夢アド「大人やらせてよ」、川谷絵音と冨田恵一が蘇らせた80年代末アイドルポップの悦楽

夢アド「大人やらせてよ」への偏愛文

 川谷絵音、打率10割である。なんのことかって? 彼が女性アイドルグループに提供した曲のことだ。もっとも、当代きっての多作家である(「あった」とすべきなのか?)、彼が女性アイドルグループに曲を書いたのは、これがまだ2曲目。2014年のチームしゃちほこ「シャンプーハット」と、今回の夢みるアドレセンス「大人やらせてよ」だけである。他に曲を提供しているのは山下智久1曲、SMAP3曲。相対性理論もそうだったけど、2015年までは、まず山Pでお試し起用をして、その後から本懐であるSMAPでも起用というラインがあったのだが、そのラインも途切れてしまった2016年なのである。あぁ。

 ともあれ、一部のアイドルファンの「楽曲派」なんて物言いにはちょっとしらけてしまうような自分にとっても、夢アドの「大人やらせてよ」は久々に脳天にガツンと一撃を食らわしてくれた1曲だった。作詞作曲を手がけた川谷絵音、そしておそろしく緻密な編曲を施している冨田恵一、彼らがどの程度意図していたのかは想像するしかないが、この曲が醸し出している雰囲気は明確に80年代末のアイドルポップだ。そう、80年代は80年代でも80年代末。ラ・ムーが愛は心の仕事だと突然主張をしたり、工藤静香が「MUGO・ん」とかわけのわからないことを歌い出したり、中山美穂がツイててノッていた時期である。この中では「さすが筒美京平&松本隆の黄金コンビ」と言うべきか、中山美穂の曲は日本ではちょっとだけ時代を先行していたわけだが、海外ではジャネット・ジャクソン『コントロール』旋風が吹き荒れ、ポップミュージックのメインストリームにおけるリズムが生演奏からシーケンサーによってクォンタイズされたものへとドラスティックに移行していた時期と重なる(このあたりのポップミュージックの変化とその事情については西寺郷太氏の『ジャネット・ジャクソンと80’sディーバたち』(星海社)に詳しいので、気になる方は是非)。

 近年、懐メロ番組と化しているテレビの大型音楽番組においても、不当なほどスルーされているのが、この時期のアイドルポップだ。アイドル史的にはすべておニャン子クラブ現象に吹き飛ばされたことにされがちだが、この頃のアイドルはみんなシーケンスされたリズムに乗って、原色のボディコン風ドレスを着て、まだ時代のど真ん中で踊っていた。作詞家でいうなら松本隆というより売野雅勇や松井五郎や銀色夏生、作曲家でいうなら筒美京平というより林哲司や後藤次利。自分はそんな作詞家、作曲家たちにも通じる美徳を、川谷絵音のバンド活動における楽曲群からずっと感じ取って、これまでもそれを指摘してきた。だから、今回の「大人やらせてよ」にはまさに「わが意を得たり」という感慨を覚えたのだった。

 夢アドはこれまでも、OKAMOTO’Sのオカモトショウ(「舞いジェネ!」)、ドレスコーズの志磨遼平(「おしえてシュレディンガー」)、KEYTALKの首藤義勝(「ファンタスティックパレード」)、MINMI(「Love for You」)といったように、現在の日本の音楽シーンの最前線で活躍しているミュージシャンから楽曲の提供を受けてきた。有名ミュージシャンがアイドルに曲を提供すること自体は、現在では珍しくもなんともないことだし、まだファーストアルバムをリリースする前で方向性を模索している実験期ということもあるのだろう、音楽性には今のところ統一感のようなものはない。しかし、その人選が一貫して「置きにいった」ものではなく「攻めている」のは衆目の一致するところだろう。来年1月に2作同時リリースするニューシングルが、一方はMrs. GREEN APPLEの、もう一方はヤバイTシャツ屋さんの提供曲になると耳にした時には、あまりにも攻めすぎで笑ってしまったけど。

 この時期だからあえて繰り返すが、前述したような山P→SMAPのようなラインが消滅してしまった現在、単に「売れ線」の曲や「良質」な曲を目指すのではなく、音楽シーンの最前線と常にリンクし続けようと果敢にチャレンジを繰り返している夢アドのような存在はとても貴重である。最近、次の著作の準備で80年代の歌謡曲の作り手たちに取材をしているのだが、自分が想像していた以上に、当時のヒット曲は作曲家や作詞家の親密なコラボレートによるものというより、研ぎ澄まされたアイデアとアンテナを持ったレコード会社のディレクターや事務所スタッフの貢献によるものだったということに気づかされる機会が多い。そして、それは単純に「芸能界」と「音楽界」との間に風穴をあけて音楽シーン全体の風通しを良くするというだけでなく、今回の「大人やらせてよ」における川谷絵音と冨田恵一の抜群の相性の良さのように、個々のミュージシャンの新たな可能性を発見するきっかけにもなりえるのだ。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。Twitter

■リリース情報
『大人やらせてよ』
発売:2016年11月23日
作詞・作曲:川谷絵音 編曲:冨田恵一

初回生産限定盤A CD+DVD
¥1,500(税込)
・DISC1(CD)
1.大人やらせてよ
2.大人やらせてよ(Instrumental)
・DISC2(DVD)
大人やらせてよ Music Video
大人やらせてよ Making of MusicVideo
大人やらせてよ Making of PhotoSession

通常盤 CD+PHOTOBOOK
¥1,000(税込)
1.大人やらせてよ
2.大人やらせてよ(Instrumental)

期間生産限定盤 CD
¥500(税込)
1.大人やらせてよ

『恋のエフェクトMAGIC』
価格:¥500(税込)
作詞・作曲:大森元貴
編曲:大森元貴、伊藤 賢
『アイドルレース』
価格:¥500(税込)
作詞・作曲:こやまたくや
編曲:NARASAKI
2017年1月18日(水)2枚同時発売
※2万枚完全限定生産

■ライブ情報
『夢みるアドレセンス アルバム発売延期に3枚返しだ!ツアー2017』
2017年1月14日(土) 大阪 なんばHatch
2017年1月15日(日) 愛知 DIAMOND HALL
2017年2月19日(日) 東京 Zepp DiverCity(TOKYO)

『YUMELIVE!JAPAN』
2017年1月30日(月) 渋谷WWW

■オフィシャルHP
http://yumeado.com/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる