大野雄二はまた新しい音楽を奏で始めたーーYuji Ohno & Lupintic Six ビルボード公演レポート

大野雄二ビルボードライブレポ

 昨年末、10年に渡り活動してきたYuji Ohno & Lupintic Fiveを解散させた大野雄二は、今年3月に新たなメンバーでYuji Ohno & Lupintic Sixの結成を発表した。新たなアプローチを試みるため結成したという同バンドでは、初代YOU & THE EXPLOSION BANDから市原康(Dr)とミッチー長岡(Eb)、そして若手鍵盤奏者の宮川純(H.Org)を新たに招集。6月に発表した1stアルバム『YEAH!! YEAH!!』では、『ルパン三世』の名曲たちが今までとは一味違うアレンジで、ポップかつダンサンブルに更新されている。そんな彼らによる、Yuji Ohno & Lupintic Six名義として初のビルボードライブ東京での公演が、8月3日に行なわれた。

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 『ルパン三世』でおなじみのタイトルコール音が流れ、メンバーたちが拍手に迎えられて登場。軽快な調子でOPENING THEMEを演奏すると、昨年リリースされた「BUONO!! BUONO!!」を、各パートのソロを交えつつ披露。「ボーノ!ボーノ!」というフレーズに合わせて大野が客席を指差し観客を煽るなど、序盤からパフォーマンスにも熱が入る。

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 マイクを握る和泉(Gt)が、「メンバーが1人増えてLupintic sixとなりました。48まであともうちょっと」と笑いを誘うと、「Lupintic 6が始まった時に、一体感を出すために何かやらなくてはいけないなと思い、全国ツアー中各会場であることをやっているんですけど」と、”Yuji Ohno & Lupintic Six”の掛け声で、会場全体が腕で「6」のポーズを作ることに。

 早くも会場が温まったところで、峰不二子のテーマソング「LOVE SQUALL 2016」、つんく作詞・石川さゆり歌唱の「CHANT IWANAKYA AISANAI」を続けて披露。どちらもルパン作品を彩る名曲だが、楽曲そのものを取り出して聴いても素晴らしいものであることを実感させられる。インタビュー(大野雄二✕プロデューサー浄園祐が語る、『ルパン三世』と音楽の深い関係「音楽が印象に残るアニメという点では、ルパンがいちばん強い」)においても語られている、サントラを「耳で聴くだけでも楽しんでもらえるアルバムにしよう」という大野の意識は、生演奏の場ではより強い訴求力を持って迫ってくる。

 ここで和泉聡志(Gt)からのメンバー紹介。最年少の宮川純(H.Org)、初代YOU & THE EXPLOSION BANDのメンバーであった市原康(Dr)・ミッチー長岡Eb)に加え、鈴木央紹(Sax)、松島啓之(Tp)、そして大野雄二(pf)という布陣。紹介を受けた大野は「今日も2ステージあるんでジジイには大変なんです(笑)それはともかく、今日も最後まで本当に楽しんでいただきたいと思います」と挨拶した。

 その後、赤いライトに照らし出されたミッチー長岡が太い低音を響かせて始まったのは、ファンク風にアレンジされた「ZENIGATA MARCH 2016」。原曲の特徴的なメロディも生かされつつ、ファンキーなベースラインが演奏にスピード感を与える。

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 ウッドベース・ジャズドラムという編成の前バンド(Yuji Ohno & Lupintic Five)がジャズに軸足を置いていたのだとすれば、新バンド(Yuji Ohno & Lupintic Six)はポップスに軸足を置き、ジャズをエッセンスの一つとして取り入れている印象だ。大野は「ジャズ系のひとは、良くも悪くもリズムパターンがアバウトで、それはそれで面白いんだけど、今回は一度、スタジオ寄りのサウンドに戻ってみようと思ってね。」(参照:大野雄二×MUROが語る、ジャズからヒップホップまで“融合“の軌跡「音楽は混ざり合っていくもの」 )と語っており、リズム隊にスタジオミュージシャンとしての経験が豊かな市原と長岡を起用することで、リズム面の追求を試みたと言える。その結果ビートの輪郭がはっきりとし、ダンサンブルでファンキーな感触が強まった。

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 続いて、トランペット松島啓之をフィーチャーし、次元大介のテーマソング「TORNADO 2016」を、サックス鈴木央紹をフィーチャーした「ルパン三世 愛のテーマ」を披露。どちらもダウンテンポのしっとりとした曲で、管楽器を聴かせるアレンジ。大野が弾くグランドピアノのイントロに導かれて楽器が重なり始める瞬間は、息を呑むような美しさがあった。

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 ラストは、言わずと知れた「ルパン三世のテーマ」。新メンバー宮川によるオルガンの音色が加わることで、スリリングな楽曲の中に、また新たな彩りが生まれる。その絶妙な足し算には驚かされるばかりで、大野の目指すところが今日一番分かりやすい形で現れていたと言えるだろう。

 最後に大野本人からのメンバー紹介があり、END THEMEで締められると、メンバーがステージを降りようとしている状態ですでにアンコールの嵐。再びステージに登場したメンバーは、立ち上がった観客の手拍子に合わせ人気曲「サンバ・テンペラード」を披露すると、深いお辞儀を客席に向け、大きな拍手の中、公演は幕を閉じた。

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 演奏されたのはもちろん『ルパン三世』のサウンドトラックであるが、ルパン世代ではない筆者がライブを観ても、何の予備知識も要求しない、良い意味での敷居の低さを感じた。それは、ポップに振り切るという新バンドの試みがもたらした面もあるだろう。幅広い世代が会場を埋めたのも、それが広く受け入れられている証拠だ。「平均年齢は上がったけど音は若返った」という自信に満ちた言葉からは、本人も手応えを感じていることが読み取れる。新たな挑戦に踏み出したばかりの大野雄二は今年75歳。まだまだ今後が楽しみだ。

(文=渡邊魁/写真=名和真紀子)

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