桑田佳祐は人生の陰影を美しく歌った 4年ぶりのソロ年越しライブ公演レポート 

“ロックンロール詩人”桑田佳祐の現在地

 桑田佳祐が2016年12月27日、28日、30日、31日、ソロ名義としては4年ぶりとなる、横浜アリーナでの年越しライブを行なった。桑田がステージに立つこと自体、2015年8月の日本武道館公演以来、約1年4カ月ぶりだったが、そんなブランクをまったく感じさせない、精力的に活動した2016年を象徴するパワフルなステージとなった。本稿では、初日を迎えた27日の公演をレポートしたい。

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 2016年の桑田の活動を振り返ると、3つの軸があった。6月にリリースした3年3カ月ぶりのシングル「ヨシ子さん」は、USヒップホップなどの多彩なリズムや音色を導入しつつ新しいサウンドを打ち立てた、音楽的な冒険を続けてきた桑田の真骨頂と言える一曲。また同月に放送され、11月にDVD/Blu-ray化された『WOWOW開局25周年記念 桑田佳祐 偉大なる歌謡曲に感謝~東京の唄~』では、自身のルーツの一つである歌謡曲のカバーを行った。そして11月には、「君への手紙」という、万人に愛されてきた桑田佳祐のメロディラインを深みのある言葉で伝える、珠玉のナンバーを発表している。

 音楽的な「チャレンジ」、歌謡曲という「ルーツ」、そして自身の「王道のスタイル」。そうした3つのキーワードは、本公演にも貫かれていた。1曲目に披露された「悪戯されて」で、まさに昭和歌謡を思わせる大階段をゆっくりと降りながらの歌唱を行った桑田は、その後、ソロデビュー曲「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」から最新曲に至るまで、発表年代を問わないセットリストで音楽的チャレンジの軌跡を示した。

 その中でも際立っていたのは、「君への手紙」に象徴される王道のナンバーの数々だ。桑田佳祐という“ロックンロール詩人”の本質が表れた、圧巻のパフォーマンスを見ることができた。

 中盤に連続で披露された「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」(2011年)~「愛のプレリュード」(16年)~「大河の一滴」(16年)、そして終盤以降の「風の詩を聴かせて」(07年)~「JOURNEY」(1994年)~「君への手紙」(16年)という流れが象徴的だ。一方で、「本当は怖い愛とロマンス」(10年)、「東京ジプシー・ローズ」(02年)、あるいは「ROCK AND ROLL HERO」(02年)のようなロック色の強い楽曲で会場を盛り上げながら、今回多くのオーディエンスを強く引きつけたのは、アコースティックギターを演奏の中心においた上記のようなミディアムナンバーだったように思う。

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 <波音に消えた恋 悔やむことも人生さ 立ち止まることもいい 振り向けば道がある>とは、「君への手紙」の一節。これはラブソングと捉えることもできるが、それ以上に、これまで出会ってきた人々――すでにこの世を去った人も含めた、幅広い人々への感謝を歌った楽曲だ。MCでは、バックステージに詰めかけた観客にも感謝の言葉を重ね、「最近、深く思ったのは、自分一人で何かできた例がない、ということに気がつきまして。このステージもそう。周りの素晴らしい人たちに支えられている」と語った桑田。本公演では、青春の切なさを歌う楽曲より、人生の陰影を歌った楽曲が多くピックアップされていたように感じた。

 しかし、そうした楽曲であっても湿っぽくなったりしないのが、桑田佳祐が桑田佳祐たる所以でもある。この日の演奏から伝わってきたのは、まさにビートルズやローリング・ストーンズ、あるいはフィル・スペクターやバート・バカラックに通じる甘美なメロディだ。桑田は楽曲にどれほど深く、時に生々しいメッセージを込めても、それをスイートなポップ・ミュージックとして結実させる。

 そして、それらを見事にショーとして昇華させているのが、盤石のバンドメンバーだ。桑田の相棒とも言える斎藤誠(G.)、河村”カースケ”智康(dr.)を初め、キーボードにはおなじみの片山敦夫に加えて、67歳のベテラン・深町栄を配し、ベースには葉加瀬太郎の盟友である竹下欣伸、さらに山本拓夫(Sax)&西村浩二(Tp)という豪華ブラス陣を迎えていた。彼らの演奏は“熱く盛り上げる”というより、心地の良い高揚感を持続させるもの。「メンチカツ・ブルース」(16年)のようなブルースナンバーあっても、オーディエンスはそれらを良質なポップ・ミュージックとして享受できる。

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 本編は「ROCK AND ROLL HERO」、「波乗りジョニー」(01年)で盛り上がり、「ヨシ子さん」で大団円に。そしてアンコールでは、なかなか結婚に踏み切れずにいた二人のゴールインを祝う「幸せのラストダンス」(12年)の後、「白い恋人達」(01年)、「祭りのあと」(94年)という人気曲を惜しみなく歌った。約30年のソロキャリアの中から満遍なく選曲され、また「飛べないモスキート(MOSQUITO)」(94年)のような久しぶりの曲も披露されるなど集大成的なセットリストだったが、一番強く伝わるのは、ロックンロール詩人である桑田佳祐の姿だった。人生の意味をさり気なく、しかし深く歌い込んでいく表現者の現在地がそこにあった。

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(文=編集部/写真=岸田哲平)

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