“古都のドブネズミ”ROTTENGRAFFTYが、メジャー最新作で提示したドラマティックな生き様

 古都のドブネズミ、とは前々からROTTENGRAFFTYを指す言葉だ。どんなイベントも盛り上げる起爆剤的なパフォーマンスや、幅広いジャンルに及ぶ交友関係など、華やかな彼らのイメージしかない人には意外な呼び名かもしれないが、彼らはまさに、曲がりくねった道を、泥水を被りながら突き進んできたバンドなのである。

 京都で結成されてから、インディもメジャーも関係なく様々なレーベルを渡り歩き、音楽性も様々なジャンルを吸収し、それでもオリジナルメンバーは揺らぐことなく、「結局ロットンって何者なんだ?」という問いに、自ら挑み続けた16年。その結果、「名前は知ってる!」や「対バンやフェスで見たことはある!」という人だけではなく、ここ数年で、ぐっと「ロットンが好きだ!」という熱い人を急増させたのだ。そしてこのたび、Dragon AshやサカナクションやTHE BAWDIES、若手ではKEYTALKやキュウソネコカミといった刺激的なロックバンドが名を連ねている、ビクターエンタテインメント内のGetting Betterに移籍し、ニューミニアルバム『Life Is Beautiful』をリリースすることとなった。その理由は、これまで積み重ねてきたことが花開いたとも、やっと彼らの状況が整ったとも言えると思うけれど、“時代が一回りして、彼らにフィットしたから”というところも大きいと、『Life Is Beautiful』を聴いて思った。

 『Life Is Beautiful』は、6曲入りというコンパクトさがピッタリな、一曲一曲がシングルのように個性が立った仕上がりだ。そして、前述した「結局ロットンって何者なんだ?」という問いに「あれもこれもロットンや!」と潔く答えを出したかのように、様々な音色やジャンルが詰め込まれている。特に1曲目の「Life is Beautiful」。ドラマティックなイントロから、レゲエ、エレクトロ、ラップ、女性の会話、ライブの掛け合いが見えるフレーズ、などなどめくるめいていき、切ないメロディが炸裂するサビで沸点を迎える。次々と聴きどころが訪れるので、ぼんやりとする瞬間は皆無。想像するに、いくら何でも忙しなさ過ぎるだろう、メジャー移籍なのだからもっとスッキリさせればよかったじゃないか、といった意見もあるだろう。でも、彼らは混沌をポップにまとめ上げてきたバンドであり、こういったタイミングで、それを誠実に出さずにはいられなかったのだと思う。

 毎年6月10日をロットンの日として祝っていることからもわかるように、節目や縁を大切にしている彼らは、敢えて言うなら“ドラマティック・ミクスチャー”とカテゴライズしたくなるくらい、ドラマを大切にするバンドだ。こういったキャラクターは、ちょっと前の時代なら「クサい」と引いて見られていたかもしれない。音楽性で言っても、今作の中にはビートパンクを髣髴とさせる「ベタ過ぎるだろ!」と突っ込まれていたようなフレーズが盛り込まれている。しかし、今、彼らのキャラクターや音楽性は、若いキッズに大いに受け入れられている。ロットンのメンバーの世代が少なからず影響を受けた、猫も杓子も熱狂したバンドブームの時代から、冷めて独自性や技巧を追い求めた時代を経て、素直に“ライブ”という現場に焦点が当たる時代となった今。時代が一回りして、彼らのようにストレートに汗も涙も露わにするバンドが新鮮に映るようになったことと、昔も今もライブ至上主義を貫いている彼らのスタイルが実を結んだことが、よくわかる。

 彼らの代表曲『響く都』は、京都のことが歌われているが、単なる地元愛の歌には収まらないものがある。この曲は、ライブで何年もオーディエンスを巻き込み続け、全国各地を“響く都”へと変えてきたのだ。目の前のオーディエンスが多かろうが少なかろうが、冷めた目をしていようが、下を向いていようが、お構いなしでぐいぐいと前のめりに歌い鳴らし、ラストナンバーの頃には一体感が生まれていた光景を、私も何度か目にしている。紆余曲折の歴史と数え切れないほどのステージで培われてきた彼らのハートの強さは、半端なものではない。何を信じていいのかよくわからない時代に、彼らのような頼れるアニキに引っ張っていってほしいと思う人が増えるのは必然だ。

 今作に収録されている『アンスキニー・バップ』では、スカダンスが似合うビートと、甘酸っぱいメロディで、底抜けに明るくこう歌われる。《Everybody Hey Men!/ちょいダサくてもBaby!/カッコつけてけYeah Yeah! 関係ねーぜ》、《どんな時も笑顔でいれるあいつも/飾らないお前もスーパースター》――わかりやすいけれど、本当に彼ららしい歌詞だと思う。いつまでもオーディエンスと同じ目線だからこそ、そして様々な闇を突き抜けたからこそ歌える言葉が、ここにある。彼らはこれからも、所謂メジャーらしい、シンプルでポップな方向性には留まらないと思う。とびっきりドラマティックな生き様を楽曲とライブに落とし込んで、もっともっと広めて、もっともっとたくさんの人を引っ張っていくことを、期待してならない。

■高橋美穂
仙台市出身のライター。㈱ロッキング・オンにて、ロッキング・オン・ジャパンやロック・イン・ジャパン・フェスティバルに携わった後、独立。音楽誌、音楽サイトを中心に、ライヴハウス育ちのアンテナを生かしてバンドを追い掛け続けている。一児の母。

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