名ドラマー、ジェフ・ポーカロの功績(後編)「小田和正や竹内まりやとの仕事もすごい」

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左から村山貞雄氏、小原由夫氏、山村牧人氏。

 書籍『ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事』(DU BOOKS刊行)をめぐる鼎談の後半。ここからは、本の内容を軸としながら、ジェフ・ポーカロというドラマーがいかなる存在だったのか、三者の言葉から探っていきたい。(大久保徹)

前編【稀代の名ドラマー、ジェフ・ポーカロの参加作をどう味わうか 評論家ら3氏が語り合う

「“一緒に曲を盛り上げようぜ”みたいなオーラを出している」(村山)

――そもそものお話になりますが、みなさんがジェフ・ポーカロにハマったきっかけは?

村山:僕は単純にドラムを叩いていましたから。ジェフのことはTOTOで知って、大学の頃から大好きでしたね。彼の演奏は、フロントマンを盛り立ててあげるような雰囲気を醸し出すじゃないですか? それがすごく素敵で。眉間にシワを寄せて“俺のプレイはどうだ!?”みたいな感じではなくて、むしろ“一緒に曲を盛り上げようぜ”みたいなオーラを出していて、そういうドラマーってあんまりいないなと思ったんです。それが好きになったきっかけでしたね。

小原:僕はもともとTOTOが大好きというわけでもなくて、やっぱり参加ミュージシャンを追いかけるのが昔から好きだったから、「この曲のドラムはスティーヴ・ガッド、こっちはハーヴィー・メイソンで、あれはジェフ・ポーカロだ」っていう感じでした。自分の中に好きなドラマーのスタイルが固まりつつあった中で、裏方的にセッション・ミュージシャンとして参加しているジェフが好きだったんです。この本を書いているときにも、そういうジェフの演奏にいっぱい触れることができて……“これいいなあ”って思っているうちに、もっともっとジェフのことが好きになっていった感じはありますね。そこで、あらためて気がついたのは、歌伴の上手さ。歌の盛り上げ方は本当に上手いなって思いました。

――山村さんはいかがですか?

山村:僕は大学に入ってドラムを始めたとき、先輩に「もっと音楽を聴け」と言われて、ダビングしてもらったテープのひとつが『TOTO Ⅳ〜聖なる剣』だったんです。僕自信は、どちらかというとガッドや神保彰さんが好きだったんですけど――あの当時、ジェフはちょっと地味に感じましたよね?

小原:“俺が俺が!”っていう感じのドラマーじゃないですからね。

山村:ですよね。TOTOの場合、僕は最初(スティーヴ)ルカサーのギターに驚いたんですよ。“ギターってこんなにカッコ良くなってるんだ”という印象がすごくあって、そのバンドのドラマーがジェフ・ポーカロだったという感じでした。ジェフのグルーヴについて注目したのはもう少し後でしたね。今回原稿を書いた中で、リオン・ウェアのアルバム(※5)なんて原稿書きながら、もう痺れちゃうんですよ。“何だ!? このタイム・キープは”っていうね。やっぱりジェフがこれだけ(セッションに)呼ばれる理由を、あらためてつくづく感じさせられました。

(※5)リオン・ウェアのアルバム『Leon Ware』。

村山:スティーヴ・ガッドやハーヴィー・メイソンといったドラマーが、クロスオーヴァー/フュージョン系のすごい人たちと一緒にやっていて、その裏でジェフはシンガーソングライターの人たちとすごいセッションをやっていたんですね。要するに僕らはあまり知らなかったんです。トム・ヤンスのアルバム(※6)で叩いていることなんて、知り得ないわけですよ。この本を読むと“当時はこういうことをやってたのね”ということがわかると思います。

(※6)トム・ヤンスのアルバム『The Eyes Of An Only Child』。

小原:こんな人とやっていたの?という発見は、かなりありましたね。キャロル・ベイヤー・セイガーとか、そういう売れっ子の歌手のバックだったらまだしも、“何でアース・ウィンド&ファイヤーのこの2曲だけに呼ばれてるんだろう?”とかね。考えると不思議なんですよ。

村山:まあ歌伴がすごいというか、そこに真髄があるのかなとは思いますね。

――ジェフの魅力は譜面的にすごいものもたくさんありますが、歌伴のすごさのような部分をうまく言葉にして説明するのは、なかなか難しいですよね。

山村:この本の打ち合わせで最初に会ったときにも、そこを一番に伝えないとヤバいという気持ちが僕の中にあったんです。最初から“ジェフ・ポーカロ最高ですよね! ぜひやりましょう!”という気分には、恐くてなれなかった。

小原:そう、山村さんは「恐い」って言っていたんですよ。「ジェフにはコアなファンがたくさんいるから、すごく慎重に取りかからないといけない仕事だ」と言っていたのは、強く印象に残ってます。“軽い気持ちで始めちゃった俺って何なんだろう?”って思いましたけど(笑)。

山村:それは立場が全然違いますからね(笑)。ファンはもちろんですけれど、僕がドラムに関してやっつけて書いてしまったら、それこそ終わっちゃいますから(笑)。小原さんが書かれているような“このアルバムには誰が参加していて、誰がレコーディングしていて、それでこういうことになっている”という解説は、すごく有効な知識になりますけど、その中のドラム・プレイだけを拾って、“ジェフのハイハットの音はやっぱり最高で〜”とか、“ジェフのタイム・キープが良くて〜”とか、決まったことしか書けなくなる(笑)。だから今回の本では、“ドラマーの視点では、こういうことがすごいんだ”とか、“叩いてみると、実はこういうことが一番難しい”とか、そういう一般リスナーの方に着目してほしいドラマー的知識を織り交ぜていけたらいいなということは話していました。

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