スピッツ、新作に感じたロックバンドの“醒めない”魅力ーー7月27日発売の注目新譜5選

 その週のリリース作品の中から、押さえておきたい新譜をご紹介する連載「本日、フラゲ日!」。7月27日リリースからは、スピッツ、パスピエ、SKY-HI、安室奈美恵、ジャニーズWESTをピックアップ。ライターの森朋之氏が、それぞれの特徴とともに、楽曲の聴きどころを解説します。(編集部)

スピッツ『醒めない』(AL)

 前作『小さな生き物』(2013年)以来、約3年ぶりのニューアルバム…などという説明がもどかしくなるほどの大傑作である。とにかく1曲目の「醒めない」が素晴らしい。曲が始まった瞬間、フッと身体が浮くような感覚に包まれるバンド・アンサンブル、心地よい推進力を感じさせるバッキングギターと煌びやかなフレーズを放つメインギター、そして、“ロックから受けた衝撃、そこから始まった物語はいまも続いているんだ”という瑞々しいエモーションを響かせるボーカル。ギターロック、ギターポップの魅力をこんなにもダイレクトに体感したのは、本当に久しぶりだ。

 それ自体が奇跡のようだが、バンド結成30周年を目前にしても彼らは、ロックという音楽、バンドというスタイルがもたらすマジックからまったく“醒め(てい)ない”。手段や手法に捉われることなく、激変を続ける音楽シーンにも大して影響されず、曲を作り、ライブを続け、ロックだけがもたらしてくれるはずの魔法を追求する。それを続けること自体が才能だということを、草野マサムネは自らのキャリアのなかで証明している。

スピッツ「醒めない」

パスピエ『永すぎた春/ハイパーリアリスト』(SG)

 現在もっとも高度な音楽性を有するバンドのひとつであるパスピエのニューシングルは、相変わらの素晴らしさ。「永すぎた春」で注目すべきはリズムアンサンブルの豊かさだろう。ドラム、ギター、ベースが異なるテイストのグルーヴを描き、それが有機的に絡むことで生まれるアンサンブルは本当に魅力的だ。また<等身大の自分なんてどこにもいなかった>など、思春期をこじらせているすべての人々にむけた歌詞における冷徹な視線からも、このバンドの知性が感じられる。「ハイパーリアリスト」はファミコンのような音色のシンセから始まる高濃度のポップチューン。クラシック×ニューウェイブというパスピエの基本スタイルがさらに進化したサウンドメイクがまず鮮烈。“未来のある日の皆様へ”“思い出の中の貴方様へ”手紙を書く形式の歌詞はどこか「永すぎた春」のアンサーソング(こちらは“こじらせた”人たちに肯定的)とも言える内容で、聴けば聴くほど深みを増す。随所に様々な仕掛けが施されていて、聴き返すたびに新たな発見がある充実のシングルだ。

パスピエ「永すぎた春」

SKY-HI『ナナイロホリデー』

 2016年1月に発表した2ndアルバム『カタルシス』によってヒップホップ・アーティストとしての評価を絶対的なものにしたSKY-HIのニューシングル。初の全国ホールツアー、喉の手術などのアップダウンを繰り返した末に制作された「ナナイロホリデー」は<歓びにあふれてる>というラインに象徴される、多幸感に満ちたポップ・ダンス・チューン。ここ数年の世界的トレンドのひとつであるソウルミュージックの回帰を視野に入れたEDM経由のディスコティック・トラック、そして、スムース&キャッチーなフロウのバランスを含めて、SKY-HIのポップサイドが強くアピールされた楽曲と言えるだろう。パブリックイメージとの差異や誤解と格闘してきた彼はいま、純粋に自らの音楽を表現できる幸福に身を委ねようとしているのかもしれない。C/Wにはフリースタイルバトルブームの火付け役となった番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)の新エンディングテーマ「Welcome to The Dungeon」を収録。番組のコンセプトに沿いながら、自身のラップ・スキルを鋭利に反映しているところが素晴らしい。

SKY-HI「ナナイロホリデー」

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