竹達彩奈、“ニューあやち”への第一歩踏み出す サンプラザ公演に見た歌手としての成長

 『Lyrical Concerto』と題された竹達彩奈の3rdアルバムは、「2次元」をテーマに多彩な作家陣が参加した豊かなサウンドが際立つ作品だ。竹達のアルバム作品には、1stアルバム『apple symphony』、2ndアルバム『Colore Serenata』とそれぞれ音楽用語が冠されており、楽曲提供には筒美京平や川本真琴、いしわたり淳治といった作家たちが集結。小林俊太郎、沖井礼二がメインとなる「チーム竹達」がバックにつくというアニソンの枠を超えたバンドサウンドが魅力の一つだ。

 「今までカッコいい曲、ロックな曲とかって歌ったことがなくって、3rdシーズンになって、『カッコいい曲歌ってみたい!』なんて言っちゃったもんだからさ、すごい難しい曲来ちゃってさ(笑)」ーーこれは、1月15日に中野サンプラザホール開催されたワンマンライブ『竹達彩奈 LIVE2016-2017 「Lyrical Concerto」』での竹達の一言だが、彼女自身でさえも驚くほどに『Lyrical Concerto』はチャレンジングな作品に仕上がっている。そこにストーリー性を持たせながら、チーム竹達による生演奏で新たな“Lyrical Concerto”の世界観を提示したのが今回のワンマンライブだ。

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 ライブ冒頭は絵本タッチのアニメがスクリーンに映し出され、竹達本人による「こんな言葉を知っていますか? 『可愛い子には旅をさせよ』。しかも、ただの旅じゃない。世界を救うための大冒険をしちゃうものです」といったナレーションで始まる。オープニングSE「JUMP AND DASH!!!」が流れ出すと共に、スクリーンは8ビットの横スクロールゲーム調の映像に変わり、「PRESS START」という文字が映し出された。チップチューンのこの楽曲を手がけたのが、YMCKのTakeshi Yokemuraということを踏まえ、遊び心たっぷりのライブの幕開けに思わず心が躍る。

 竹達の「『Lyrical Concerto』始まるよー!」という元気溢れる宣誓から、ライブの1曲目を飾るのは「SWEETS is CIRCUS」。Plus-Tech Squeeze Boxのハヤシベトモノリが手がけたこの楽曲は、歌詞の世界観から忙しないサーカス集団をイメージさせながらも、ハヤシベの得意とするアメリカのカートゥーン/ネオ渋谷系サウンドがしっかりと息づく。セットの壁には、『不思議の国のアリス』を彷彿とさせるお城、2階にまで伸びるバンドメンバーが乗るライブセット台にはトランプのマークが無数に描かれている。そんなセットの中で披露される、アリスをテーマにした2ndシングル表題曲「♪の国のアリス」は、この日のために用意されたと言わんばかりにぴったりな楽曲だ。彼女の歌声に呼応するかのように、ファンも色鮮やかなサイリウムで応えていく。

 MCでは「新年一発目のイベントなので、2017年の“ニューあやち”を感じてもらえたらいいなと思います」といった一言が飛び出す一方で、料理が苦手な母親が作るお雑煮が大量の大根と三つ葉で餅が見えない“お雑煮の「二郎」状態”であったというお正月トークでファンを笑わせる一幕も。また、突如会場には「……彩奈。……気をつけて。……影が迫っています。……戦ってください! あなたの心、あなたの歌で!」という語りが響き渡る。ここで、スクリーンに流れるアニメの主人公がステージにいる竹達本人でもあるということに会場のファンが気づく。この語りは、後のMCにてお決まりと言わんばかりに毎回流れることになるのだが、竹達が「この声、私の声に似てますよね」という一言に、「メタ発言はややこしくなるのでやめてください!」という複雑なメタ的構造によるツッコミは、思わずニヤリとしてしまう何とも竹達らしい演出だ。

 『Lyrical Concerto』の収録楽曲を中心としたセットリストにて構成される中で、筆者が驚かされたのは「AWARENESS」であった。作詞を松井洋平、作曲・編曲をクラムボンのミトが手がけたこの楽曲は、間奏から一転してハードなロック調に変貌する。キーボードの小林俊太郎を中心としたチーム竹達のバンドサウンドが存分に活かされる瞬間であるのは間違いなく、特筆するのであれば“チャッキー”こと伊藤千明の唸るようなスラップ奏法でのベース音は息を呑むほどであった。曲を披露し終えると、竹達は「カッコいい曲って、怖いね……(笑)」と本音を漏らしつつも、「作家さんは愛情込めて作ってくださっているので、こういう難しい曲を一つずつ歌えるようになって、5年間やってきてよかったなと思うようになりました」と語る。ここまで先述してきた“カッコいい”バンドサウンドも『Lyrical Concerto』の魅力の一つであるが、竹達が様々な発声法や歌い方に挑戦していることも新たな“竹達彩奈”を感じさせる点の一つだ。

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