『渋谷音楽図鑑』牧村憲一が語る、2017年に繋がる「都市型ポップス」の系譜

牧村憲一が語る「都市型ポップス」の系譜

 「渋谷と音楽」をテーマにした書籍『渋谷音楽図鑑』が、7月4月に太田出版より刊行された。同書は、音楽プロデューサーである牧村憲一氏と藤井丈司氏、そして音楽ジャーナリスト柴那典氏による共著であり、渋谷の街で音楽はどう育まれてきたか、そしてこれからどうなるのかーーその過去と未来をひもとく書籍である。

 今回、リアルサウンドでは牧村憲一氏にインタビューを行った。牧村氏は、大滝詠一、山下達郎、大貫妙子、竹内まりや、ピチカート・ファイヴ、フリッパーズ・ギター、L⇔Rといったアーティストの宣伝や制作を手掛けてきた音楽プロデューサーであり、およそ50年のキャリアを持つ。書籍についてはもちろん、渋谷の街の変遷や、「都市型ポップス」の系譜、そして2017年現在の音楽シーンに至るまで、じっくりと話を訊いた。(編集部)

「渋谷というのは一つの“記号”のようなもの」

ーー渋谷の街が50年の間に地理的にも文化的にもこれほど発展したこと、そして70年代〜90年代にかけて一時代を築いた音楽家たちと接点を持った街だということに、改めて驚かされました。

牧村憲一(以下、牧村):渋谷というのは一つの“記号”のようなものです。この50年ほどで、これだけ変貌を遂げた渋谷という一カ所から、渋谷と何らかの縁があった音楽、音楽家たちのことを書く。「都市型ポップス」と表現しているように、渋谷だけではなく、東京を中心とした音楽と拡大解釈してもらった方が良いかもしれません。その時代ごとにいくつもの場所や街が機能してきたなかで、僕は著者の一人としてたまたま定点観測してきたのが生まれ育った場所である渋谷だった。一番は新宿、二番が池袋で、渋谷は三番目という時代もあったし、もっと昔でいえば、日劇ミュージックホールやライブハウス、シャンソン喫茶がいくつも並んでいた銀座の時代もありました。その中で、『渋谷音楽図鑑』では、戦後50年間の中で、特に渋谷の街が大きく変わり始めた80年代〜90年代を軸に、音楽において渋谷の街がどれだけ大きな機能を果たしたかという点に着目したんです。

ーー渋谷の街が活気付いてきて、レコード店やライブのできる場所が色んな形で増えてきたということですね。

牧村:はい。これは本全体に言えることですが、何かのブームが起こると、みんなブームの表面だけを見るんですね。誰々がヒットしてるとか、あのキャパシティのホールを埋めたとか。でも、どんな音楽も突然オリジナルが生まれて突然ブームが来るのではなく、その前からずっと歴史が続いてきている。音楽の歴史はどこまでも遡れるんです。そうすると、渋谷に象徴される「都市型の音楽」というものが存在することに気づきました。

ーー「都市型ポップス」というものには、脈々と受け継がれている系譜があるということですか。

牧村:そうです。例えば60年代に日本にフォークソングが入ってきた時に、東京の学生たちの受け止め方は、アイビールックに身を包みギターを弾いて、舞台はキャンパスだった。ところが、同じフォークを関西で実践すると、ブルースやプロテストソングといった意味合いがないとフォークじゃないというふうになる。同じ文化を受け入れても、表現する方法が違うということです。それは人の問題でもあると同時に、土地柄の問題でもあったのではないか、というのが僕の考えです。そのなかで、渋谷の街に象徴される東京、あるいは都市型の音楽を俯瞰で見てみると、歴史や時代は違えども共通した、何か一本通ってるいるものがある。渋谷はそもそも川に恵まれた地域でしたが、街として発展するためには川が邪魔になったんですね。川が街を分断してしまうので。なので川を全部地下に入れて、その上に道路を作った。そのように、地域開発が結果として利点になったわけです。渋谷は、あまり大きな土地ではないですが、この50年の中で本当に様々なことが起こりました。

ーー細野晴臣さんや山下達郎さんなど、牧村さんが出会い、関わった人たちの多くは、今もまだ現役で活動し、新曲を作り続けています。

牧村:一緒に仕事をしたみなさんが数年で音楽をやめてしまっていたら、僕もきっと残ってないだろうし、本を書くというチャンスもなかった。だけど僕が出会った人たちは本物で、しかも生涯音楽家。さらに、それが一人じゃなくてたくさんいらっしゃる。これは偶然の集まりかもしれないけど、このことはきちんと伝えておきたいと思いました。こういう音楽がどうやってできたのか解析すると、50年前に作られた音楽も30年前に作られた音楽も昨日作られた音楽も、実は美術館の名画鑑賞のように繋がっていく。日本ではなかなか難しいんですけど、パリで1日休日があると美術館に行くのが大好きで。何が面白いって、有名な絵の前に学生さんたちが並んで模写してるでしょ。それを半日見てるんですよ。素晴らしい絵を直接見て模写するのは、僕らが子供の時に音楽を聴いて「いい音楽だな、こういう音楽やってみたいな、作りたいな」と思うのと同じなんです。それを見ていて、今の新しく音楽始めたいと思っている人たちに「僕らが発見したことを教えるよ」と手渡せるような本にまとめたいと思いました。

ーー第6章では、実際に楽譜をもとにはっぴいえんど「夏なんです」(1971年)からコーネリアス「POINT OF VIEW POINT」(2001年)まで、その繋がりをひもといています。

牧村:本全体としては渋谷を定点観測した物語ですが、第6章では、音楽の、非常に実技的、実用的な部分を入れました。これからも渋谷の街で、まったく新しいことのように見えながら、実は過去50年の歴史と重なるようなことが起こると思っています。むしろ、「これを模写してほしい」ということですよね。音楽を始めた人に、「盗むっていう行為は悪いことじゃない。模写する行為も悪い行為じゃないよ」と。「それを自分の体の中に吸い取り、そして十分発酵させて出てくるものはオリジナルであり、あなたのものだから」と。偉そうですが、この本がちょっとでも役に立ってくれればなと思ったんです。5年10年経って、このままじゃなく改訂版のような形でどんどん書き足していったり、新たな人が加わったりして、何かの礎になってくれればいいなと。

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