アキマツネオが語る、T.Rexの本質「マーク・ボランの魅力は音楽理論を超えたところにある」

アキマツネオが語る、T.Rexの魅力と本質

 1970年代に登場し、デヴィッド・ボウイとともにグラムロックの双璧をなした伝説のバンド、T.Rex。そのリーダーであるマーク・ボランが今年2017年に生誕70周年/没後40年を迎えるにあたり、T.Rexのトリビュートアルバム『T. Rex Tribute 〜Sitting Next To You〜 presented by Rama Amoeba』がリリースされる。本作は、マーク・ボランをこよなく愛するアーティスト、アキマツネオ(元マルコシアス・バンプ/現Rama Amoeba)が総合プロデューサーとなり、彼の呼びかけによってROY(THE BAWDIES)やシシド・カフカ、志磨遼平(ドレスコーズ)、加藤ひさし(コレクターズ)など豪華アーティストが参加。それぞれ思い入れたっぷりのカバーを披露している。

 中でも聴きどころは、アルバムのサブタイトルにもなっているデヴィッド・ボウイとの幻のデュエット曲「Sitting Next To You」を、アキマと吉井和哉(THE YELLOW MONKEY)がカバーしていること。他にも「Life's A Gas」を、BBCテレビでシラ・ブラックとデュエットした弾き語りバージョン風にアレンジしたり、John’s Children時代の楽曲をカバーしたりと、マニアックなこだわりもふんだんに散りばめてあり、T.Rex初心者からコアなファンまで楽しめる内容となっている。

 冒頭で述べたように、T.Rexといえば初期の「グラムロック」のイメージが強いが、実際はソウルやディスコ、パンクなどの要素も取り入れ大きく変化を遂げていた。本作を通して、そんなT.Rex/マーク・ボランの豊かな音楽性が特に若い世代に届くことを期待したい。

 アルバムのプロデューサー、アキマツネオにT.Rex/マーク・ボランの魅力を聞いた。(黒田隆憲)

T.Rexを知らない世代にも聞いてもらいたい

ーーまずは、このようなトリビュートアルバムを出すことになった経緯を教えてください。

アキマツネオ(以下、アキマ):実は去年もトリビュートアルバムを出しているんです。それは、僕がライフワークのように毎年行なっている、マーク・ボラン追悼イベント『GLAM ROCK EASTER』があって。それが去年30周年だったんでその記念としてね。で、今年はマーク・ボランが生誕70年、没後40年という、これまた大きな節目でして。2年連続にはなってしまうのだけど、ここでやらないわけにはいかないと思って。

ーーなるほど。

アキマ:今作では「Sitting Next To You」という、デヴィッド・ボウイとマーク・ボランの共作曲が軸になっています。実際にはテレビで演奏が、イントロまでしかできなかった幻の曲なのですが。

ーーマーク・ボランが司会を務める音楽番組『Marc』の、最終回のゲストが朋友デヴィッド・ボウイで、番組の最後に2人の共作曲「Sitting Next To You」を演奏するはずが、イントロでマークがステージの段差でよろけてしまい、演奏が中断してそのまま放送が終わったという。

アキマ:そう。で、その9日後の9月16日にマークは交通事故で亡くなってしまった。彼は、この曲が演奏できなかったことを悔やんでいたらしいんですね。それを僕が、何とかカタチにできたらいいなという気持ちがあって。このトリビュートアルバムの大きなモチベーションになったんですよね。

ーー未発表に終わったこの曲を、どうやって“再現”したのですか?

アキマ:マークとボウイがホテルの一室で、この曲を作っていた時のデモや、テレビの放送素材が出回っているんですよ。それらを解析して、「こんなふうに演奏したかったんじゃないか?」という想像のもと、完成したバージョンを、僕と吉井(和哉)くんのデュエットで作り上げたんです。

ーーなるほど。まさにスペシャルなトリビュート曲ですね。吉井さんの他にも、オカモトショウ(OKAMOTO'S)くんやシシド・カフカさん、村越 “HARRY” 弘明さんや加藤ひさしさんなど、若手からベテランまで幅広い人選になっていますが、どのようにキャスティングしていったのですか?

アキマ:今回は、T.Rexを知らない世代にも聞いてもらいたいという気持ちがあって。それで、T.Rexとはあまり関係のない人がボーカルを取るのでも全然かまわなかったんですよね。というのは、例えばもし、僕が本作で全曲ボーカルを担当してしまったら、単にマニアックなだけの内容になってしまう気がしたんですよ。それではやっぱり出す意味がなくて。それよりも今、様々なシーンで活躍しているミュージシャンが参加してくれることによって、これまでT.Rexを聞いたことのないような人達にも聴いてもらえて、「いいな」と思ってもらえたら嬉しいなと。なので、なるべく幅広いジャンルの人たちに参加してもらいました。

ーー元々、アキマさんと交流がある人たちを集めたのですか?

アキマ:ほとんどの人は交流がありました。でも、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)くんのように、今回で初めて会った人もいます。共通の知り合いはいたのですが、直接話したことがなかったんですよね。で、とにかくみんなには、自分のスタイルを思う存分出してもらいたくて。それは伝えました。

ーー選曲はどのように決めていったのでしょうか。

アキマ:それぞれ好きな曲を選んでもらうと、重複してしまうこともあるじゃないですか。でも、とりあえずは参加してくださったアーティストには何を歌いたいかの希望を聞き、ダブった場合は調整してもらう感じでした。でも、割とすんなり決まりましたね。中には「どの曲でもOKです。歌います」とか、「どの曲を歌ったらいいと思いますか?」っていう人もいて。その場合はこちらからリクエストを出しました。たとえばT.Rexを元々好きで詳しい人とかだと、かなりマニアックな曲を言ってくるので(笑)、それだとビギナーは辛いなというのがあったりして。大ヒット曲はもちろん押さえつつ、マニアにも納得してもらえる選曲というのは、ある程度は意識しました。結構、トリビュート盤ってこのバランスが難しいんですよ。

ーーJohn’s Childrenの曲が入っているのも、かなり通好みですよね。

アキマ:そうですね。今回、John’s Childrenの曲は入れたかったし、歌ってもらうなら加藤(ひさし)くんだなと。昨年、『GLAM ROCK EASTER』の30周年を記念してリリースしたT.Rexのトリビュート盤『It's young and gold and silvery old 〜GLAM ROCK EASTER 30th ANNIVERSARY〜』には、「ティラノサウルス・レックス」の曲も入れてて、今年やるならJohn’s Childrenだなと。しかもこの曲、僕は大好きなんだけど、かなりキビしい曲だから(笑)。ここは去年に引き続き、同年代の加藤くんにお願いするしかないなと思いました。おそらく加藤くんが、当時の時代背景を一番よく分かっているし、「加藤くんじゃないと歌えないよ」って。そしたら快諾してくれたんです。

ーーこの「Midsummer Night's Scene」という曲は、1967年6月にシングルリリースされるはずが、お蔵入りになってしまったんですよね。

アキマ:そうなんです。John’s Childrenといえば「Desdemona」が今は有名だと思うけど、「Midsummer Night's Scene」は僕が大好きで。入れた理由はそれだけかな(笑)。

ーーマークがギターで参加したデヴィッド・ボウイの曲「The Prettiest Star」を入れているのも、変化球技として面白いですよね。

アキマ:はい。さっきも話したように、「Sitting Next To You」を入れることが本作の肝であって、デヴィッド・ボウイのパートを吉井くんに歌ってもらったわけだけど、出番としてはほんの少ししかない。「これだけのために吉井くんに声をかけるのはなあ」と思った時に、そういえばデヴィッド・ボウイの曲で、マークがギターを弾いていたことを思い出して。この「The Prettiest Star」という曲は、1970年にリリースされて、それ以降の2人は表立った共演、共作というのはなかったんですけど、亡くなる間際にまた交流してたんです。マークが亡くなった後、彼の息子ローランの養育費もボウイが出してくれてたんですよね。

ーーそうだったんですね。

アキマ:ボウイも亡くなってしまったので、そういう意味でも今回のトリビュート盤に彼の曲を入れたくて。それで吉井くんに、「もう1曲歌ってよ」って声をかけたんですよね。「The Prettiest Star」は、歌詞の内容もこのトリビュート盤に相応しいですし。

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