西野カナ、MACO、ちゃんみな……女性リスナーの共感を呼ぶアーティストたちの新作

 J−POPの場合、楽曲を通してリスナーに“こういう気持ち、すごくわかる”と感じさせることはきわめて重要だ。現在を生きる人たちが何を考えて、どんなことを欲しているのかを的確に掴み、誰にでもわかる形で楽曲にすることがヒットにつながる。その図式はおそらく、50年前も今も変わらない。そこで今回は、特に女性リスナーの共感を呼び起こしているアーティストの新作を紹介したいと思う。

西野カナ『LOVE it』(通常盤)

 2016年の日本レコード大賞を「あなたの好きなところ」で受賞、今年9月に東京、大阪で初のドーム公演を成功させるなど、名実共に日本のトップアーティストに登り詰めた西野カナ。2008年のデビュー以来、彼女が支持され続けるもっとも大きな理由はもちろん、(主に同世代女子への)共感力の高さだ。その内容は年齢ともに変化していて、“働く女子に対する応援歌”「パッ」、“親友の結婚”をテーマにした「Dear Bride」などのシングルが収録された本作『LOVE it』にも、20代後半の女性の“わかる!”を引き出す楽曲が並んでいる。ライフスタイルの細分化、個別化が指摘されて久しいが、“友達が大事”“彼氏に会いたい”といったテーマは不変なのかもしれないと、このアルバムを聴いていると確かに感じてしまう。EDM以降の洋楽のトレンドをさりげなく取り入れたサウンドメイクも気が利いている。

西野カナ 『Girls』MV&メイキング(ダイジェストVer.)
MACO『メトロノーム』(通常盤)

 自身の生い立ちやルーツを綴ったフォトエッセイ『タイムマシンができたなら。』を刊行、7月には自身最大キャパとなるパシフィコ横浜公演を行うなど活動のフィールドを拡大しているMACOの3rdアルバム『メトロノーム』。恋する女子の感情をカラフルに映し出すラブソングで人気を得ている彼女は、「恋するヒトミ」(「MACO x ACUVUE®」キャンペーンCMソング)「恋の道」(JTB CMソング)というタイアップソングを含む本作によって、その表現の幅を大きく広げている。それを象徴しているのがリードトラックの「Sweet Memory」。90年代R&Bテイストを取り入れたトラックのなかで、友達を好きになってしまい<友達以上も恋人にも/なれないから...>と哀切な感情を歌い上げるこの曲は、シンガー/作詞家の両面において、彼女のアーティスト性をさらに深めることになりそうだ。

MACO「Sweet Memory」Music Video〜アルバム「メトロノーム」iTunes予約受付中〜
ちゃんみな『CHOCOLATE』

 iTunes HIP HOPチャートで1位を記録したメジャー1stアルバム『未成年』からわずか8カ月後にリリースされるちゃんみなのミニアルバム『CHOCOLATE』。『SUMMER SONIC 2017』、『ULTRA JAPAN 2017』といった大型フェスに出演するなど急激に注目度を高めている19才のフィメールラッパーはこちらの想像を遙かに超えるスピードで成長を続けている。Ryosuke "Dr.R" Sakai、JIGG、AK-69、RYUJAとの共同制作による現行のUSヒップホップとも重なるトラックも素晴らしいが、特筆すべきはやはりリリック。甘くて苦い恋愛の思い出をノスタルジックに描いた「CHOCOLATE」、自分をヘイトする人間に対する率直な思いを込めた「TO HATERS」などテーマは様々だが、共通しているのは“自分は自分でありたい”という強烈な意志だ。年齢、国籍、性別などに関する断絶が拡大している現在において、個であることの大切さを明確に示したうえで他者とつながろうとする彼女のスタンスは、じつに多くの示唆を含んでいると思う。

ちゃんみな (CHANMINA) - CHOCOLATE (Official Music Video) [YouTube Ver.]

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