ゆるめるモ!の新作は異端にして剛速球ーー狂気と優しさが同居する完全自主制作盤を読み解く

宗像明将のゆるめるモ!新作レビュー

 ゆるめるモ!は、セカンド・フル・アルバム『YOU ARE THE WORLD』によって、プロデューサーの田家大知が理想とするゆるめるモ!の姿へとまた確実に近づいた。アイドルというプラットフォームを最大限に利用した、限りなく狂気に近い音楽的な冒険が行われ、同時に歌詞には弱者への優しさがある。狂気と優しさが同居する特異な世界が、ゆるめるモ!というグループを形成している。

 『YOU ARE THE WORLD』についての情報を見たとき、まず目を引いたのは新曲の作家陣だ。シングル『Hamidasumo!』も手掛けたPOLYSICSのハヤシヒロユキに加えて、新たに中村弘二、後藤まりこが参加している。全員ソニーに所属したことがある、あるいは所属しているアーティストだ。いわゆるロキノン層へのアプローチを強めるのだろうか……とも軽く懸念した。なぜなら、「自殺するぐらいなら逃げてもいい」というメッセージを掲げた「逃げろ!!」を代表曲とするゆるめるモ!のような「ゆるい」グループと、ロキノン層はどのぐらい親和性があるのだろうかと考えたからだ。しかし、実際に『YOU ARE THE WORLD』を聴いてみると、そこにあるのは安易な「激しさ」とはまた異なるものだった。外部の作家の起用がアルバムの統一感を損なう事例も多いが、『YOU ARE THE WORLD』では音楽的な幅とゆるめるモ!的な世界観が同時に拡張されている。

 冒頭の「モモモモモモ!世世世世世世!」はアブストラクト・テクノのようなイントロから始まり、和風のメロディーが歌われだすという、曲名通りに奇天烈な楽曲だ。しかし、楽曲の情報量が異常に多いものの、サビはキャッチーで、これはゆるめるモ!の楽曲の多くに共通する特徴である。

 イントロがいきなりヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」へのオマージュであるのが2曲目の「転がれ!!」。「逃げろ!!」や「生きろ!!」に続く命令形シリーズの曲名だが、まったく押しつけがましくないのは、“ほぼ専属作詞家”である小林愛が描くのが心の弱さとそれゆえの葛藤であるからだ。

 3曲目の「Hamidasumo!」と6曲目の「不意打て!!」は、POLYSICSのハヤシヒロユキが作詞作曲編曲した楽曲。2015年3月にシングルでリリースされた「Hamidasumo!」は、オリコンデイリーシングルランキングで13位を獲得した。「不意打て!!」はこのアルバムへの新曲。この2曲に共通しているのは、MIXもケチャもできない楽曲構成で、アイドル楽曲の定型的なフォーマットから完全に外れている点だ。「Hamidasumo!」をシングルにして勝負に出たのは大胆だったし、「不意打て!!」ではリズムの軽さに意表を突かれた。“ニュー・ウェーブ・アイドル”を標榜するゆるめるモ!の面目約如である。

ゆるめるモ! "Hamidasumo!" (Official Music Video)

 4曲目の「1!2!かんふー!」と5曲目の「難」はともに「Hamidasumo!」のカップリング曲。「1!2!かんふー!」は、田家大知と松坂康司というゆるめるモ!の中核チームが作曲した、中華テイストの楽曲。「難」は、<受難UP TO 楽しい兆しだ>という小林愛ならではの言語感覚によるパンチラインが何度聴いても強烈だ。

ゆるめるモ! "1!2!かんふー!" (Official Music Video)

 2014年の大晦日にリリースされた『SUImin CIty Destroyer』からは、「眠たいCITY vs 読書日記」「波がない日」「NNN」の3曲が収録されている。『SUImin CIty Destroyer』は、リリース当時に私が田家大知に「さすがにやりすぎでは」と言ってしまった問題作である。特に7曲目に置かれた「眠たいCITY vs 読書日記」は、ライブで何度聴いても「変な曲だなぁ」と感じてしまう怪曲だ。バクパイプのような音色で始まるこの楽曲は、Aメロ、Bメロ、サビといった一般的なJ-POPの構成ではなく複雑だ。同じく『SUImin CIty Destroyer』収録曲だった8曲目の「波がない日」は、ダブステップも仕込まれたエレクトロ・ナンバー。

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