桐嶋ノドカ、表現の新しい形を語る 「とっ散らかっている自分こそが本当の私」

桐嶋ノドカ、表現の新たな形

 小林武史に見いだされ、2015年に1stミニアルバム『round voice』を発表すると、全身に感情の機微を宿した類稀な歌声で話題を呼んだシンガーソングライター、桐嶋ノドカ。彼女が小林武史とryo (supercell)という豪華布陣とコラボレーションして制作した最新シングル『言葉にしたくてできない言葉を』を完成させた。2015年の配信限定曲「柔らかな物体」以来2年振り、初めて自作曲以外の要素も加えたこの作品は、マンガ・ノベルアプリ「comico」の人気漫画が原作の映画『爪先の宇宙』の主題歌。また、この映画で桐嶋は女優業にも初挑戦&初主演。「当時の自分の状況と重なる部分があった」と語る主人公・亜紀を熱演した。周囲とのかかわりあいの中で徐々に自分の居場所を見つける亜紀の気持ちを代弁すると同時に、デビュー以降の様々な葛藤を経て、アーティストとして力強く覚醒していく彼女自身の姿が収められている。新たな旅立ちと再生の機会となった新作について聞いた。(杉山仁)

 心と状況が、またちゃんと釣り合うようになった

ーー今回の『言葉にしたくてできない言葉を』の制作に取り掛かる直前、実は桐嶋さんには「歌うことにエネルギーをもてなくなった時期があった」そうですね。まずはこれについて、どんな状況だったのか詳しく教えてもらうことはできますか?

桐嶋ノドカ(以下、桐嶋):何かきっかけがあったというわけではないんですけど、私は子供の頃から歌うのが好きで、中学の頃には「歌っていくのが私の人生なんだ」と思って、それから10年以上歌を続けてきたことによって、それが仕事になって。でも、それで逆に難しくなっちゃったんですよ。私にとって歌は自分を生かしていく活力だし、食べ物と一緒で自分の栄養になるものなので。そういうものを仕事にしたときに、「大変だけどしょうがない」とか「これは仕事だからこうしよう」と割り切ることができなかった。仕事にすることを選んだのは自分だけど、上手く割り切ることができるわけもなくて、その頃は自分が何をしたいのかがちょっと分からなくなってきてしまっていたんです。

ーーただ楽しくてはじめたものが、色々考えすぎて難しいものに思えてきてしまった、と。

桐嶋:そうですね。すごく臆病になってしまって、自分が思うように歌うことへの自信や好奇心みたいなものもなくなってしまっていて。それで曲作りにしても、私自身が「こういうものが好きだから!」という気持ちで作ることが、なぜかできなくなってしまったんです。そういうことが重なった結果、一時は「本当に歌だったのかな?」と思ったりもしたんですよ。それで、(作品のリリースを休んで)「ちょっと1回静かにしてみよう」って思ったんです。

ーー夢見た仕事についたことで、「頑張らなきゃ」と根を詰めすぎた部分もありましたか?

桐嶋:どうでしょうね? 私はそんなにド真面目な人間でもないですけど……(笑)。でも、どこか完璧主義的なところがあったのかもしれないです。「曲も歌詞も自分で書けなきゃいけない。アレンジもある程度までは自分でできなきゃいけない」という感じで、その当時の私は「全部自分でやらなきゃいけない」と思っていて。ただ歌を歌うのが好きなだけだったのに、自分をできない範囲まで拡張しようとしていたというか、ひとりで頑張ろうとしてしまっていたんですよ。それで、そういう気持ちのままお客さんの前で歌を歌うのは申し訳ないと思って、「ライブもやりたくないな……」という感じになってしまって。聴いてくれる人たちは、私が100%歌に向かっていると思って聴いてくれるわけなので、すごく申し訳ないと思いました。それで、そのタイミングで「実は……」とスタッフの方に相談したんです。それまではずっとひとりで考えていて、「苦しいけど、これを続ければいつか楽になるだろうか?」と思っていて。でも、いざ言ってみたら、みんな相談に乗ってくれたし、気づいてくれたというか。そこからは、私がひとりでやらないといけない状況にはならなくなったし、どんなに小さいことでも相談していいんだな、と気づけたんですよ。これって、当たり前のことかもしれないですけど(笑)。

ーーなるほど。そう考えると、今回の小林武史さんとryoさんとのプロジェクトは、そこで桐嶋さんが気づいたことの延長線上にあるもののような気がしますね。

桐嶋:まさにそうなんです。3人でやるということ自体も、私にとっては「ひとりでやらない」ということなので。今回、ちょうどいいタイミングで「3人でやるのはどう?」という話が出て、もしかしたら何かが変わるかもしれないと思ったし、もしやるなら、これまでとは違ったスタンスで取り組みたいと思ったんです。そうすればきっと、小林さんとryoさんから新しい何かが吸収できるんじゃないかなって。それで、迷いながらでもやってみようと決めました。もしそれで上手くいかないのなら、それはそれでいいやって。とにかく、自分で楽しく音楽ができるようにやってみて、それがまた上手くいかなければ、歌は仕事にしなくてもいいやって。それで改めて、ちゃんと新しい桐嶋ノドカ……――。“人に頼る桐嶋ノドカ”になってやってみようと思ったんです。小林さんとryoさんと、ちゃんとかかわってみよう、って。

ーープロジェクトをはじめるとき、どんな話をしたんですか?

桐嶋:まずryoさんは、私が想像していた以上に人とかかわって曲を作っていく人でした。もっとデータのやりとりで作業を進めていくのかなと思っていたら全然違って、すごく長い時間、連日連夜同じスタジオにこもって、時間をかけて作業を進める人で。ご飯を食べながら色んなことを話したり、スタジオで遊んだりしながら、「楽しいね。よし、曲を作ろう」という、まるで合宿みたいな雰囲気だったんです。音楽が好きな人たちが集まってみんなで作り上げていく作業って、「なんか楽しいね」って。もちろん、曲作り自体は真剣で、毎回かなり細かい作業をするんですけど、それも基本的には楽しい雰囲気でした。そのおかげで私も、「やっぱり歌が好きだったんだな」と改めて確認できたと思います。そういう気持ちが純粋に還ってきたんです。「そう思わないといけないな」ではなくて、単純に「スタジオ行くの、楽しいな」って。そうしているうちに、私の心と状況が、またちゃんと釣り合うようになってきたんですよ。

ーーでは、ryoさんが作詞/作曲を、ryoさんと小林さんが編曲を担当したタイトル曲の「言葉にしたくてできない言葉を」は、どんな風にできあがっていったんでしょう?

桐嶋:最初は、ryoさんのギターの弾き語りのデモがあっただけでした。私はもっと完成された状態のものや、もっと打ち込みが入ったものを作り込んでくる人だと思っていたので、それも意外でしたね。あと、最初はメロディも歌詞も今とは違ったんですよ。でも、最初に1番だけあった歌詞を読んだときに、「私のことを外側から書いてくれてる」というか、「私の歌だな」と思って本当に驚きました。私の頭の中のパニックや、上手く人に気持ちが言えないときの、それこそ言葉にならない状態が上手に書かれてあったので。それをryoさんのスタジオで歌ってみたんですけど、私が歌うとまたどんどんメロディが変わっていくし、歌詞もそれに合わせて変わっていって。「それならもうちょっとこうした方がいいな」と一部を変えて、歌って、「もうちょっとこうしよう」とまた変えて……という感じでしたね。

ーーこの曲はAメロで桐嶋さんが喋るように歌っているパートも特徴的ですが、これもメロディやアレンジが変化していく中で出てきたものですか?

桐嶋:そうですね。「ここ、喋ってみようか?」とryoさんに言われてできたパートです。逆に、サビのところの歌い方は最初から変わっていないところです。この感情が爆発するようなところが、この曲のポイントだと思うので。ここは、「どれぐらい抑圧された感情がバーン! と出ているか」ということが、歌詞の前に声だけで伝わるように意識しました。本番は広い部屋でひとりで歌入れをしたんですけど、ひとりだから歩き回ったりして、感情が高まるように集中して、「もう何もかも出せますよ」という状態でレコーディングをはじめましたね。

ーー完成版のテイクは、基本的に一気に歌い切ったのかな、と想像しました。曲の最後に歌い切った後の桐嶋さんの息遣いがそのまま残されていたので。

桐嶋:そう、そうなんです! これは本当にたまたまで、歌い終わって全部息を出し終わったあとに「すうっ」と息を吸っている音ですね。息を吹き返した状態(笑)。それが「いいね」という話になって、残したものでした。ryoさんは部分録りをしない人で、レコーディングでは最初から最後まで毎回歌い切っていましたね。部分によってはいいテイクと入れ替えたところもあるとは思いますけど、基本的には歌ったときの感情の大きな流れが大切に残されているんです。この曲はもともと感情だけで歌うような感じの楽曲なので、テイクごとにその熱量もかなり違っていたんですよ。

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