現実を受け入れて前に進むーー丸本莉子の意欲作「誰にもわからない」MVを紐解く

丸本莉子「誰にもわからない」MVを読む

 丸本莉子の「誰にもわからない」のMVを観て筆者はとても驚いた。丸本といえば、“癒しの歌声”をテーマに配信シングル「ココロ予報」でメジャーデビューし、「フシギな夢」「ガーベラの空」などポップな楽曲のイメージが強いシンガーソングライターだ。それに対し、「誰にもわからない」はピアノの旋律と丸本の歌い出しからゆっくりと始まり、エレキギター、ドラム、ベースサウンドが徐々に熱を帯びていくバンドサウンドの楽曲。MVも2人のダンサーと丸本のリップシンクで構成されており、これまでの丸本のイメージとは一線を画す内容に驚きを隠せずにはいられなかった。

丸本莉子 - 誰にもわからない

 リアルサウンドでは、丸本が現在1年をかけて行っているストリートライブプロジェクト『ライブワーク2016~1万人との癒し旅』に密着しており、ライブを取材していく中で少しばかりではあるが「誰にもわからない」について本人から話を聞いていた。楽曲のテーマにあるのは「仕事仲間であったカメラマンの死」。楽曲は<それは何でもないような一日 あの子が消えたこと以外は>という歌詞から始まる。

 楽曲の世界観を色濃く描写した今回のMVを撮影しているのは、映像作家の白石タカヒロ氏。映画『GOEMON』『20世紀少年』に参加し、平井 堅など多数のMVやCMを手がける新鋭のクリエイターだ。白石氏は「誰にもわからない」の印象について、「生々しい歌詞が僕自身の過去の体験ともリンクしていて、『ほっとけない曲』」と語っている。撮影において白石氏はその楽曲の可能性を広げるべく、丸本と直接意見を交わしながらより良い作品を目指した。丸本のリップシンクでは「もっと生々しく、強く訴えてほしい」という白石氏のリクエストに、今までのMV撮影とは違いより緊迫した空気が流れ、丸本の力強い表情が生まれたのだという。

 また、MV内で印象的なのは2人のダンサーだ。暗い地下室の中から雑踏へと移動し舞踏するAOI、海の見える岬で幻想的なダンスを披露しているのが工藤響子。白石氏は工藤の所属する団体・TABATHAと1年前に出会い、その頃から彼女たちの躍動的なダンスをMVに取り入れたいと思っており、丸本の「誰にもわからない」で実現に至った。「今回の楽曲なら形になると思いました」、そう話す白石氏はAOIによる渋谷でのダンスを「志を持った若者が踊る事に意味があると感じ、混沌を表現しています」と述べ、自然の中でのパフォーマンスを「あの世」と表現していた。撮影日は台風と重なったものの、朝日が奇跡的に差したという。映像は終わりに向かうに従って眩しい朝日のもと、ドローンによる空撮にて工藤の舞いが美しくダイナミックに映える。まるで来世で楽しく舞っているかのように。

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