WANIMAが目指す場所はもっと広いーージャンルを超えるポテンシャルを石井恵梨子が考察

WANIMAのシーンを超えたポテンシャル

 WANIMAのシングル『JUICE UP!!』がついに発表された。

 前週には『Mステ』に初出演、その前の週には初出演のフジロックでグリーンステージ登場と、もう「話題になること全部やっちゃいました」感すらあるわけだが、これはあくまでパンク/ロックシーンから見れば、という話。彼らが目指すべき場所はもっと広いはずだ。

 そのことを伝えるシングル『JUICE UP!!』を紐解いてみよう。1stアルバム『Are You Coming?』と比べても、これが特別な新機軸だとは思わない。パンクロックの熱量を掻き集めて全力でエールを送る曲、レゲエのノリに乗ってエロを歌う曲、誠実な心をまっすぐに届ける少々フォーキーな歌もの。以上の曲調はすでにWANIMAの必殺パターンとして広く浸透している。財津和夫のカバー「切手のないおくりもの」が加わって、より老若男女に届く可能性が増えたのがトピックとはいえ、タイアップだからと急に佇まいが変わった様子はない。ファンにとっては「おさらい」であり、それ以外のリスナーにとっては「はじめまして」の入門編だろう。

 では、WANIMAの何が「はじめまして」なのか。真正面からエールを送る日本語パンクなら15年前からモンパチがやっているじゃないか、という声も実際にあるだろう。影響があることは本人たちも大いに認めているが、そのまんまでは決してない。これは幸か不幸かわからないのだが、エールをおくる一言を口にする前に、キツイ、ツライ、クルシイの世界を何十周も走り回ってしまう。そんな息苦しい背景がWANIMAサウンドの独自性になっているのだ。これを、「将来に希望が見いだせない若者たちのリアル」だと安易に結びつけてしまうことも、もちろん可能であろう。

 リード曲「ともに」。真夏の太陽のような眩しさを持つこのパンクナンバーは、はっきりいってほとんどが、だけど、それでも、というネガティヴな前置きの連発だ。二度目のサビの手前に〈出会えてよかった ありがとう〉〈この想いよ 届け〉というストレートなメッセージが来るのだが、その言葉が実際に届くだけの力を持つのは、〈どれだけ過去が辛くて暗くても 昨日よりも不安な明日が増えても 悩んだり泣いたりする今日も〉というサビがあるからだ。改めていうが、こちらがサビ。〈出会えてよかった ありがとう〉が何度も繰り返される平和な歌とはまったく違うのだ。大切な一言を伝えるために、まずはありったけの言葉を掻き集めてキツい現状を歌にする。そういうやり方でエールを送るポップパンクを、少なくとも私は初めて聴いた気がする。そういうエールに凄まじい数の若者たちが反応している光景を、今のところダイレクトに目撃している。現在ライブハウスで渦巻いているこの熱量は、テレビを通じてどこまで広がるのだろう。まだまだ未知数だ。

 なお、歌詞だけを取り上げると誤解が生じてしまうのだが、WANIMAの曲は苦しみや悲しみを共有しようとするものではない。こんな世の中はクソ食らえとアウトローを気取るわけでもない。以前それを訊いたところ、KENTAは「そんなん言うたところで……って感じがする」とあっさり言い切った。そのうえで「諦めてないっすよね、生きることを」と彼は笑うのだ。これがWANIMAの本質だと思う。ネガティヴやアンチを掲げる前に、まずは生きることを諦めない。枕詞は「自分らしく」でも「明るく」でも何でもいいが、ともかく「生きる」ことが何より大事。そのシンプルすぎる欲求こそ、WANIMAに大勢の若者が集ってくる理由だとも思う。「ともに」の後半にブチ上がる叫び、〈前に前に前に 上に上に 冗談じゃない まだ諦めてない〉という声は、実はみんなの本音なんじゃないか。馬鹿でかい夢など持たず身の丈にあった設計図を見ているフリをしている若者たちは、本当はWANIMAみたいな叫びを心に隠し持っていたんじゃないか。そんな想像も的外れとは思えない。このノリとスピードに乗ってしまえば自分も同じことを言い切ってしまえる! と思える求心力が彼らの音には確かにあるのだから。

 そう、KENTAはただキヲツケをして感謝や誠意を歌にしている優等生タイプでは全然ない。むしろ悪ノリを繰り返しながらみんなを巻き込んでしまうムードメイカーに近いタイプだ。「切手のないおくりもの」のカバーがあることで逆説的に気づくのは、彼の歌の凄まじいスピード感。ワンフレーズの中で爆発する早口言葉のような歌詞。韻を踏んだ言葉遊びなら滑らかに歌えるが、たった二小節で〈生きて耐えて時に壊れ泣いて迷う影に笑顔咲き誇る〉と畳み掛ける箇所など、滑舌よく歌い切るのは至難の業である。この勢いで迫ってきたから巻き込まれてしまった。この勢いだから一気に駆け上がっていけた。ブレイクの理由にはそれも当然あるだろう。このスピード感が落ちない限り、WANIMAはまだまだ上昇気流の中にいる。パンクの世界をすでに超え、これからはお茶の間を明るく掻き回していくだろう。そんなことをワクワクしながら考えている。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

■リリース情報
『JUICE UP !!』
発売:2016年8月3日(水)

価格:¥1,200(税抜)
<収録曲>

01. ともに
02. オドルヨル
03. 切手のないおくりもの
04. For you

■ツアー情報
『JUICE UP!! TOUR』
2016年9月20日(火)渋谷TSUTAYA O-EAST
2016年9月29日(木)川崎CLUB CITTA’
2016年10月1日(土)高松festhalle
2016年10月2日(日)高知X-pt.
2016年10月15日(土)岡山CRAZYMAMA KINGDOM
2016年10月16日(日)京都KBS HALL
2016年10月23日(日)郡山HIPSHOT JAPAN
2016年10月25日(火)青森Quarter
2016年10月26日(水)盛岡CHANGE WAVE
2016年10月28日(金)仙台Rensa
2016年11月9日(水)浜松窓枠
2016年11月10日(木)清水ark
2016年11月12日(土)松本Sound Hall aC
2016年11月13日(日)長野CLUB JUNK BOX
2016年11月18日(金)米子laughs
2016年11月21日(月)新潟LOTS
2016年11月23日(水)富山クロスランドおやべ
2016年11月25日(金)福井響のホール
2016年12月19日(月)台場Zepp DiverCity
…To Be Continued

『JUICE UP!!』スペシャルサイト
http://wanima.net/2ndsingle/

■オフィシャルサイト
http://wanima.net/

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