Silent Sirenのライブはなぜ「楽しい」のか “覚悟”と“挑戦”のステージから魅力を読み解く

Silent Sirenのライブはなぜ「楽しい」?

 Silent Sirenの4枚目となるアルバム『S』が2016年3月2日にリリースされる。「ハピマリ」「八月の夜」「alarm」といったシングル、フジテレビ系スペシャルドラマ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のエンディングテーマになったZONEのカバー「secret base~君がくれたもの~」をはじめ、ならんだ収録曲タイトルを見ると、すぅ(Vo.&Gt.)の名字でもある「吉田さん」も気になるところだが、現時点で注目すべきは先日YouTubeで公開されたリードトラック「チェリボム」の破壊力だ。

 軽快なロックサウンドに、オールドスクールなアメリカンポップステイスト溢れるメロディーと、乙女チックな歌詞が躍る、どこをどう切ってもポップとキャッチーしか存在しない破壊力を持った一曲に仕上がっている。カラフルでコミカルなパーティー仕立てのミュージックビデオもサイサイワールド全快であり、一切隙のない、まさにサイサイにしかできない悩殺キラーチューンである。

「チェリボム」MUSIC VIDEO full ver.

 昨年12月に行われた<年末スペシャルライブ 覚悟と挑戦>にてライブ初披露されたこの楽曲は、先立ってメンバーによる振付指導動画が公開され、ひとつの目玉にもなっていた。

 名古屋、大阪と続いた<覚悟と挑戦>は2015年12月30日、東京体育館でファイナルを迎え、1月の日本武道館公演からスタートしたSilent Sirenの2015年はこの日、幕を閉じた。2015年は「覚悟」の年、2016年は「挑戦」の年──。バンドとして進化した姿を見せつけ、2016年へのあらたな「挑戦」へと向かう決意表明にもなった夜であった。

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サイサイの「覚悟」と「挑戦」を目撃した、<覚悟と挑戦>東京公演

 道着袴姿の4人による大筆書道のオープニングVTR。各々が「覚」「悟」「挑」「戦」と、一文字ずつしたためると、祭囃子のリズムが激しく打ち鳴らされる。「ワン!ツー!ワンツー、さんし!」繰り返される、すぅ(Vo.&Gt.)の掛け声に導かれて湧き上がる8000人の「わっしょい!ワッショイ!」。それが最高潮に達したのを制するように、「サイサイのサイは祭のサイじゃぁぁぁぁーーーー!」と、すぅの高らかな叫びが響き渡った。年も押し迫るこの日、真冬のお祭り騒ぎさながら「What Show it?」でライブの口火は切られた。紗幕が降りると、上手側から、ゆかるん(Key.)、すぅ、ひなんちゅ(Dr.)、あいにゃん(Ba.)、着物を基調とした衣装を纏った4人が横一列に並んでいる。ドラマーがステージ後方に陣取る場位置、ボーカリストがフロントマン、といった通常のロックバンドの常識など、彼女たちには通用しない。

 4人がそれぞれのカリスマ性を放ち、全員がフロントに立てることが最大の武器でもある。観ている側も「席によってはドラマーがまったく見えない」というありがちなことも極力回避されるわけだ。音響のモニター環境やメンバー同士の視覚的に生み出されるアンサンブルを考えれば、決して演奏しやすいフォーメーションではないはず。だが、そこを犠牲にしてまで「見せる」ことに徹することもサイサイならではの特異性だろう。畳み掛けるリズムの上を滑るように言葉遊びが転がって行く「八月の夜」になだれ込み、ステージ後方に映し出されるミュージックビデオがステージ上の一直線のフォーメーションにシンクロしていく。間髪入れず、キラキラなサイサイ節全快の「BANG!BANG!BANG!」へ。のっけから“夏”のアッパーチューンの応酬だ。

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 凛々しくしなやかながらもライブのテンションを捲し立てていくひなんちゅのビート、外国人ベーシストのごとく上半身でリズムを取り、うねりを上げるあいにゃんのグルーヴ、オーディエンスの熱気を高く挙げた左手で掌り、ほとんど手元を見ずにきらびやかなサウンドを添えて行くゆかるん、感情をギターのストロークに委ねながら折々の表情を魅せていくすぅの歌。4人が紡ぎ出す音は今年1月の武道館のときとは明らかに変わっていた。音が太い。ひなんちゅがツインペダルを導入したとか、すぅが新しいジャズマスターに換えただとか、そんな機材的な部分ではない。武道館、海外公演、フェス&イベント出演……2015年の数多くの活動が音に集約されている、とでもいうべきものであり、積み重ねてきた確固たる自信が強靭な音となって自然とはじき出されている。

 そして、これまでサイサイのライブをサポートしてきた“みっちー”(Gt. / ミチルロンド-michirurondo-)の姿はない。ツイン・ギター編成からの変革は、ライブにおけるアレンジ&サウンドの完成度という面では粗削りな部分を感じるところもあったが、それは良い意味でのロックバンドの持つ荒々しさでもあり、演奏する姿に悠々とした余裕が滲み出ている。何よりも4人の結束と覚悟が、より強固なものになって“音”と“姿”に現れていたことは言うまでもあるまい。

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