新山詩織が新作で見せた“芯の強さ” プロデューサー迎えた各楽曲の違いと共通点から紐解く

新山詩織が新作で見せた“芯の強さ”

 シンガーソングライターの新山詩織が3rdフルアルバム『ファインダーの向こう』を完成させた。「隣の行方」「あたしはあたしのままで」、そして、福山雅治が楽曲提供した「恋の中」(フジテレビ系月9ドラマ『ラヴソング』劇中歌)などのシングル曲を含む本作には、福山をはじめ、笹路正徳(スピッツ、森山直太朗、コブクロなど)、島田昌典(aiko、いきものがかり、back numberなど)、近藤ひさし(YUI、ステレオポニーなど)、浅野尚志(でんぱ組.inc、NICO Touches the Wallsなど)という5人のプロデューサーが参加。日本の音楽シーンを支えるプロデューサーとのコラボレーションにより、新山の多彩な音楽性、ボーカルの表現力が十分に引き出された作品に仕上がっている。本稿では各プロデューサーのサウンドメイクを軸にしつつ、アルバム『ファインダーの向こう』の制作を通し、シンガーソングライター・新山詩織がどのように変化・成長したかを探ってみたい。

 まずは島田昌典がサウンドプロデュースを手掛けた「あたしはあたしのままで」「部屋でのはなし。」。アルバムのオープニングを飾る「あたしはあたしのままで」の特徴は、生楽器の響きを活かしたバンドサウンド。その生々しい手触りのアレンジは、“自分らしさを大切にしていきたい”という意思を込めた歌との相性も抜群だ(特に最後のサビ前、アコギと歌だけになるパートは絶品!)。彼女自身の一人暮らしの体験をもとにした「部屋でのはなし。」ではバンドサウンドにストリングスを加えることで、一人だからこそ感じられる繊細な感情の揺れを見事に表現している。

 笹路正徳は「糸」「もう、行かなくちゃ。」を担当。中島みゆきの「糸」のカバーは本作の大きな聴きどころのひとつだが、ストリングスのピチカート、アコギ、ピアノなどを(まさに糸を紡ぐように)重ねたアレンジによって原曲の魅力を丁寧に掬い取ながら、新山の飾り気のない歌声をしっかりと際立たせている。UKロック的なギターフレーズから始まる「もう、行かなくちゃ。」は、彼女が高校生の頃に制作された楽曲。10代特有の焦りを優しく包み込むようなサウンドメイクからは、歌い手の感情をナチュラルに反映させようとする笹路の心遣いが伝わってくる。

 近藤ひさしがプロデュースした「Snow Smile」「隣の行方」は、アルバムのなかでももっとも歌に寄り添ったアレンジが施されている。「Snow Smile」ではアコギの軽快なカッティングのなかで新山のボーカルが気持ちよく広がり、メロディの起伏に沿ってエレキギター、ストリングスなどをバランスよく配置。二十歳になる前の心境を書いたという「隣の行方」では、様々な葛藤、不安を抱えながらも、大人の世界に足を踏み入れようとする決意を力強さと備えたリズムアレンジで後押し。楽曲のメッセージ性、歌の情感をまっすぐ伝える、的確なプロデュース・ワークと言えるだろう。

 本作に参加したプロデューサーのなかでもっとも若い27歳の浅野尚志は、「Sweet Road」「LIFE」の2曲を担当。シンプルなギターサウンド、開放的なストリングス、心地よい起伏を感じさせるグルーヴがひとつになった「Sweet Road」は本作のなかでもっともカラフルなイメージを感じさせる楽曲。新山詩織のポップサイドを際立たせることで、アルバムに華やかな色味を加えている。編曲だけではなく、作曲にも加わった「LIFE」も鮮烈。歪みを効かせたギター、骨太のベースラインなどを含め、彼女自身が「今まで表現出来ていなかった“人の黒い部分”を包み隠さず吐き出してみました」というこの曲のパワーをしっかりと引き出している。

 福山雅治の作詞・作曲、プロデュースによる「恋の中」は、ドラマ『ラヴソング』の劇中歌。ドラマのなかでは新山が演じた歌手・宍戸春乃として歌われた楽曲だが、昭和歌謡的なテイストを含んだ憂いのあるメロディ、大人の女性の哀切な恋愛を描いた歌詞は、新山にとっても初めての体験だったはず。彼女自身も「二十歳を迎えて新しい自分を見ることが出来た一曲」とコメントしている通り、成人になり、ドラマに出演したことで生まれた、新山詩織の大人の表情が堪能できるラブソングに仕上がっている。

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