BiSHの“本気”を支える松隈ケンタの作家性 柴那典がそのプロデュース手腕を読み解く

BiSHの“本気”と松隈ケンタの作家性

 BiSHがメジャー1st アルバム『KiLLER BiSH』を完成させた。

 一聴して、正直、かなり驚いた。期待はしていたけれど、新作は予想を上回るエッジの鋭さとエモーションの強度を持つ一枚だった。張り詰めるような切迫感がひしひしと宿るアルバムだった。「楽器を持たないパンクバンド」をキャッチコピーに躍進を果たしてきた彼女たち。ギターサウンドを主体にしたパンキッシュな曲調だけでなく、アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dというメンバー6人の歌声がそのキャッチコピーに説得力を持たせる楽曲が揃っていた。

 まさに、BiSHというグループにとっても、アルバムのプロデューサーをつとめた松隈ケンタにとっても、勝負作の一枚と言えるだろう。

 というわけで、この記事では、音楽プロデューサーとしての松隈ケンタの歩みと、彼の作家性が新作にどう発揮されているかを読み解いていきたい。

 ロックバンド「Buzz72+」(バズセブンツー)のギターとして2005年にメジャーデビューを果たした松隈ケンタ。その後バンドは活動休止するも、バンドのサウンドプロデューサーを務めたCHOKKAKUの影響で作曲家/プロデューサーとしての活動を始め、柴咲コウに提供した「ラバソー 〜lover soul〜」をきっかけに名を知られるようになる。以来、中川翔子など様々なアイドルやシンガーに楽曲を提供し、BiSのサウンドプロデュースをきっかけに本格的に頭角を現すことになるのだが、別媒体で本人にインタビューした際に聞いたことによると、自身は今も裏方というよりバンドマンとしての意識が強いようだ。そして、単に作家として楽曲を提供するだけでなく、アレンジや歌録りやミックスまで自ら手掛ける志向性を持っている。そのことが、BiSHにおける彼の独特のスタンスにつながっている。

 アルバム『KiLLER BiSH』の全13曲のクレジットを見ると、作詞は松隈ケンタ、J×S×K(マネージャー渡辺淳之介)、リンリンやアイナ・ジ・エンドなどメンバー自身が手掛けている。作曲は「IDOL is SHiT」を手掛けたナイトメアのRUKA、「My distinction」を手掛けた井口イチロウ(SCRAMBLES)を除いて全て松隈ケンタのペンによるもので、アレンジは彼が率いるクリエイターチーム「SCRAMBLES」が全曲を手掛けている。ギター、ベース、ドラムなどのプレイヤーもほぼ全員がSCRAMBLES所属だ。つまり、BiSHの楽曲は松隈ケンタを筆頭にメンバー、マネージャー、プレイヤーが一つのチームとなってクリエイティブに臨む体制によって作られていると言える。この一体感がグループの尖った個性に結びついている。

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