三浦大知、Dream Amiらの歌声とディズニー名曲が共鳴 『Thank You Disney』の画期性に迫る

 三浦大知、西島隆弘&宇野実彩子、Dream Amiなどが、ディズニーの名曲を歌うカバーアルバム『Thank You Disney』が10月25日にリリースされた。このアルバムでは、日本の音楽シーンで注目されている16組の実力派アーティストが抜擢され、1アーティストが1曲ずつ、全16曲の収録楽曲をそれぞれ歌唱している。また、世界的に高い評価を得ている映画監督/演出家、ケニー・オルテガがプロデューサーとして参加。彼の手によって、ディズニーの名曲が現代風に生まれ変わっているところもポイントだ。

 本稿では、楽曲のアレンジ面を中心に、本アルバムの魅力を解説していきたい。

『Thank You Disney』参加アーティスト

「人の声」に焦点を当てたアレンジングと効果的な「コーラス」

 アルバム全体の傾向として、メインボーカルはもちろん、メイン以外でも“人の声”が重要なエッセンスとして取り入れられている。その中でも特徴的な部分は以下のふたつ。これらの要素は、原曲で見られるアレンジと大きく雰囲気が変わっている。

A. 人声のみによるアンサンブル(ア・カペラ)
B. 伴奏パートのイチ要素としてメインボーカル等をサポートする(バックアップ・コーラス)

 Aに該当する楽曲は、ビッケブランカの「Let It Go」(『アナと雪の女王』)とSOLIDEMOの「想いを伝えて-That’s How You Know」(『魔法にかけられて』)。この2曲では楽曲冒頭から美しいア・カペラが披露されている。ビッケブランカは単独アーティストであるが、冒頭のア・カペラを中心にコーラスワークで多重コーラスを実現。その後のバックアップ・コーラスもおそらく多重コーラスによるものである。また、SOLIDEMOは、人数がいるグループの特徴を生かし、冒頭ではア・カペラ(同一人物による声ではないという点で「Let It Go」のア・カペラと対照的)を披露。しかし、リズムが出てきた後は、「個人」の声が絡み合って楽曲を構成していく印象が強い。

『Thank You Disney』アルバム全曲試聴(Album snippets)

 一方、Bに該当する楽曲は、Beverlyの「Can You Feel the Love Tonight」(『ライオン・キング』)、May J.の「If Only」(『ディセンダント』)などである。ポップスタイルのアレンジでは、メインボーカルやソロをサポートする役割を、伴奏のイチ要素としてコーラスに担わせていることが多い。また、リズムが特徴的な部分では、アクセント的にコーラスにてハーモナイズする「リズミックキック」を使用。さらに<Ah>や<Uh>といった人声特有の「シラブル(音節)」を効果的に取り入れることで、通常の楽器には出せないニュアンスを表現している。これらはよく見られるテクニックであり、もちろん本アルバムの収録楽曲にも活用されている。

EDMと人の声(ボーカル)との関係性

 楽曲を現代風に生まれ変わらせるに当たって、EDMの要素を取リ込んだ楽曲が多く収録されている。特にDream Amiの「I See the Light」(『塔の上のラブンツェル』)は、「サイドチェインの使用」、「キックの4つ打ち」、「ドロップ(サビ)への期待感を煽るスネアロール」などEDMの御決まりともいえる手法が次々と顔を見せている。

 EDMは元々、“比較的少なめの数の音で構成される音楽”。収録楽曲のアレンジでは、サウンドとしてEDMの要素を取り入れながらも、やはり少なめの音数で伴奏部分がアレンジされた結果、人の声(ボーカル)を非常に明確に聴かせることができている。ボーカルとバスラインという「2本の線」のみでも楽曲が十分に成立するアレンジをベースに、そのほかはシンセサイザーなどで多少肉付けをしている程度。ボーカルがメインの楽曲として、理にかなった素晴らしいアレンジ・テクニックが披露されている。

 そのほか、原曲を生かした声質の違う男女同士によるボーカルの対比(西島隆弘&宇野実彩子の「Beauty and the Beast」(『美女と野獣』)、lol-エルオーエル-の「A Whole New World」(『アラジン』)など)もある。やはりここでも“人の声”に焦点を当てて聴かせることに重点が置かれている。

参加アーティストと楽曲の方向性との関連

 ケニー・オルテガはプロデュースにあたり、各アーティストのオリジナル楽曲を聴いた上でプロジェクトの方向性を決めたという。ケニー・オルテガが各アーティストの特徴を捉えているため、どの楽曲もこのアルバムならではの唯一無二の仕上がりになっている。しかし、アーティストのグループ人数や声のイメージを限定し過ぎず、広い視野でプロデュースしていることが楽曲からも伝わってくる。

 三浦大知の「When You Wish Upon a Star」(『ピノキオ』)は、コーラスといった演出もなく、アコースティックギターの音色を軸にしたシンプルな曲調。三浦が持つ歌声を存分に堪能できるようなアレンジとなっている。U-KISSの「Try Everything」(『ズートピア』)は、グループでありながらも、どちらかというと個人の声を単独でしっかり聴かせていく方向性の強いアレンジ。これは、U-KISSのオリジナル楽曲とも通じている。一方、lol-エルオーエル- の「A Whole New World」は、「Try Everything」とは対照的に、グループの各人の声をそれぞれ等しく聴かせるようなアレンジで仕上げている。

 これらの楽曲や、ここで紹介しきれなかった楽曲においても、進行に合わせてブロック毎に様々なアレンジを使い分けている楽曲が多い傾向があり、歌声と楽曲の親和性を保つことに加えて、メリハリが確認できる。

 曲の種類やアレンジ手法は多面的だが、従来のディズニーのカバーアルバムで見られた、オペラ歌手のようなクラシカルな歌い方は見られない。その点はアルバムの全体に連関 関連性を感じる。幅広いリスナーに向けて制作されていることが伝わってくると同時に、各アーティストの新たな一面や、ディズニー音楽の新しい楽しみ方が提案されているように思う。

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