ミオヤマザキが新曲18曲+2曲を一挙配信するワケ その“突飛な活動”の背景にある本質とは?

ミオヤマザキ、サブスク企画の意図

 昔話をしよう。29年前の1986年。レコードが音楽を聴くメディアで中心だった頃、氷室京介と布袋寅泰が出会って結成されたBOØWYというロックバンドがアルバム『JUST A HERO』でブレイクへのきっかけを掴んだ。当時、すでに次世代メディアとしてCDもリリースされており、CDには「PLASTIC OCEAN」なる全編英語のニューウェーブ色の強い遊び心ある1曲が追加収録されていた。これは、CDを普及したかったレコード会社がとった戦略のひとつだったといわれている。
 
 時は変わり2015年夏、AWA、LINE MUSIC、Apple Musc、Google Play Musicなど、聴き放題型 定額制音楽配信サービスがスタートした。月額、定額の使用料を支払うことでたくさんの曲が聴き放題となる音楽リスナーにとっての夢のサービス。これらサービスは、聴かれた回数分、アーティストには楽曲使用料が分配されるのだという。

 こういった聴き放題サービスは、大御所アーティストにとっては人気曲の再活用に繋がるのでいいだろう。しかし、新人アーティストにとっては、新作CDをリリースすると同時に定額で聴き放題となってしまうという事実は、気軽さで聴かれるチャンスこそ広がるが、その分、実入りの良いCDセールスの減少を考えると、ジレンマを感じる面もあるかもしれない。

 そんななか注目したいのが、聴き放題型 定額制音楽配信サービスを逆手に取ったアクションをとる4人組ロックバンド、ミオヤマザキだ。9月30日に、聴き放題型 定額制音楽配信サービスに新曲18曲をアップすることを発表した。さらに、10月30日にも2曲をアップするという。計20曲の新曲を、CD化するより前にパッケージではなく聴き放題型定額制音楽配信サービスで配信限定でリリースするという試みに注目が集まっている。

 これら楽曲はミオヤマザキが、EPIC Records Japanのメジャーデビュー前よりYouTube上で発表していた人気デモ音源を含んでいる。いわば、“ミオラー”と呼ばれるミオヤマザキの熱狂的なファンにとっては待望の音源化となる。大御所アーティストに比べ、新人が聴き放題型 定額制音楽配信サービスで印象に残りづらいのであれば、楽曲のクオリティはもちろん、話題性と曲数で勝負というワケだ。

 新曲として届いた20曲。なかでも、婚活に悩むアラサー女子を煽りながらもポップなロックチューンに仕上げた「婚活ハンター」。そして、不倫をテーマにしながらも疾走感溢れるカタルシスあるナンバー「ズルい人」。「私の彼」におけるミステリー調にポエトリーディングで紡ぎ出される、彼の不倫生活を暴く究極のラブソング。さらに、「ラインぼっち」や「童貞ハンター」で描き出す、人とのコミュニケーションの本質をあぶり出す、リアルな感情、心模様、あるあるな物語性の説得力ある面白さ&痛さというストーリーテイリングの妙。

 ミオヤマザキが描き出すポップミュージックを、良識あるオトナの中には“下品”と顔をしかめる諸先輩方も多いかもしれない。しかし、20代人間関係の本質をむき出しの刃のように鋭く切り取る視点の鋭さ、日本オリジナルなJ-POP王道の歴史を継承したエンタメ感といった魅力。ミオヤマザキの才気あふれるロックサウンドが描き出す“ポップセンス”は、1982年、それこそ音楽評論家が一切評価することのなかった無名時代のBOØWYが1stアルバム『MORAL』で“人の不幸は大好きサ”とアイロニーを込めて表現していた、初期衝動の継承のようにも感じる。もちろん現在20代であるミオヤマザキのメンバーはそんなこと一切考えていないだろうが……。

 ミオヤマザキはこれまで、自己のプロモーションのために企画した300万ダウンロードを記録したゲームアプリ『マヂヤミ彼女』の制作、セクシー女優の有村千佳が参加したゲーム風ミュージックビデオ「民法第709条」など、従来の音楽業界のプロモーションとは一線を画した、アーティストのブランディングを打ち出す、画期的なマーケティングを実施してきた。

 国内主要プロダクションが所属する、一般社団法人 日本音楽制作者連盟が発行しているフリーマガジン『音楽主義』での取材で、ミオヤマザキが所属しているプロダクションTOIL&MOILの20代社長、岩崎氏はこう語っている。希代のパンクバンド、セックス・ピストルズには名物マネージャー、マルコム・マクラーレンがいたように、ミオヤマザキには岩崎氏がいるというワケだ。

「愚痴みたいになりますけど、この業界って、どのアーティストに対しても同じプロモーションを当て込むことが多いじゃないですか? 何でも塩かければっていうか。でも、砂糖が必要なのか、胡椒が必要なのかってそれぞれ違うと思うんです。でも今は、音楽業界自体は成熟しているので、ラジオやCSでパワープレイ取りました、フェスのオープニングに出ました、これ以外にお金をかけられるアウトソースが無いんですね。しかも音楽番組も減って、CDが売れないという……。こんな時代でもアーティストごとに施策は違うと思うんです。地道な積み重ねなんですけどね。」(音楽主義 No.72より抜粋)
http://www.nexus-web.net/

 CDセールスが落ち込み、聴き放題型 定額制音楽配信サービスがはじまった音楽シーンの過渡期といわれる現在。待望されている、いまの時代に合う新しい音楽の楽しみ方は、新しいメディアと新しいアーティストの登場によって加速していくのだろう。ミオヤマザキの“本質を貫きながらの突飛な活動”から目が離せない。

(文=ふくりゅう(音楽コンシェルジュ/Twitter))

■ライブ情報
「ミオフェス」
9月30日(水) 代官山UNIT
出演者:ミオヤマザキ /SuG/BiSH

「ミオフェス 大阪編」
11月1日(日) 阿倍野ROCKTOWN

ミオヤマザキ ワンマンTOUR 2015『たった2、300人のライブハウスで歌ってる今の私達に何が出来るのか』
10月31日(土) 阿倍野ROCKTOWN 
11月13日(金) 札幌DUCE
11月29日(日) 仙台 PARK SQUARE
12月5日(土) 名古屋 LIVE HALL M.I.D
12月13日(日) 柏PALOOZA

ミオヤマザキ ワンマンスレTOUR 2015 SEMIFINAL『たった4、500人のライブハウスで歌ってる今の私達に何が出来るのか』
1月10日(日) TSUTAYA O-West

ミオヤマザキ オフィシャルサイト
オフィシャルtwitter 
オフィシャルfacebook
オフィシャルブログ

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