JUJUが楽曲で演じ分ける“女の顔” 総勢27名のビッグバンド従えた堂々たるステージ

JUJUが演じ分ける“女の顔”

 10月10日は“JUJUの日”。

 そう、日本記念日協会が認定してから今年で10年目となる記念すべき日。東京国際フォーラムホールAには、いつにも増して華やかなオーラを身にまとったJUJUがいた。例年、この日に行うライブには趣向を凝らしたテーマで臨んできた彼女、今年は自身のライフワークであり原点でもあるジャズを、ビッグバンドスタイルで奏でることに挑戦。『JUJU BIG BAND JAZZ LIVE “So Delicious, So Good”』と題して、信頼する島健をバンマスに迎えた総勢27名のミュージシャンを率いての堂々たるステージを披露した。

 ここ最近は“スナック”をテーマにライブを行ってきたJUJUだが、胸元と背中の大きく開いたシックなドレス姿を見るにつけ、この日の彼女はさながら“キャバレー”の女主人といった装い。ステージ背景もマンハッタンのビル群を思わせ、会場にはどこか日本離れした空気が漂う。心なしか、集まったファンもよそ行きの顔だ。

 ライブはホーンが高らかに鳴り響く「The Lady Is a Tramp」から幕を開けた。2011年にトニー・ベネットとレディ・ガガがデュエットしたことでも話題となった名曲を、いたずらっぽい仕草を交えながら軽やかに歌い上げると、そのままオリジナル曲「It’s A Jazz Thing!!」へ。〈旅に出るのも お酒を飲むのも ヒールを履くのも ドキドキしたいから〉という宣言も、ビッグバンドジャズの醍醐味でもあるダイナミックなサウンドと相まって一層開放的な気分へと観客を導いていく。


 「こんな“Tramp”(=奔放な)な女の子が恋に落ちたらどうなると思う?」という前振りの後、静かなピアノと手を携えるように始まったのは「Night And Day」。「昼も夜もあなたを想っている」と心に秘めた想いを静かに語りかけたかと思えば、オリジナル曲「We Are In Love」で、少し挑戦的にスウィング。勝気に振舞っていてもふとした時に不安がよぎる、そんな恋に落ちた時ならではの揺れ動く感情を、選曲の妙で表現してみせた。

 いつしかステージのライティングも夜の帳が下りたようにブルーから濃紺へ。これまで幾度となく歌ってきたジャズの代表曲「Take Five」でしばしの休憩ののちは、「Fever」「The Look of Love」と続き、恋の炎をより激しく燃え上がらせていく。そして、そんな女の想いは「Sway (Quien Sera)」で最高潮へ。扇情的なラテンのリズムと、いつになく熱っぽいJUJUの歌声が会場全体を情熱的な空気へと変えていった。


 「What are You Doing the Rest of Your Life」で歌われるのは、熱に浮かされた季節を通り過ぎ、愛する相手と人生を共にしたいと願うようになった女の心の変化。先ほどまでステージにいた奔放な女の子は、いつしか愛を知り、慈しみ深い大人の女へと成長したかのよう。

 その後、「浮気してる人! 心して聴いてね」と始まったのは、「Guess Who I Saw Today」。事前に彼女なりの解釈を交えた曲の解説が功を奏し、ラストの〈I Saw You〉のフレーズの後には割れんばかりの大歓声が。続いて「INFATUATION」「If」「My Life」とオリジナルの3曲がこの日限りのゴージャズなアレンジで鳴らされると、これまでじっくり聞き入っていた観客も立ち上がり左右に体を揺らしながら、自然にハンドクラップが始まる。

 「Cry Me A River」はいわば恋の後日談。一度は去った男が再び現れ、復縁を迫るも傷ついた心はすぐには元に戻らない。「Lullaby Of Birdland」には、ひとつの恋を終えた女へ贈る子守唄のように、母性にも似た優しさが溢れていた。

 恋の始まりから終わりまで一連の情景を見せてきた上でもなお、「いつでも恋をしていたい」と率直な思いを口にしたJUJU。本編のラストは「言い訳のない関係でありたい、そんな祈りにも似た気持ちを込めています」と前置きし、新曲「いいわけ」を披露。生音ならではのストリングスホーンのスリリングな共演、そしてJUJUの切実な歌声、今日ここで鳴らされてこそのこの曲と確信する、会心のパフォーマンスだった。


 アンコールでは、シックなブラックドレスから一転、秋らしいミニドレスへ衣装替え。『DELICIOUS』に収録されている「A Woman Needs Jazz」でライブもいよいよエピローグへと向かう。「本当は最初からやりたいくらい」と興奮冷めやらぬMCに続けて、「ドゥワドゥワしたいでしょ?」と観客を立ちあがらせると、ステージを右に左に軽快な足取りで移動しながら「It Don’t Mean A Thing」を熱唱。幕が降り、客電がついた後も名残惜しそうに顔を見せ、最後の最後まで観客に感謝する姿に、客席からも惜しみない拍手が贈られた。

 新しい恋にウキウキしたり、相手を思って眠れぬ夜を過ごしたり。身も心もとろけるような蜜月が過ぎ去った後には、幸せな時の余韻に浸り涙する。人生で“So Delicious, So Good”なことは、そんな恋とともに生きている瞬間だと、JUJUは全身で表現して見せた。ライブの後に感じたのはまるで1本の映画を観終わったような感覚。楽曲を通して様々な女の顔を演じ分けてみせたJUJUは、紛れもなくこの“作品”の主演女優だった。

 来年4月からは新たなホールツアーが開催されるとのこと。これまでもツアーごとに自身の現在地を更新してきた彼女である。きっと新たなサプライズを携えて、私たちを出迎えてくれるに違いない。次なるステージに思いを馳せながら、まだしばらくはこの余韻に浸っていようと思う。

(文=渡部あきこ/撮影=Hiroshi Nirei)

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