人間椅子、王道ライブの中に見せた新しさ 兵庫慎司がその変化のプロセスを探る

人間椅子がライブで見せた新しさ

 人間椅子がニューアルバム『怪談 そして死とエロス』のリリース・ツアー、全15本のファイナルを3月19日(土)赤坂BLITZで迎えた。

160403_ni_w.jpeg
和嶋慎治(vo,g)

 2回のアンコールを含め、全18曲。『怪談 そして死とエロス』の中盤のヤマである「雪女」が1曲目、次は「地獄の球宴」。そして和嶋慎治(vo,g)、「スラッシュみたいにギターがうまくなりたいと思ってレスポールを買いました」というMCをし、ガンズの「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」のあのイントロをちょっと弾いて歓声を浴びてから、5曲目の「三途の川」になだれこむ──と、最新作収録曲を固め打ちする前半戦。

 それ以降も、アルバムのオープニング・チューンでありリード曲である「恐怖の大王」、 鈴木研一(vo,b)の白塗りメイクと「耳なし芳一」「講談」「般若心経」の三つのアイディアが見事に渦巻く「芳一受難」、ナカジマノブ(vo,dr)が曲を書きボーカルをとる(そしてもちろんおなじみ「俺をアニキと呼んでくれー!」コールに続いて突入する)「超能力があったなら」など、『怪談 そして死とエロス』の収録曲を披露。最終的には12曲中8曲が、ここで演奏された。

 演出もステージセットもきわめてシンプル、というか照明以外は「ないに等しい」状態。ただただ歌と演奏の力で超満員のオーディエンスを揺らし、歌わせ、拳を突き上げさせていく時間。という意味では、いつもの王道人間椅子のライブだったのだが、ただし。

 ここ数年の人間椅子が、動員にしろ、セールスにしろ、注目度にしろ、評価にしろ、デビュー以来もっともよい状況を迎えている──ということは、以前にも書いた(こちら。 「人間椅子、なぜいま絶頂期? 兵庫慎司がその特異なキャリアを紐解く」)。

 その記事を書いたのは2015年の7月だったが、以降もその勢いは失速していない。たとえば、2015年1月のツアーの東京公演は渋谷公会堂で、ソールドアウトしたが、その後7〜8月に行ったツアーの東京公演は渋谷TSUTAYA O-EASTで、やはりソールドアウト。そして今回の赤坂BLITZも同様で、4月17日EX THEATER ROPPONGIで追加公演も行われる。

 当人たちは「こんなにたくさん来てもらえてうれしい」「このツアー、小さなライブハウスを回ってきたからこんな大きな会場は慣れていない」「『怪談 そして死とエロス』はオリコン初登場22位だった」「これくらいでピークにしときましょうよ(笑)」というような言い方で、この現状に対する喜びを表していた。

 で。この日のライブを観て、『怪談 そして死とエロス』は、やはり、これまでのアルバムとは異なる作品なんだな、と、改めて実感した。

160403_ni_sk.jpeg
鈴木研一(vo,b)

 2013年頃から、若い人たちが聴いてくれている手応えを感じながら活動を続けてきた。2015年に二度目の『OZZFEST』に出て、また若い人たちに認知してもらえるという予想がついた。そこで作るべきアルバムは、わかりやすくてキャッチーなものだと思った。このアルバムも含めて、人間椅子はずっと同じことを歌っているが、それをわかりにくく表現するのではなくて、届きやすく伝えることを心がけた──というような話を、『怪談 そして死とエロス』リリース時のあちこちのインタビューで、和嶋はしていた。

 各曲の歌詞のモチーフになっているものも(「耳なし芳一」とか「雪女」とか「三途の川」 とか)、アルバム・コンセプトの立て方も、アレンジやレコーディングに関しても、やりたいことをそのまま伝えるためにどこまでおもしろくできるか、わかりやすくできるか、耳にひっかかるフックを多くできるか、ということにトライしているアルバムであることが、ライブで過去の曲たちと同居したことによって浮き彫りになっているように感じた。

 そして、人間椅子は、そのようにわかりやすくなったから売れたのではなく……簡単に「売れた」という言葉を使うと、本人たちに「そこまで売れていませんが」とか言われそうだが、「以前よりも」という意味なので、ここでは使わせてください。つまり、わかりやすくなったから売れたのではなく、売れたからわかりやすくなった、より開かれたアルバムを作った、という順番であることに対して、改めて 「確かになあ」「なるほどなあ」と思った。

160403_ni_n.jpeg
ナカジマノブ(vo,dr)

 ジャケットやMVなどのビジュアルに関しても、ずっと前からこういう昔の日本のおどろおどろしさを表してきた人たちだし、衣裳もこんな感じだったが、ただ、最新作ではそれをよりいっそうわかりやすく打ち出しているようにも思う。

 この日、アンコールで和嶋は「60歳になっても、70歳になっても、命のある限りバンドをやり続ける所存であります!」と宣言していたが、そのためにこういうアルバムを作ることが必要であることを実感したのかもしれない。

 いずれにせよ、これまでと同じだがちょっと違う、何か新しい感触が伝わってくるステージだった。

160403_ni_5.jpeg

 

(文=兵庫慎司/写真=ほりたよしか)

・セットリスト
1.雪女
2.地獄の球宴
3.眠り男
4.遺言状放送
5.三途の川
6.マダム・エドワルダ
7.恐怖の大王
8.芳一受難
9.黒百合日記
10.冥土喫茶
11.黒猫
12.超能力があったなら
13.人生万歳
14.人面瘡
15.針の山
アンコール
16.新調きゅらきゅきゅ節
17.地獄
アンコール2
18.なまはげ
※『怪談 そして死とエロス』からは8曲。

■オフィシャルサイト
http://ningen-isu.com/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる