fhánaは今、かつてないほど開かれた地点へーー最新ツアーで示したバンドの新たな世界地図

fhána、かつてないほど開かれた地点へ

「夜空に輝く月は、ひとりで輝くわけではありません。(中略)私を生かしてくれてありがとうございます」

towana

 ライブの終盤、towanaが喉の手術を経験した自身の1年間と、それを支えてくれたメンバーやスタッフ、そして目の前のファンに向けて涙ながらに語った一言が、何よりもこの日を象徴するようだった。キャリア最長となる全5公演を回ったfhánaの『Looking for the World Atlas Tour 2017』ファイナル公演@Zepp DiverCity。この日のライブは、逆境を乗り越えて、多くの人々との出会いの中で紡がれてきたfhánaの豊かな世界線が、決して間違いではなかったということを多くの人々が実感するようなライブだった。

kevin

 今回の『Looking for the World Atlas Tour 2017』のテーマは、彼らが「新たな世界地図を探す旅」。全5公演を通してセットリストを固定することなく、観客の反応を受けて会場ごとに内容が変化していくバンド初の試みが行なわれ、その集大成となるこの日はついに前回のツアーファイナルと同じ場所、Zepp DiverCityにたどり着いた。つまり、今回のツアーの最大のポイントは、ツアーを通して出会ったすべての人々との思い出が、最終公演のセットリストやステージ演出といったすべての要素に結実しているということ。ライブは冒頭、福岡公演からはじまったkevinによるソロ・パフォーマンスでスタート。打ち込みのビートにシンセやグロッケンなどを重ねて音響的なサウンドを作り出し、fhánaの音響担当ならではの世界観を作り上げていく。そこにメンバーが登場し、ハイタッチしてはじまったのは、fhánaの「再生」をテーマにした「Rebuilt world」。音源よりも大胆に鳴る四つ打ちなどで見違えるほどダンサブルに変化したこの曲で、早くも会場は熱気に包まれる。それを支えるのは、以前よりもさらにパワフルな魅力が宿ったメンバーの演奏だ。

yuxiki

 実際、この日のライブは全編において、これまで以上にメンバーの演奏がダイレクトに伝わってくるような雰囲気だった。イントロが鳴る直前に照明が虹色になり、「おおお」と観客がどよめいた「虹を編めたら」や「コメットルシファー ~The Seed and the Sower~」「ワンダーステラ」といった序盤の楽曲は、より骨太になったyuxukiのギターや佐藤のシンセ、そしてバンド一丸となった演奏で、前回のツアー時よりもZepp DiverCityが圧倒的に狭く感じられる。「calling」のアウトロでの怒涛のジャムも、現在のバンドの魅力を伝えるようだった。そして、そんな演奏を引き出していたのは、おそらく、喉の手術を経てより伸びやかな声を手にしたtowanaの歌声だ。前回のツアーファイナル直前、喉にポリープがあることが分かった彼女は点滴を打ち、ライブ前は筆談状態で、絶望の中で当日を迎えたという。しかしそこから見事復活し、またステージに立てることの楽しさを表現するようだったこの日の歌声は、以前よりも逞しくバンドを引っ張るような雰囲気で、この日のライブの雰囲気を、大きく決定づけているように感じられた。

 そうして生まれたこの日のライブを覆う雰囲気は、ピンチを乗り越えた今だからこその、祝祭感溢れる一大エンターテインメント。中盤にはtowanaが「次は『小林さんちのメイドラゴン』のオープニング……じゃなくて、エンディング!!」と告げ、佐藤が作曲/yuxukiがギターを担当したちょろゴンずの「イシュカン・コミュニケーション」を披露。ともにボーカルを取ったtowanaとkevinがじゃんけんをして、kevinが「殲滅したーい!」と声を上げると、会場いっぱいに温かな歓声が広がっていく。また、「ケセラセラ 〜先斗町Ver.〜」を経て披露された「現在地」と「ムーンリバー」では、なんとtowanaがギターを披露! 前回のツアーではリーダーの佐藤が久しぶりにギター&ボーカルを担当したことも話題になったが、towanaがyuxukiと向かい合ってギターを思い切りかき鳴らす姿はまさに、誰も見たことのない新しいfhánaの姿だった。

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