unBORDEヘッド鈴木竜馬氏インタビュー(後編) 「マイノリティに勇気を与える作品を」

141109_unborde_1.jpg

 

 革新的なアーティストを輩出するunBORDEのレーベルヘッド・鈴木竜馬氏へのインタビュー後編。前編「まずはクラスの端っこの子たちに届けたい」では、レーベル運営の理念と方法論について語った。後編では、鈴木氏が実際に手がけたヒット作の事例に加え、海外展開への展望から、音源のサブスクリプション(定額視聴)や大型フェスの今後、さらには音楽の送り手が持つべき挟持について大いに語った。

「大量生産ではなく、カスタムメイドした良いものをひとつずつ作る」

――きゃりーぱみゅぱみゅがそうでしたし、ゲスの極み乙女。がまさに今その過程にいますが、一気に広がってマスに届く瞬間があると思います。それはある程度、準備されているものなのでしょうか。

鈴木:準備してできたら最高ですけれど、正直なところ準備してできることではありません。「これは行くな」という瞬間はありますが、総じてそういうものは肌感でしかないんじゃないかと思います。これは難しいところで、今日もロジカルに知った風なことを言っていますが、僕がこのような場でお話させてもらえる環境にいるのには、運もあるのだと思います。「最後は運」と言ってしまうとリスキーで乱暴な発言ですが、諸先輩を見ていても、世の中で「当たる人」と「当たらない人」がいます。それを乱暴な言い方をすれば「勘」です。勘所はすごく大事なことだと思います。新人との契約も最後は勘で、売れるか売れないか、届くかどうかの判断は最終的には勘でしかありません。否定しているわけではありませんが、景気が良かった時代には、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」をやり過ぎて勘が鈍ってしまったところはあると思います。ただ、夢は見た方がいいというか、シミュレーションはした方がいいですね。

――きゃりーの場合は最初、どのような「勘」が働きましたか。

鈴木:きゃりーちゃんと初めて会ったとき彼女は18歳の高校生で、たまたま街の写真スタジオで紹介してもらって会いました。歌はまだ始めていなかったのですが、当時から絶大な人気を誇っていたブログが滅茶苦茶面白かったことが衝撃でした。携帯で撮っている写真の画角やビデオの撮り方が素晴らしく、ビジュアル的にも面白いことがたくさんできそうだ、と感じました。大切なのは、メジャーでやるにあたって果たして自分が何をしてあげられるのか、ということです。ゲスもそうですが、素材として100点満点だと思います。流通としてはメジャーでやった方が広がるかもしれないけれど、今はそこからディールしても僕らプロがやる必要は何もなくて、100点満点ならインディーのままやればいいんです。ミュージックビデオやプロモーションも含めてその伸びしろ、良いおべべを着せて髪の毛を整えてもっと良い見え方にしてあげたら、その子たちがもっと世の中の人に届いてスターにしてあげられるのかどうか、ということが最終ディールで、その夢の見方は勘でしかありません。でも、勘が間違っていなかった時にグッと行けるかどうか、ということは確かにヒットの瞬間にあります。きゃりーは一発目から来ると思っていましたが、ノッた時にどこまでノリきれるかは、手を休めないことです。

――なるほど。ヒットを生み出す実行段階では、様々なクリエイターや企業との協業も重要となりますね。

鈴木:相性が良いということは大事です。RIP SLYMEで培ったことは、稀代のクリエイターの箭内道彦さん然り、電通の澤本(嘉光)さん然り、その他にも本当に沢山の方々にお世話になって来ましたが、常にそのときにイケてるクリエイターの人たちにアプローチをして、その音楽を世の中に届けるお手伝いをしてもらうためのタイアップをすると言う手法です。それはレコード会社が、メディアに頼るだけではない、もうひとつのプロモーションとしてできることなんです。きゃりーがデビューする前にも、RIP SLYMEが伸びていった時と同じようなことをやっています。「こんなに面白い子なので、是非企業とのマッチングを」と、大手の広告代理店へのプレゼンテーションを数多く回りました。そうすると、「この子で絵を撮りたい、CMを撮りたい」という声が出てきます。それはいわゆる音楽業界の普通のCDの売り方のテーゼとは違う、アドオンできる要素がありました。運という言葉を危険なので排除するならば、相性の良い企業さんや、クリエイターの方々とのコラボレーションによるタイアップなどで違う訴求のやり方をしていくのは、自分のスタイルとしてやってきているかもしれません。うちのチームは比較的それがうまいですね。

――ゲスの音楽もCMでしたね?

鈴木:そうなんです。キュレーションマガジン「アンテナ」のCMをやらせてもらうという時に、博報堂の岡田文章さんが来てくれて、カメオ出演の話などをしているときに、それを咀嚼して新しい形にすることをうちのA&Rはできたという事です。「ではこの音を貼りましょう」から、ひいては「では今度この監督にうちのミュージックビデオを撮ってもらいましょう」と、良いスパイラルができていくんです。

――先ほどの「勘」という部分に関して、それは磨けるものでしょうか? それとも天性の部分でしょうか?

鈴木:クラスの端っこにいた方がいいかどうかはわかりませんけれど、そこにいた経験からつながっているんだろうな、と思います。自分もそうだし、今いる僕のチームの連中はたいていそこにいたんだと思います。優等生を否定するつもりはありませんが、優等生ではありませんでした。つまり、僕は届けたい先が自分と同じところだからそこの勘所が働く、ということなのだと思います。あと今は一丁前にマネジメントをやっていますが、僕はずっとA&Rでした。だから未だに音やビデオ、クレジットひとつ取っても口を出します。基本的にプロデューサー気質なんだと思います。そういう意味ではunBORDEは僕の勘所で作らせてもらっているので、制作者集団でいたいと思っていますし、良いものを届ける会社でありたいんです。大量生産のクルマではなくて、カスタムメイドした良いものをひとつずつ作っていって、「カッコイイね」と言ってもらえればいいな、と思っています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる