世界で「金曜日」がアルバムリリース日に デジタル音楽時代を見据えた「業界の変革」とは

 今年7月、音楽の世界業界の歴史が変わる出来事が起こった。

 世界の音楽業界団体を代表する組織「国際レコード産業連盟」(IFPI)が、7月10日から世界45カ国以上で、新アルバムを毎週金曜日に発売する新たなリリース日を設定した。

 「New Music Fridays」と名称されたこの新しいリリース方式は、レコード会社やディストリビューター、小売店など世界中の音楽ビジネス全体に統一のルールを導入し、より多くの音楽ファンに新しい音楽を聴いてもらうために目的で制定された。

 これまでアルバムのリリース日は国によってバラバラだった。例えば、イギリスとフランスでは月曜日、アメリカは火曜日、日本は水曜日、ドイツとオーストラリアは金曜日というように、アルバム・リリース日は国ごとに固定されてきた習慣だった。このため、各国にちらばるレコード会社やディストリビューター、小売店、オンラインショップは、国に沿ったルールに従い音楽販売を行ってきた。

 IFPIはこの業界の決まりを打ち破り、アルバム発売日を世界統一するという斬新な試みを始めたのだった。

金曜日が世界同時リリース日の理由

 「New Music Fridays」が実施に至った理由ははっきりしている。まず、リリース日の「ズレ」を減らすことで、新しい音楽が違法サイトにアップされることを防ぐことができる。これまでのように国によってリリース日が違えば、他の国でリリースされた時にはすでに違法ダウンロードサイトに音源がアップされ、ビジネスとして売上にダメージを受けることが問題視されてきた。リリース日を統一すれば、違法サイトにアップされることも減り、ファンも合法的な音楽が楽しめる。

 「New Music Fridays」のもう一つのメリットは、アーティストやレコード会社、マネジメントが世界共通のプロモーションやマーケティングを行うことが簡単になることと言える。これまでは発売日が国別に違っていたため、アーティストは国別にファン向けの施策を作り、情報を配信してきた。しかしソーシャルメディアやオンラインメディアが情報発信の中心になった現代において、世界の音楽情報はボーダーレスでファンに伝わっていく。そのため世界に散らばるファンにサブライズ的要素を与えるプロモーションをソーシャルメディアを使って行うことが「New Music Fridays」によって可能になるという利点が生まれる。

 さらに「New Music Fridays」として金曜日が選ばれたのは、消費者の音楽購入が変化してきたことを示している。IFPIは公式サイトで、週末始めの金曜日に最も新リリースを聴きたいと答えたファンが多く存在すること、金曜日がオンラインショッピングに人気の日であること、金曜日はソーシャルメディアが最もアクティブになる日であることを理由に挙げている。

 覚えている人も多いと思うが、ビヨンセが何の前触れもプロモーションも絡ませず、突如iTunesで独占販売したアルバム『Beyoncé』は、2013年12月13日の金曜日0時にビヨンセのInstagramから世界同時に解禁されている。また今年に入って、ラッパーのドレイクがiTunesで独占配信したアルバム『If You're Reading This It's Too Late』も、2015年2月13日の金曜日にドレイクのTwitterを通じて世界同時にリリースされた。

 アルバムのリリース数日間でビヨンセは80万ダウンロード以上、ドレイクは50万ダウンロード以上を記録。2014年11月にはビヨンセのアルバムは世界で売上500万を超える成功を収めている。

 つい先日となる8月7日にも、ドクター・ドレーが新アルバム『Compton』をApple Musicで独占配信し、日本のiTunesアルバムチャートでも1位を獲得した。今後も同様のケースでアルバムを世界同時配信するアーティストが増えつづけるはずだ。

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