あえて映像とは異なる音楽を流すことも? 『新世紀エヴァンゲリオン』などの「劇伴」手法を解説

 映画、テレビドラマ、アニメーション、アニメーション映画などの「劇が存在する映像作品」で流れる背景音楽、いわゆる「劇伴」には、様々な役割がある。

 前回はそのなかでも“繰り返し”の多さについて言及したが(参考:【映画やドラマで流れる「劇伴」はなぜ“繰り返し”が多い?『タイタニック』などのヒット作から解説】)、今回は“映像作品の視聴者に感情移入をさせる役割”という基本的なことについて深堀りしたい。

 “映像作品の視聴者に感情移入をさせる役割”とは、恋愛映画を見た女性が、少し浮足立った気分で出てきたり、家族についての映画を見た人が目を潤ませたり、任侠映画を見た男性が、肩で風を切ってでてくるなど、行動になって現れるくらいの感情移入を補佐することにある。

 感情移入を狙った劇伴としては、「悲しい」「楽しい」などの日常のシーンで比較的起こりやすい感情を劇伴で表現する場合や、「驚愕」「恐怖」などのある種特別な時に起こる感情を劇伴で表現する場合など様々である。

 「悲しい」「楽しい」といった感情を表現する際は、その雰囲気を出すためにコード進行などを工夫することは作曲をする段階で当然行われるが、別の有効な手法として「主観的な時間感覚に基づいて作曲をする」というテクニックがある。悲しい時は時間が過ぎるのが遅く感じたり、楽しい時には時間が過ぎるのが速く感じる、などといった経験はあなたにもあるはずだ。つまり、悲しさを楽曲で表現したい場合はテンポの遅い楽曲にし、楽しさを表現したい場合はテンポの速い楽曲にすることで、意図した雰囲気を聴衆が感じやすくなる。これは全てに当てはまるわけではないが、多くの感情を表現する劇伴は主観的な時間感覚に基づいて作曲されている。

 また「驚愕」「恐怖」を表現する際に多く用いられるのが「無調音楽」である。無調音楽は、はっきりとしたハーモニーの進行やメロディをもたないために奇怪な雰囲気などを表現するのに適しており、実際にも「エイリアン」などを始めとするSFホラー映画の劇伴では無調音楽が数多く使用されている。さらに、これらの感情表現に有効な楽器の奏法も数多く、例えば、ヴァイオリンをはじめとする弦楽器で同一音を弓で細かく刻む「トレモロ」といった奏法(You Tubeによる動画例)や、「弱音器」をつけて演奏する弦楽器のサウンド(You Tubeによる動画例)などは緊迫した雰囲気を表現する際にもよく用いられ、無調音楽と同じくSFホラー映画の劇伴で少なくない。

 これらのテクニックなどを幅広く用いて感情を効果的に表現した結果、映像作品の視聴者による上記のような行動につながることがある。

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