米津玄師が考える、音楽表現の過去・現在・未来「自分はスクラップの寄せ集めみたいなもの」

米津玄師が考える、音楽表現の過去・現在・未来

 米津玄師が9月28日に両A面シングル『LOSER/ナンバーナイン』をリリースする。2015年10月リリースの3rdアルバム『Bremen』以来となる今作は、米津玄師の新たな展開を示す重要作といえる。表題曲はヒップホップ的な要素を取り入れたアッパーチューン「LOSER」と、エレクトロを思わせるサウンドアプローチを見せる、特別展『ルーヴルNo.9 〜漫画、9番目の芸術〜』公式イメージソング「ナンバーナイン」の2曲。さらに、ホーリーなサウンドで“祈り”というテーマを描き出す収録曲「amen」は、歌詞における“作家性の深掘り”を感じさせる刺激的な内容だ。今回リアルサウンドでは、米津玄師の創作者としての現在地を探るロングインタビューを行なった。(編集部)

「東京もいつか砂漠みたいになるのかな」

――「LOSER」「ナンバーナイン」は対照的な曲調ですが、ともに米津さんの新機軸といえる楽曲です。どんなプロセスで制作したのでしょうか。

米津:去年の冬くらいに展覧会『ルーヴルNo.9〜漫画、9番目の芸術〜』のイメージソングのお話をいただいて、まずそこで「ナンバーナイン」を作りました。そこから、この曲とはまた全然違う新機軸をやろうと思って、出来上がったのが「LOSER」です。

――「ナンバーナイン」はマルチプレイヤーのmabanuaさんも参加した作品で、浮遊感のあるエレクトロ的な楽曲に仕上がっています。展覧会を踏まえて、ご自身のなかでコンセプトを組み立てたところも?

米津:そうですね。展覧会は「バンド・デシネ」というフランスを中心にした漫画文化の著名な人を集めた原画展で、割りと自由にやってください、という依頼ではあって。僕は10代の頃からこのバンド・デシネがすごく好きで、最初に浮かんだイメージが“砂漠”だったんです。バンド・デシネの巨匠にメビウスという人がいて、その人がよく砂漠をモチーフにしていたんですよね。だから、一般的にバンド・デシネ=砂漠というイメージはないと思うんですけど、僕のなかでは強く結びついていて。そこからイメージを広げていった、という感じです。

――10代の当時、バンド・デシネとの最初の出会いは覚えていますか。

米津:ジブリ作品の『風の谷のナウシカ』から辿ったのが最初だと思います。ナウシカはメビウスの影響をもろに受けて作られた作品なので。

――「ナンバーナイン」のモチーフになった砂漠とは、ご自身のなかでどんなイメージでしょうか。

米津:シンプルな場所ですね。シンプルであるがゆえに、いろんなものが浮き彫りになる。人間が生きてく環境ではないわけで、過酷なイメージもあります。

――ある種の仮想的な世界が描かれていますが、舞台は東京ですね。

米津:実際どうなるかは分かりませんが、“東京もいつか砂漠みたいになるのかな”と仮定して、その砂漠にへばりつきながら生きている人間はどういうことを思うんだろうかと考えながら作っていきました。そんなに様変わりした世界のなかで、芸術というものがどうなっているか。そもそも芸術って、何百年も昔から絵画を描いている人がいたりして、それこそルーヴル美術館みたいな場所に貯蔵されて、脈々と受け継がれているものですよね。その一番新しい分野が、最近になって9番目の芸術として、ルーヴルに認定された「漫画」であって。脈々と受け継いでいった結果、僕らはその最先端にあるものを享受しながら生きているわけじゃないですか。それはおそらくこれから先も同じで、例えば僕が作った音楽や絵を受け取って、新しいものを作っていく人もいるんだろうし、仮に東京が砂漠になって、凄惨な光景のなかで生きている人たちにも、何らかの断片として残っていくと思うんです。(歌詞に出てくる)東京タワーもそうですよね。建築物も、いろんな意思や思想をもって作られている。それを受け止めた人、というものにも思いを馳せました。

――過去から現在に受け継いだもの、さらに近未来まで投影して作っていると。米津さんご自身も、脈々と続いてきたものを自分自身が受け継いでいる、という感覚はありますか?

米津:もちろんあります。自分はスクラップの寄せ集めみたいなものだと思っていて。それはもう、生まれた瞬間から、親の一挙手一投足を真似しながら、いろいろ覚えていくわけじゃないですか。母親父親の一部分を噛みちぎりながら、自分のものにして生きてきたわけで、厳密に言うと確固たる“自分自身”なんて存在しない。いろんな人間のいろんなエッセンスをコラージュして出来上がったのが、自分だと思っています。

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