Awesome City Clubが見つけた明確な方向性「『逃げ恥』や『君の名は。』と同じ空気を作れたら」

ACCが見つけた明確な方向性

 Awesome City Club(以下:ACC)が1月25日に発売した新作『Awesome City Tracks 4』。同アルバムは、前作に引き続き共作詞とプロデュースでいしわたり淳治が参加したほか、浦本雅史や<Tokyo Recordings>のYaffle、OBKR、Curly Giraffeがサウンドプロデュースを手掛け、『Awesome City Tracks』シリーズの“最終章”を飾る作品としてリリースされた。キャッチーなデュエットソング「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」、AOR的な印象の 「青春の胸騒ぎ」、インディーR&B風の「Cold & Dry」……とジャンルを自在に横断するACCの音楽が詰まった作品となっている。今回はatagi(Vo./Gt.)、PORIN(Vo./Syn.)、マツザカタクミ(Ba./Rap.)にインタビューを行ない、同作をシリーズ最終作とした理由や、2016年のヒットコンテンツを通じたバンドの変化、各楽曲とそれにまつわるプロデューサーとの制作秘話などを訊いた。(編集部)

「ずっと音源とライブのギャップに苦しんでた」(atagi)

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atagi(Vo./Gt.)

――今回はなぜ、複数のプロデューサーを立てた作品にしようと思ったのでしょうか?

atagi:これは前々からチームで共有していたことなんですけど、アルバムを通して「曲の良さ」だけで統一するのではなく、深いものはより深く、突き抜けるものはより突き抜けるというか、その曲が持っているものをより高めることが大事だよねという話になって。そこから「曲ごとにプロデューサーを変えるのもいいかもしれない」という提案があり、ようやくそれが形になったというところです。

マツザカ:やりたいことが曲ごとに明確だったんですよ。例えば「Cold & Dry」だったら「インディーR&Bみたいなことをやりたい」というアイデアがあって、せっかくの機会だし<Tokyo Recordings>と一緒にやれば、若い感覚でオリジナリティのあるものになるんじゃないかと思ったのでお願いしました。「青春の胸騒ぎ」はその逆ともいえる曲で、AOR的な少し懐かしさもある雰囲気にしたいからCurly Giraffeさんとご一緒したり。

atagi:このアルバムを作るにあたっては、“Awesome Revolution”をキーワードにしていたんです。せっかくポジティブな「Awesome」って言葉がバンド名に入ってるんだから、自分たちも世の中に対して「こうしていけば良くなれそうじゃない?」という良い提案ができればいいと思っていて。書いているシーンや歌っていることもバラバラなんですが、一つ大きなテーマとして「前向きになれる意味合いを込めた歌詞」というものはありました。それぞれ、ちゃんと生活の中で次につながるようなマインドになっていると思います。

――PORINさんも2曲作詞で参加していますが、そのコンセプトをどのように形にしようとしましたか?

PORIN:これまでは自分自身を描くことが多かったのですが、今回はそういうテーマももらったし、私が社会に対して思うことも出てきたんです。「青春の胸騒ぎ」は若者が持っている特有の寂しさを、「Girls Don‘t Cry」は女子に対して普遍的で前向きな歌詞を書こうと思いました。

atagi:それに、最近は僕たちが生活をしているなかで、そういう場面に出会うことが結構あったんですよ。例えばリオ五輪の閉会式。エネルギッシュでバイタリティもあって、みんなが一つの気持ちになりつつ、斜に構えている人もすごく好意的に見ていたわけで。有無を言わせない意志の強さに圧倒されて、メンバーとも「あれすごい良かったね」と話題になったんです。そこで何となくではありますが、いまの自分たちが行きたい方向や見たいもの、やりたいことが見つかった気がして。

マツザカ:アルバムのラストトラック「Action!」は、リオ五輪を見た後にたまたま作っていた曲で<未来は百花繚乱>という言葉を使っているのですが、本当にリオ五輪を見て、2020年の東京五輪が楽しみになったし、そういう空気がまさに“Awesome”だなと思っていて。2016年は、ほかにもそう感じることがたくさんあったんですよ。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)も、映画『シン・ゴジラ』も『君の名は。』も、みんなが楽しむコンテンツで、学校で「あれ見た?」と盛り上がるような感覚があったように感じて。それは「みんなで何かをやりたい」という起爆剤にもなるし、作り手としては同じような空気を作れたらすごく楽しいなと思うんです。

――確かに、ゼロ年代以降は「みんな違ってみんないい」という空気感が広がって、良い意味でも悪い意味でも多様性を重視していて。そんななかで、多くのクラスタを横断する圧倒的なクリエイティブが続々と登場したのが2016年ですよね。

マツザカ:作り手としては、そんなクリエイティブができることに憧れるし、自分自身が斜に構えて見ることの多い人だったので、素直に感動したことに驚いた部分もあって(笑)。

PORIN:音楽だと宇多田ヒカルさんの『Fantôme』もそうですよね。あれも人間賛歌のアルバムで、メンバー同士で「良かったね」と共有する作品になった。あとはライブがすごい良くなっているというか。「お客さんを楽しませよう」とピントを絞ってライブをやるようになってから、みんなで同じ方向を向いているなと感じるようになりました。

ーー先日レポートさせてもらった『Awesome Talks -Vol.6』(参考:ACCとネバヤンは、それぞれのやり方で成長し続ける 痛快だった一夜をレポート)でも、その変化は十分に感じました。お客さんを楽しませるなかで、自分たちもしっかり楽しんでいるように見えましたし、バンドとしての一体感がより増しているというか。

atagi:いま思えば、僕らはずっと音源とライブのギャップに苦しんでたんですよね。音源は音源でライブと関係なく「良いものを作りたい」という気持ちで挑むんですけど、それを演奏するときにプレイヤビリティや自分たちをどう表現するのかという部分にまで到達できなかったけど、ようやく曲を自分たちのものにしているというか。

――その話に通じるところで、アルバム1曲目の「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」は、PORINさんのボーカル力がどんどん上がってきたこのタイミングで、2人の歌が対等にぶつかり合う、今のACCだからこそできる曲なのかなと。

マツザカ:そうですね。Awesome City Clubがデビュー以降の2年間で培ってきた「ACCらしいところ」や強みを凝縮した曲だと思いますし、タイトルの言葉の強さも加わって、自分たち流に突き抜ける曲になったし、デュエットの新しい解釈にもなったかなと。

――プロデューサーのいしわたり淳治さんからは「2010年代のデュエットソングの決定版」というテーマを掲げられたそうですね。込められている要素の一つひとつに仕掛けがあって、キャッチーさの塊という印象を受けました。

atagi:淳治さんとは「フックをいかに作るか」という話をしていました。デュエット風にしたことも「カラオケで男女2人で歌うような曲って、ひと昔前のようなイメージがついているけど、別に今の曲であってもいいのにね」と話したり、歌詞は「あったらいいなって思う言葉がやっぱり流行り言葉になるんだよ」というアドバイスをもらったり。僕ら、サウンドに関しては少し気を許すと複雑なことや自分たちの好きなものに走りがちなんですけど、この曲では「もっと踊れたりノれるものを、良い意味でデフォルメしていこう」と決めて、とにかくキャッチーな要素を遠慮なく詰め込みました。

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マツザカタクミ(Ba./Rap.)

――いしわたりさんは前作『Awesome City Tracks3』の「Don’t Think, Feel」にも共作詞で参加していますが、今回の「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」も、ACC楽曲の中では飛び抜けて解像度の高い歌詞だなと思うんです。

マツザカ:最近はその“解像度の高さ”が歌詞を書くうえでのテーマになっているんです。淳治さんと一緒に「Don’t Think, Feel」を作ってすぐに全てを理解したわけではなく、後から聴き直したり、柴(那典)さんの文章(参考:星野源、Shiggy Jr.、ACC、GOODWARP…「解像度の高い歌詞」を持つJ-POPたち)を読んだときに「なるほどな」と思いました。この2曲はそれぞれ淳治さんと僕で書き分けているんですが、自分の歌詞も淳治さんの表現に引っ張られて「登場人物がどういう人で、どういう心境なのか」がわかるものが書けたんです。

――カラフルだった音が一瞬だけ消えて、決めフレーズ(<乾杯>と<嘘つき>)が飛び出すサビ前の一言も印象的ですよね。

PORIN:大変でしたよ……。「石原さとみ風に言ってくれ」とディレクションされながら、100回くらい<嘘つき>って言わされましたから(笑)。

ーーサウンド面では、開き直っているなと感じた部分もあって。イントロや間奏に使われている<La La La〜♪>というフレーズはサザンオールスターズ「勝手にシンドバッド」を彷彿とさせるザ・J-POP的なサウンドで、これをAwesome City Clubがやるのかという意外性もありました。

atagi:まさに「勝手にシンドバッド」を少し意識して作ったので、言い当てられて驚きました。でも、最初はもっと民族音楽風の楽曲でした(笑)。

PORIN:仮タイトルは「ファイヤーダンス」だったよね(笑)。

――突き抜けるために必要な通過点、つまりはブレイクポイントを作ろうとした勝負曲でもあると。2曲目の「Girls Don‘t Cry」は真逆で、洋楽っぽいキャッチーなフレーズが印象的でした。

atagi:「ベストヒットUSA」的な感じですよね(笑)。この曲はアルバムの中でも最後のほうに作ったんですけど、最初はもっと暗めで。エンジニアでありサウンドプロデューサーの浦本雅史さんと相談しながら、もっと「PORINが歌っているぞ」「メンバーが演奏してるぞ」というイメージが明確化されたものに仕上げていきました。

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PORIN(Vo./Syn.)

――曲展開はチアリーダーっぽいコーラスを入れたり、メインボーカルがPORINさんで共作詞も担当していますが、“女の子”というイメージや存在を肯定している曲ということでしょうか?

PORIN:そうですね、女の子にとって前向きになれる曲でもあり、自分にもバンドにも言えるメッセージが入っている曲にもなりました。「もっと素直になろうよ」とか「頑張ろう」というシンプルなメッセージなんですが、こんなことを言えるようになった自分自身、すごくタフになったなと感じます。

マツザカ:「Girls Don‘t Cry」はタイトルが先にあって。最初は僕が1人で歌詞を書いていていたんですけど、女性アーティストで同性のことを肯定や応援しても、受け入れられるひと人とそうでない人がいるのかな、と何となく感じていて、PORINが受け入れられる側の人になったら素敵だなと思ったんです。これまではバンドの中にいて、ある種守られている存在のようだったPORINが、どんどん積極的になってきて、歌詞もすごく素直になって。そんな変化を感じてほしかったんですよね。

PORIN:私自身も、変に格好つけなくなったし、まさにこの曲の主人公みたいな人になれているのかなと。素直な言葉が書けたこと自体、すごく大きな一歩なんですよ。

――バンドを初期から見てきた人にとっては、感慨深いものもありますね。同じく浦本さんがサウンドプロデュースした「Sunriseまで」は、生音主体でありながら、ウェットな部分を意図的に取り除いているのかなと感じました。

atagi:1stアルバムの「Jungle」(同じくユキエが作詞を担当)のように“無国籍”というか、どこの曲なのかよくわからない曲が個人的に好きで。「Sunriseまで」もそんな曲になれば良いと思って作ったんですけど、これがユキエちゃんの歌詞とバッチリハマったので、今回収録することになったんです。

ーーユキエさんの歌詞って、どことなく初期のACCっぽいんですよね。日本語を英語みたいな響きになるように並べたりするあたりが特に。

atagi:単語の羅列で成り立っていて、イメージが膨らむような不思議な感じで。バンドの中で一番アーティストっぽい歌詞が書ける人なんです。

ーーちなみに、浦本さんとはサウンド面でどのようなやりとりを?

マツザカ:浦本さんには、レコーディング・ミックス面でかなり工夫をしていただいたんです。ボーカルのディレイを言葉によって変えたり、ドラムを全部バラ撮りで録音したり。先日、Spincoaster Music Barでアルバムの先行試聴会を開催したんですけど、良いスピーカーだったこともあり、音色の良さがより際立って聴こえました。

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