして彼らはその流れから、このライブの見せ場へと繋げていったのだ。

 “この日の見せ場”。それは、「メディアの銃声」と「JAPANESE」の流れにあった。彼らは、ミヤの奏でる鍵盤の和音が印象的な「メディアの銃声」から間髪入れずに繋げられた「JAPANESE」で、バックに喪服を纏った生のストリングスを背負い、そこに込めた想いをより深く聴き手に印象づけたのである。“遠くの銃弾なんかより 目の前の事実が真実”と、馬鹿みたいに幸せな日々がシニカルに唄われる「メディアの銃声」と、“見えない世界で繁殖してる 現代病の末裔”と、現代(今)を嘆いた「JAPANESE」。ここに感じる深い共通点は、MUCCというバンドが1番重んじてきたメッセージであると言えるだろう。そんな2曲の流れは、この日のオープニング映像とも深く繋がっているように思えてならなかった。「JAPANESE」を初めて聴いたとき、“この曲は、8年前にリリースされた「メディアの銃声」の2014年バージョンである”と感じたことを思い返した。この「JAPANESE」こそ、アルバム『THE END OF THE WORLD』を作り上げていく上で軸になった1曲でもあったのだ。

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 彼らは、ここでしっかりとメッセージを届けると、後半戦は、突き抜けた明るさを持つ「風と太陽」で会場を1つにし、「咆哮」や「Mr.Liar」で攻め立て、そこに更なる一体感を生み出していったのだった。なによりも、後半ブロックでは緊張もほぐれたのか、ライブを純粋に楽しめていたようだったメンバーの姿がとても印象的だった。

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 本編ラストは、アルバムのラストを飾っていた「死んでほしい人」。“『死んでほしい人』なんてこの世界にはいらない言葉”という、逆説的な意味を宿すこの曲は、客席の1人1人に配られたLEDの光に包まれながら届けられたのだった。

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 アンコールでは、「ホムラウタ」をSEにサブステージに登場した4人は、360度オーディエンスに囲まれる形で、“夢烏(ムッカー)にPされるMUCC”ライブを届けたのだった。これは、各メンバーをプロデューサーに置いた、このツアーのEpisode1. 『ムッP LIVES』を再現したモノで、公式にファンたちからリクエストを募り、それを軸にセットリストを組んだというファンサービス企画でもあったのだ。故に、「オルゴォル」「空と糸」「ホリゾント」「流星」「大嫌い」などの旧曲が中心となった、マニアックな時間となったのだった。

 32回目に応えたアンコールではムックを呼び込み、『SIX NINE WARS-ぼくらの七ヶ月間戦争-』の終戦宣言と表彰式を行い、集まった夢烏とこのツアーの成功を祝ったのだった。

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FUJI TELEVISION KIDS ENTERTAINMENT,INC.

 “終わりからの始まり”が描かれたアルバム『THE END OF THE WORLD』を受け、次のステップに向うための光が描かれていると言っても過言ではないニューシングル『故に、摩天楼』(2014年9月10日リリース)が、最後に届けられたそのとき、MUCCは確実に新たな一歩を踏み出した気がした。本編ラストに浮かび上がったFUTUREの文字にも、誰もが期待を寄せたに違いない。夢狂(ムックルー=ムックのクルー)と共に過ごした日々や、ツアーを振り返った写真と共に映し出されたエンドロールに向かい、あたたかな拍手を贈り続けていた夢烏たち。そこには、さらに強く結ばれた絆が在った。

 2014年9月23日。これまで何の所以もなかったこの日は、MUCCが新たな扉を開いた歴史的瞬間となった。ここから繋がる彼らの未来が、素晴しく輝いてくれることを切に願う。

(文=武市尚子/撮影=Yukihide"JON..."Takimoto、木村泰之)

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