2017年上半期チャートに見るJ-POPの現状とは? 有識者3人の座談会

 2017年も7月へと差し掛かり、上半期を振り返るチャートが各サイトにて発表されている。そのなかで、レコチョク、ビルボード、オリコンと、日本のヒットチャートを推し量る代表的なものがこぞって証明しているのは「2017年の社会的ヒット曲がいまだ登場していない」という問題だ。今回リアルサウンドでは森朋之氏、柴那典氏、杉山仁氏を招き、2017年上半期のJ-POPシーンを振り返る座談会を行なった。そこで展開された、近年の世界と日本のヒットチャートの共通点や、3人の考えるJ-POPの現在、期待を寄せる新人や上半期のMVPなど、チャートの表層からだけでは汲み取れない、多岐にわたる議論の模様をお届けしたい。(編集部)

「曲の人気ランキングが毎週変わるという現状がそもそもおかしい」(柴)

レコチョクダウンロード部門 レコチョクランキング(シングル・ハイレゾシングル合算)

ーー上半期のシーンを語るうえで、大きなトピックとしてはやはり星野源の「恋」が売れ続けているということでしょうか。レコチョクとビルボードでは星野源「恋」が単曲のランキングとして1位。発売は2016年10月5日ですから、年が明けても売れ続けたモンスターヒット級の作品ですね。とくにレコチョクランキングでは、ダウンロードのアーティスト部門でも1位を獲得しています。

森朋之(以下、森):昨年の楽曲なのに、ここまで勢いが持続しているのはすごいですね。

柴那典(以下、柴):2017年上半期に社会現象的なヒット曲がなかったことの表れともいえますね。音楽の話題自体がなかったわけではないと思うんですが、それが子供たちにまで広がるほどの波及力を持たなかった。一方、昨年後半には星野源の「恋」とRADWINPSの「前前前世」とピコ太郎の「PPAP」と、3曲もそういう曲があった。

杉山仁(以下、杉山):海外でも、エド・シーランをはじめとしてロングセラーの作品が多くなっていますし、日本にもその流れが来たと言えるのかもしれません。

ーーロングセラーが増えた要因の一つとして、“音楽の聴き方の多様化”による影響が考えられます。ダウンロードやストリーミングを中心としたレコチョク・ビルボードのランキングと、CDを中心としたオリコンのランキングでは、大幅にラインナップが異なりますから。

杉山:海外のチャートにロングセラーが多くなったのも、ストリーミングが発達してきてからですよね。

柴:基本的に、CDのセールスランキングって、毎週のように1位が変わるんですよ。僕らはそれが当たり前であると約20年間思ってきましたが、それはCDだからであって、曲の人気ランキングが毎週変わるという現状がそもそもおかしいと再認識すべきなのかもしれない。だから、僕は今の状況が「変わった」というよりは、「本来的なものに戻った」という風に受け止めています。著書の『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)にも書きましたが、「CDはもはや特殊商品である」ということが如実に出た結果ともいえます。

ーーなるほど。

柴:その延長線上で個人的に大きな衝撃だったのは、『CDTV』(TBS系)が4月8日放送分からCDのみのランキングを廃止し、複合チャート形式になったこと。これまでは配信の楽曲はいくらヒットしても上位に入らず、その一方で50位以下における演歌の占有率が高いという異色のランキングだったのですが、その回ではジャスティン・ビーバーやエド・シーランやオースティン・マホーンがTOP30に入ったりと、ようやくチャートが流行に対して最適化されたように感じました。

森:それはすごく良いことですよね。

ーーいわゆるリアルなヒット曲が可視化されるようになったということですね。ダウンロードランキングを見ていくと、ドラマタイアップやCMなど、テレビとの連動も大きいように感じます。

杉山:レコチョクのシングルランキングだと、1位から6位までがすべてCM・ドラマタイアップ曲なんですよね。

森:確かに、90年代は王道だった「テレビに出ること」や「タイアップ曲を書くこと」の価値がまた上がっている気がします。

柴:最近のタイアップからのブレイクを語るうえで欠かせないのは、TBSの火曜10時のドラマ枠、いわゆる「火10」の存在だと思います。ここ数クールでも星野源「恋」(『逃げるは恥だが役に立つ』主題歌)、Doughnuts Hole「おとなの掟」(『カルテット』主題歌)、神様、僕は気付いてしまった「CQCQ」(『あなたのことはそれほど』主題歌)と、主題歌のヒットを含めかつての「月9」と同じような存在になっている。

森:その中でも「おとなの掟」のインパクトは大きかったですよね。ランキングを見るとダウンロードもハイレゾランキングでも上位にランクインしていて、若年層から音質を求める大人のリスナーまで浸透しているのがわかります。

柴:個人的には「カプチーノ」(ともさかりえへの提供曲)や「青春の瞬き」(栗山千明への提供曲)、「華麗なる逆襲」(SMAPへの提供曲)と、椎名林檎は本人が歌うよりも提供した曲のほうがポップスとしての完成度が高いと思っていて。自分よりも他人が歌うほうが、本人の作家性が100%発揮されているような気がします。その題材としてDoughnuts Holeの4人は最高の歌い手だったのかなと。

森:ドラマタイアップに関しては、かつての「月9」のように「やれば売れる」というわけではなく、しっかりとした楽曲の完成度と、ドラマとのリンク度合いの高さが求められているような気がします。NHKの朝ドラ主題歌もそうなりつつあるような。

柴:まさに「恋」も「おとなの掟」も、ドラマの主題にかなり寄り添った作品ですからね。営業的なタイアップというよりは、作品同士の絆が結ばれるという本来的な意味でのタイアップに成功している例といえます。

杉山:その寄り添い具合は、アニソン的とも言えるのかもしれないですね。

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