鬼龍院翔が語る、V系への目覚め「中2の頃に“音楽性の高さ”でハマった」

鬼龍院翔が語る、中2の音楽ルーツ

 80年代半ばのV系黎明期より、誰よりも近い距離でシーンのアーティストを見つめてきた音楽評論家・市川哲史による書籍『逆襲の〈ヴィジュアル系〉-ヤンキーからオタクに受け継がれたもの-』が、8月5日に発売される。X JAPAN、LUNA SEA、GLAY、PIERROT、Acid Black Cherry……日本独自の音楽カルチャー〈V系〉を築いてきた彼らの《伝説》を振り返りながら、ヤンキー文化からオタク文化へと受け継がれたその《美意識》の正体に迫った一冊だ。

 ゴールデンボンバー・鬼龍院翔の録り下ろしロング・インタビューほか、狂乱のルナフェス・レポ、YOSHIKI伝説、次世代V系ライターとのネオV系考察、hideに捧ぐ著者入魂のエッセイなどなど、痛快な文体と愛情溢れる眼差しで書き切った584頁は、まさに市川哲史の集大成といえる。

 編集を手がけたリアルサウンドでは、本書の発売に先駆けて鬼龍院翔のインタビューの一部を抜粋して掲載。市川哲史が〈V系の最終進化系〉と評したゴールデンボンバーは、どのように生まれたのか。そのルーツとなる、中学生時代の音楽体験に迫る。(編集部)

キリショー少年の〈いとしのGacktさま♡〉

市川:これは世辞でも皮肉でも嫌味でもなんでもなく、12年のゴールデンボンバー“女々しくて”の大ブレイクが、誰もが忘れかけていたV系の記憶を世間に想い出させたと思うんですわ。これは金爆のすばらしい功績だな、と。

鬼龍院:よくも悪くも(照笑)。ウチはV系があっての、それを崩すことを面白可笑しく見せているというバンドなので、やっぱりV系の本当の流れからしたら失礼な因子ではあるんですけども。

市川:うわ、もはや失礼紙一重の徹底的な謙遜ですなぁ。

鬼龍院:いえいえ。僕は元々、本当に好きでMALICE MIZERさんからV系に入って、ずっとGacktさんを神と崇めていて。DIR EN GREYさんも好きですし、とにかく普通にどっぷりハマった中学時代を過ごしてきたので、V系というものが好きなんですよね。

市川:中学時代にマリスにハマったということは――。

鬼龍院:98年に僕は中2という感じで、“月下の夜想曲”でTVに出始めたMALICE MIZERさんを観て、衝撃を受けました。それ以前に何かの音楽にハマっていたというわけでもなかったので、 僕にとっての音楽とは〈V系というもの〉であり、MALICE MIZERだったんですよ。

市川:うわぁ。絶対的なインプリンティングの対象がマリスとは。よりにもよって、またえらく賑やかで濃いものを(苦笑)。

鬼龍院:そうですね。しかも中2ってもう、ハマる速度が物凄いじゃないですか。だからその世界に僕は染められてしまい。そこからV系というジャンルを知って、他の方々の音楽も、MALICE MIZERさんほどクラシカライズしたバンドさんはなかなかいなかったんですけども、DIR EN GREYさんとか他の方々の音楽も聴きました。僕の中学は、給食の時間に“残 -ZAN-”が流れてたので――。

市川:わはは。どんな学校なんだ。

鬼龍院:ディルさんがシングル3枚同時リリースでメジャー・デビューした時ですから、“残 -ZAN-”も“ゆらめき”も“アクロの丘”も流れていて、それでもうクラスの皆――男子も女子も 結構好きという人多かったんですよ。MALICE MIZERさんよりも多かったと思います、ウチの中学。

市川:少年少女の間ではV系が市民権をしっかり獲得していた最後の時代だ、90年代末は。

鬼龍院:もう人気ありましたね、DIR EN GREYさん。

市川:そもそも MALICE MIZERのどこが、いたいけな中2の鬼龍院少年をわし摑みにしたんですか。

鬼龍院:僕は音楽ですね。もちろんそういう多感な時期ですから、普通にポップスを聴いてはいたんですけれども――マリスさんの普通のポップスのアンサンブルとは違う、クラシックの要素としてのアンサンブルが僕にはすごく新鮮だったんです。しかもエレキギターとかがギャン! と鳴っ てるわけでもないし。だから結局、「何だ、これは?」って思ってのめり込んだんですよね。

市川:ああ、あの妙にキッチュなオーケストレイションが癖になる〈バロック歌謡〉にね。

鬼龍院:そうです。そこに歌が載っているというのが、僕はきっと衝撃的だったんですよね。

市川:でもってディルでしょ? あの〈殺伐エンタテインメント〉的な世界観ですか、鬼龍院少年が惹かれたのは。

鬼龍院:バンドのサウンドもゴールデンボンバーで作ってるくらいだから好きですけども、僕はやっぱりポップスが好きで。だからDIR EN GREYさんも、唄物としてもとてもいいメロディだなと感じたので――。僕はV系という世界を知ってしまいましたけど、やっぱり音楽性の高さでハマったんだなと思うんですよね。

市川:V系って基本的に、どんな世界観だろうがスタイルだろうがメロディだけは歌謡曲以上に ポップなんだけども、やはりそれが大きな魅力だったんですかね。

鬼龍院:ええ、かっこいいなと思います。でも激しい音もかっこいいなと憧れの対象になりましたし。それですぐにエレキギターもやっぱり買ったりして。

市川:あ、バンド少年になりましたか、中2で一気にもう。

鬼龍院:なりました。初めて買ったバンドスコアがMALICE MIZERさんのアルバムのなんですよ。でも全然再現できないんですよ、アレ。

市川:……そうだろうなぁ。

鬼龍院:ギター・パートがない曲が沢山あって、何もできない(哀笑)。

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