星野源は“音楽の歴史”をつないでいく アリーナツアー『Continues』追加公演を観て

星野源は“音楽の歴史”をつないでいく

 星野源、初の全国アリーナツアー『Continues』は、そのツアータイトルの通り“音楽は続いていく”ということを、独自のエンターテインメントを通して、とてもわかりやすい形で伝えようとするものだった。歌や演奏はもちろん、セットリストや演出、そのすべてが「Continues」というテーマに導かれて、ライブ全体がとても緻密に構築されていた。そして何より素晴らしかったのが、そんな大きなテーマを掲げながらも、同時に誰もが心から楽しめるショーとして完成されていたことだ。筆者が足を運んだのは、さいたまスーパーアリーナでの追加公演の1日目、9月9日。本稿ではその日の模様をレポートする。

 「受け継ぐ」「つながる」といった意味を持つ「Continues」。同名の楽曲は、カップリングとして去年10月にリリースしたシングル『恋』に収録されている。この曲は、星野源が“音楽の父”と呼ぶ細野晴臣に、「未来をよろしく」と言われたことをきっかけに制作した楽曲だった。

 はっぴいえんど、ティン・パン・アレー、イエロー・マジック・オーケストラ、そして数々のソロワークスや楽曲提供、プロデュースなどで、1970年代から2010年代の今に至るまで、日本のポップミュージックの礎を築いてきた細野晴臣。星野源は、中学生の時に細野晴臣の音楽に出会ってからの大ファンであり、これまでにも度々共演。昨年は横浜中華街の同發新館で行われた『細野晴臣 A Night in Chinatown』に、シークレットゲストとして出演し、そのステージの上でマリンバを演奏している。細野晴臣は間違いなく音楽の歴史をつないできた人物であり、星野源もまた、今その役割を背負う存在となっている。

 「Continues」というテーマは、冒頭のボイスドラマで明確に示された。星野源のライブにおけるボイスドラマは、これから始まるステージの導入部分として恒例の演出であり、ファンにとっては毎回どんなものになるのか期待を抱く楽しみのひとつだ。そして今回のツアーでは、とても重要な役割を持ったパートでもあった。

 登場人物は2人。「歌謡曲」先輩(声:大塚明夫)と、その後輩である「J-POP」(声:宮野真守)が、ひと気のないところで出会う。時代やそれに伴う価値観の移り変わりによって、自分たちの行く末を危ぶんでいる「歌謡曲」と「J-POP」。「もう僕らは必要とされていないのかもしれない」とさまよっていると、ふと星野源のライブのチラシを拾う。そこには「イエローミュージック」と書かれており、それを見ながら話をしていると、突如「EDM」がやってきて2人を襲う。「J-POP」は自分を置いて行くように訴える「歌謡曲」を連れ、逃げるようにして星野源のライブに向かうーー。

 「音楽は死にません。続きます」

 その一言でボイスドラマが締めくくられ、続いてステージに現れた星野源。ステージの中央に設置されたマリンバの前につき、軽やかな手さばきで鍵盤を叩く。楽曲はマーティン・デニーの「Firecracker」だ。細野晴臣が、ハリー細野&ティン・パン・アレーや、イエロー・マジック・オーケストラとしてカバーしている楽曲であり、星野源が前述の細野のライブでマリンバで参加したのもこの楽曲だ。「Firecracker」が発表されたのは1959年。それから長い年月を経て、2017年の今、日本で星野源の手によって鳴らされる。曲の終わりにマレットを握ってキメポーズをとる星野源は本当に楽しそうだ。

 「化物」披露後の最初のMCで、星野源は「3万人いるのに落ち着く」と話した。この日のさいたまスーパーアリーナはスタジアムモードで、キャパシティが最大の3万人まで広げて行われた。にもかかわらず、星野源の言葉通りこの日のライブはどこまでも親密で近しい距離感で、誰ひとり置いていかない懐の深さのようなものが感じられた。

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