アイドルの「恋愛禁止」は守り続けるべきものなのか?  香月孝史が歴史的経緯を踏まえて提言

 秋元康は、6月13日のTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』に生出演した際、アイドルグループの運営、管理について次のような話をしている。

面白がってこれはこうしよう、あれをこうしようってやる時代は終わりましたよね。いままではマイナスなことや出来事を、ある種の地下アイドルの延長線上として、シャレでやってたところがあるじゃないですか。でもそれがだんだんもう、何をやってもシャレにならなくなってきたところで、それで「万策尽きた」という言葉を使ったんですけども。

 いくらか補足すると、「万策尽きた」という言葉は、およそ2年前の2013年2月23日に同番組に出演した秋元が、いわゆるアイドルの「恋愛禁止ルール」について語る中で漏らしたものだ。当時は、AKB48の峯岸みなみが自身の「恋愛」報道直後に自ら坊主頭にした「事件」が生じたばかりの頃だった。今回、この「万策尽きた」というフレーズが再度呼び出されたのは、放送日の直前に話題になったAKB48メンバーの柏木由紀の「恋愛」報道を受けてのことになる。冒頭に引用した発言は、その柏木の報道について水を向けられた中での言葉であった。峯岸や柏木にまつわるそれらの報道が単なる芸能ニュースにとどまらないのは、いうまでもなく「アイドル」というジャンルにとって、「恋愛」が禁止だと考えられているからだ。そしてこの稿は、「アイドル」というジャンルが抱え込んでいる「恋愛禁止」といういびつな規範について問いを投げようとするものである。

 しかし、「万策尽きた」というフレーズが用いられた2013年の放送時に秋元が語っているのは、実のところ恋愛禁止がAKB48のルール「ではない」ということだった。秋元は、「僕は、恋愛禁止っていうのは、ひとつのネタとしては歌にしたり、ネタとしては「そうだよな、うちは恋愛禁止条例だからな」って言ったりしてるけれど(略)、決して恋愛が禁止なんではなくて」と切り出しつつ、同番組のパーソナリティを務める宇多丸との対話の中で次のように語る。

秋元 たとえば、一番ファンの皆さんがおっしゃるのは、なんでペナルティが違うんだと。
宇多丸 ルールが違うじゃないかっていうのは聞きますね。
秋元 そうそう、一貫してない、と。それは、ルールがないからなんだよね。
宇多丸 そんなものは、本当はないから。
秋元 うん。ルールがないし、ペナルティの規則もないから。

 このあと、秋元はメンバーのそれまでの経緯やキャラクターによって処置を考えるという趣旨の発言をしつつ、そこでどのような処置を考えても「狙っているように思われちゃう」として、そのことを「万策尽き果てたかな」と表現している。つまり冒頭に載せた発言は、「恋愛禁止」を含め、「シャレ」として繰り出してきた「ネタ」が、「ネタ」として許容される限界を超えてきてしまったという秋元の現状認識である。

 しかし、上記したような秋元の発言には、どうしても座りの悪さがともなう。彼が「恋愛禁止」を「シャレ」として認識しようとも、アイドル当人に課されてきたペナルティは現実だからだ。その点に関して秋元は、「メンバーは、どうしたら今まで応援してくださったファンが許してくれるだろうかということを考えるのだと思う」と応答している。つまり秋元は、「恋愛禁止」はアイドルの運営側が絶対的に決定するルールではなく、ファンに求められる規範と、それに対してメンバーがどのように判断するかに依存するものととらえている。これを、彼流のはぐらかしや欺瞞とのみ解釈して話を終わらせることは簡単だ。けれども、「恋愛禁止」という規範そのものの根深さは、ひとり秋元康やAKB48に還元できるものではない。宇多丸が同番組の中で、「恋愛禁止とかそういうアイドルのあり方っていう、80年代半ばからのレギュレーションが2013年に残っちゃってるのがまずちょっと不自然」と指摘していたように、「恋愛禁止」はアイドルというジャンルにとってきわめて古典的な枠である。秋元は数十年来続いていたその「恋愛禁止」という古くからの風潮を参照して、AKB48で「恋愛禁止条例」という「ネタ」を展開した。そう、いま「風潮」という言葉を使ったが、「恋愛禁止」が抱えるやっかいさは、それが特定の人物が取り決めた明確な規則というより、あくまで所在のつきとめがたい「風潮」だという点にある。

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