金子ノブアキが考える、曲の空気感を表現する方法「音がないところにこそ音楽は宿る」

金子ノブアキ、曲の空気感を表現する方法

 金子ノブアキが通算3作目となるソロアルバム『Fauve』をリリースした。本作には、2015年からスタートさせたソロライブでのギタリストにして旧知の仲のPABLO(Pay money To my Pain)や、過去のソロ作でも活動をともにしたマニピュレーター/シンセサイザーの草間敬が制作に参加。野獣を意味するアルバムタイトル通り、野性味あふれるドラミングと同時に、浮遊感の強いサウンド&ボーカルが魅力の楽曲が並ぶ。またアルバムアートワークの独自性や印象的な映像が目を惹くリード曲「Take me home」のミュージックビデオなど、ヴィジュアル面においても彼の強いこだわりが貫かれている。

 RIZEやAA=での活動、また俳優としての活動とも一線を画するこのソロプロジェクトで、彼は何を表現しようとしたのか。そして昨年ついに実施された初のソロライブで得たものとは。熱のこもった言葉で、じっくり説明してくれた。(西廣智一)

「精神性を共有できるPABLO以外は考えられない」

金子ノブアキ 「Take me home」

──ニューアルバム『Fauve』は前作『Historia』(2014年2月発売)から2年ぶり。1枚目『オルカ』(2009年7月発売)と2枚目の間が結構空いたので、今回は間隔がかなり短いなと感じました。

金子ノブアキ(以下、金子):そうなんですよね。前作のときは4年半ぐらい空いちゃって、自分でもビックリしたんですけど。僕のソロプロジェクトはもともと、劇盤を作ったのがきっかけで始まったんです。そして機を同じくして、芸能界で役者の仕事にも復帰し始めて。しかもRIZEがあって、AA=というプロジェクトにも立ち上げから参加して……全部同時進行だったので、完成したときには4年半経っていたという、本当にシンプルな話で。今回の新作が前作から2年で完成したというのは、単純に制作のスピードが上がったというのと、今のスタンスに自分が慣れたからだと思うんです。

──なるほど。

金子:あとは、自宅の作業環境を充実させたことも大きいかな。エンジニアさんとやり取りするときに、さらに踏み込んだところまで共有したいということで、ソフトもPCも全部一新して。ちょうど2年前、前作を作り終えたぐらいから『Ableton Live』を使うようになったんです。だから草間さんともお互い在宅でやり取りをして、ボーカルとドラムとPABLOのギターを録るときだけスタジオで作業するという。

──そうだったんですね。そんな中、昨年4月にはソロとして初ライブを敢行。その合間にも新曲の配信やツアーなどもあったので、特にこの1年の流れはすごく早かったなという気がします。

金子:やっぱりライブをやり始めたのが一番大きくて。以前からアルバム2枚作り終えるまではライブをするつもりはなかったので、そういう意味ではこの1年である種後戻りはできない状態にはなったのかも(笑)。今は地上に降り立って戦ってるみたいな状態になってるわけだから、それは劇的な変化ですよね。そもそもライブのスタイルも、前作のミュージックビデオ(「Historia」)を撮ったときに、ピアニストみたいにお客さんから見たら横向きでドラムを叩いたのがきっかけ。そこから草間さんと2人だけでやる話もあったんですけど、せっかくだったらもうひとりいるとより面白くなるんじゃないかってことで、精神性を共有できるPABLO以外は考えられないなと思い声をかけました。PABLOは本当に素晴らしいプレイヤーだし、同時にプロデューサーでもあるから俯瞰して物事を考えるんです。草間さんもそうなんですけど、我々のチームにはそういう人種が集まっていて、肉弾戦なんだけど超合理的に進めていくのが僕の性にも合っていて。それでライブもスムーズにやれて、ツアーをやってイベントにも出て、アルバムを作りました。

「今までやってきたことをここに全部置いていこう」

──今作の全体像がなんとなく見えてきたのは、どのタイミングでしたか?

金子:全体像がはっきりしてきたのは、昨年10月に「LOBO」を配信でリリースしたあたりですかね。あの曲を作ったことで、次のアルバムはこういう雰囲気が非常に大事になってくるだろうなって。あとは「blanca」というアンビエントな曲(ライブフォトアルバム『20150423』付属CDにて初収録)の存在も大きかったと思います。こっちはアルバムに入れるにあたって、長尺に作り直していて。この2曲をアルバムの真ん中に置くことで、全体像がはっきりしたところはありますね。

──今回のアルバムですが、ライブを重ねたことで今まで以上にバンド感、生感が強くなった気がします。

金子:関わる人数が増えたぶん、強くなりましたよね。前作まではドラムも含めてハウススタジオで超ミニマルに作る現代的な手法を売りにしてたんだけど、今作はライブを前提に考えつつ、在宅での頭脳労働とハウススタジオでの肉体労働というふうに、極端に分けた作り方をしました。なのでハウススタジオで録るときは、満ち満ちとした爆発感やエネルギーみたいなものがより強まるんです。

──そこが圧倒的な違いだと。

金子:はい。1stは言ってしまえば実験作だし、何ができるかってところから作り始めた。そして2ndではミニマルな環境で自分ができることを追求した。でもソロライブをやったことがないという弱点もあったので、3rdではそこを補完した。3枚作ったことで、ようやくひとつのサイクルができたかなと思うんです。僕がこれまで関わってきたバンドやプロジェクトも全部、偶然とは思えないくらいに3枚でひとつのサイクルになることが多くて。そういう意味では今作が区切りになるから、今までやってきたことをここに全部置いていこうと、制作の初期段階から言ってましたね。

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