BENIが挑んだ“ポップスの実験”とは? サカナクション、ユニゾンら楽曲を再構築したカバー盤を考察

BENIが挑んだ“ポップスの実験”とは?

 BENIの大ヒットカバーアルバムシリーズ『COVERS』の最新作『COVERS THE CITY』がリリースされた。男性邦楽アーティストの名曲やミリオンセラー曲を英語詞で歌い上げ、これまでに『COVERS』、『COVERS 2』、『COVERS 3』と3作品リリースしてきたこのイングリッシュ・カバーアルバムだが、約4年ぶりの今作では、”THE CITY“と題し、2010年以降にヒットした男性ボーカル曲をシティポップにアレンジした。前3作とはまた違った性格を持った、そしてカバーアルバムとしても進化を遂げた内容だ。
 

BENI – COVER ALBUM「COVERS THE CITY」全曲試聴映像 (2017.9.13 RELEASE!!)

 アルバムのリード曲となっているのは、「新宝島」(サカナクション)、「海の声」(BEGINが作詞作曲、桐谷健太が歌唱)、「ひまわりの約束」(秦基博)の3曲。BIGINや秦基博は、これまでの『COVERS』でもカバーされていた楽曲だ。そして今作において、新鮮でおもしろい試みに挑んでいるのは、サカナクションをはじめ、UNISON SQUARE GARDENの「シュガーソングとビターステップ」、RADWIMPSの「Nandemonaiya」といったバンドの近作も多くカバーしているところだろう。一癖、二癖持ったソングライターを擁し、オルタナティヴなサウンドをエッジ鋭く聴かせるバンドの曲、もともと独自の味付けが濃い曲を、どう調理するのかというのは今作での挑戦のひとつだったと思う。

 これまでの『COVERS』作品は、英語詞にすることで際立ってくるメロディラインや歌心の普遍性を知り、日本の歌謡曲のよさを再発見するようなカバーアルバムだった。誰もがなじみのあるバラードやラブソングなど、原曲自体もシンプルな曲が多く、極端にいうならば、カラオケでうっとりと歌に浸って熱唱できるような選曲となっていた。カバーでのアレンジも歌の魅力を抽出していくように極力装飾を削ぎ、また歌を繊細に縁取るミニマムなサウンドになるよう心配りがされ、英語詞であること、そしてBENIのパワフルでいて艶っぽい表情を持ったボーカルという武器で勝負をした内容だった『COVERS』。今回選曲された、とくにバンドものの曲は、歌としての普遍的な魅力はもちろんあるが、それをシンプルなアレンジで聴かせてしまうのはちょっと物足りない。サカナクションの「新宝島」ならば、憂いや翳りのトーンも帯びたメロディと重厚で高揚感たっぷりのバンドサウンドが生むダイナミズムが肝で、UNISON SQUARE GARDENの「シュガーソングとビターステップ」はなにより躁的な感情のうねりをスリリングに聴かせるカタルシスをバンドサウンドで余すことなく表現した曲。カバーするからには、原曲のこの醍醐味こそを届けたい。

 そこでの提案が、“THE CITY”という1テーマでパッケージすること。シティポップという、アレンジの方向性を打ち出すことでカバーアルバムであり、同時に一作品としての一体感がある仕上がりとなった。今作でBENIとともに、楽曲アレンジを手がけたのは、SUNNY BOYやUTA、starRoといった気鋭のトラックメイカー&プロデューサーで、現在のJ-POPシーンやR&B、ダンスミュージックのトレンドを牽引しているクリエイターだ。近年、BENIのオリジナル作品でも名を連ねていることもあって、互いの趣向や共通言語も多い間柄なのだろう。若手クリエイターとの作業で、各曲が挑戦的なトラックへと変貌を遂げている。

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