ミオヤマザキの作り出す「スレ」は続いていくーー野音公演での“重大告白”に感じた決意

ミオヤマザキ野音公演レポート

 『重大告白』とのタイトルが付けられた、日比谷野外音楽堂でのミオヤマザキワンマンスレ。

 ライブ終演後に発表された“重大告白”は、会場に集まった“ミオラー”(ミオヤマザキファンの総称)への「今年もよろしく」というミオヤマザキからのメッセージであったように感じた。シングル、アルバム発売、アニメ主題歌、全国ワンマンツアー開催。年末の12月まで続くそのスケジュールからは、2017年を怒涛の勢いで駆け抜けるバンドのただならぬ決意が感じられる。

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 ミオヤマザキのバンドボーカル・mioは圧倒的なカリスマ性を持った人物だ。ミオヤマザキにとって史上最大キャパとなる日比谷野外音楽堂には、後方の立ち見席までびっしりとミオラーが集結し、会場には開演前から熱狂的な歓声が飛び交っていた。これまでにファンを惹きつける彼女たちの魅力とは、一体どこにあるのか。

 ミオヤマザキは、奇抜な活動が目を引くバンドだ。プロモーションのために企画したゲームアプリ『マヂヤミ彼女』は、累計300万ダウンロードを突破。斬新なPR戦略が功を奏し、多くのファンを獲得するきっかけとなった。ほかにも、昨今の不倫問題を取り上げた楽曲「民法第709条」の発表、ミオヤマザキ独自の世界感を体感できるイベント「メンヘラバーチャルミュージアム」、サブスク万歳キャンペーン、など企画は多岐に渡る。これまでも実施されてきた、チケットの金額によって観覧ゾーンが分けられる制度は、今回の公演『重大告白』でも行われた。時折、ネットには様々な意見が飛び交うこともある。それでも、ミオヤマザキの斜め上の試みは常に攻めを続けている。

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 ミオヤマザキでは、ライブのことを「スレ」と呼ぶ。電子掲示板やメールなど、話題に関連した投稿の集まり「スレッド」の略称で、つまるところ「スレ」とはmioとミオラーが思いを交わし合う場所のことだ。今回の公演では、会場のステージに用意された巨大なディスプレイに、ミオヤマザキの楽曲の歌詞が様々なエフェクトによって映し出された。バンドの活動が物語るように、主導者であるmioが作り出す楽曲には刺激的な歌詞が並ぶ。「メンヘラ」「DV」「バカアホドジマヌケ死ね」と、この日のセットリストから数曲抜粋しただけでも、おのずとそのタイトルが風変わりな様を示す。しかし、それらは決して奇をてらっているわけではない。普段の生活では吐き出せない罵詈雑言、話題にしづらいニュース。それらをmioは、ステージの上で惜しげもなく叫ぶ。ミオヤマザキの「スレ」において、綺麗事は一切ない。

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 そして、彼女は同性の味方だ。“なぜ生きているのか”、“つらい”、“ただ気づいて欲しいだけなんだよ”、開演直後に流れたオープニング映像には無数の思いが溢れていた。mioの型破りな歌詞の奥には、共感がある。例えば、「芸能界」は流行歌の歌詞を大胆に取り上げながらも、<自分自身を貫いて><この時代に“生きた証”を残してゆこう>と同じ目線に立ち、奮い立たせる。同時に、声を張り上げる大サビでは、飛び抜けたmioの歌唱力が会場に響き、そのパフォーマンス力の高さも立証されている。この日披露された新曲「鬱鬱」と「最愛」。「鬱鬱」は、自身を省みながら愛を渇望し、「最愛」では日常の中にある幸せの在り方を歌う。

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 会場中がヘドバンの海と化した「バカアホドジマヌケ死ね」、WHITE JAMからGASHIMAがゲストとして登場した「バンドマン」など、スレの場で日常の全てを忘れられるような楽曲もありながら、感傷的になった人の気持ちにそっと寄り添う一面もある。会場の照明が消え、mioとミオラーのスマートフォンによるライトでステージが照らされた「TOKYO」。ラストに披露されたこの曲では、生きて行く意味を模索し、最後には<生きることで光を 見失わないように この歌を歌う>と、か細い声でmioは歌う。スマホの“光”が左右に揺れるその様子は、紛れもなくあの場にいる全員で作り出した景色であった。mioの深い礼の後、スクリーンに映った「明日もどうにか生き延びよう。」という、彼女の信念にも似たメッセージは寒空の下、野音に集まったミオラーの心に響いたはずだ。

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 言うなれば、mioはカリスマであり、代弁者だ。そして、ミオヤマザキというバンドのスレは、ミオラーと一緒に作られていく。mioはライブ冒頭に「たった3000人のライブハウスで歌ってるやつに、何が出来るのか見せてやるよ!」と開口一番で宣誓していた。これは、過去のライブタイトルを野音の会場に当てはめたものであるが、“たった”という言葉が表すとおりに、今のミオヤマザキに野音は小さかった。その“たった”がミオヤマザキにとって、どこまで当てはまるのか。これからも、ミオヤマザキが作り出す「スレ」は続いていく。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

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