フェスを通じて現代社会を見るーーレジー著『夏フェス革命』よりイントロダクション公開

 音楽ブロガー・ライターのレジー初の著書『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー』が、12月11日に株式会社blueprintより刊行される。

『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー』

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 1997年のフジロックフェスティバルの初開催から20年あまり、夏フェスはどのようにして「音楽ファンのためのイベント」から「国民的レジャー」となったのか。同書では、世界有数の規模に成長したロック・イン・ジャパン・フェスティバルの足跡や周辺業界の動向、メディア環境の変化などに触れながら、エンターテインメントとして、またビジネスとして、フェスが成功した仕組みを考察している。

 発売に先駆け、リアルサウンドでは同書の導入部分にあたるイントロダクションを公開。前半に続き、今回は後半をお届けする。なお、発売日付近には、著者レジーのインタビューも行う予定であり、12月14日には作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏を迎え「夏フェスに見る音楽ビジネスの未来」をテーマに、青山ブックセンター本店にてトークイベントを開催する(詳細はこちら)。

 

フェスを通じて現代社会を見る

 フェスのあり方が変わっていっていることに関して、本書では以下のようなスタンスに立って論を進める。

・フェスのあり方の変容は、フェスを主催する人たちによって引き起こされたものでは必ずしもない
・フェスに参加する人たちが「自分たちなりのフェスの楽しみ方」を自主的に見出していく中で、フェスを主催する人たちもそれに連動した
・それによってフェスはより受け入れられる娯楽になった

 「ユーザーサイドの動きをうまく取り入れることで供給者側が提供価値をブラッシュアップす る」というこの構造は、単なる顧客志向=「お客様のニーズを捉える」といった考え方とは少し異なるという認識である。従来の顧客志向が「お客様はこんなニーズがありそうです→それを先んじて解消してあげよう」というあくまでも供給者側を主語とした考え方であるのに対して、ここで提示した考え方は「自主的に楽しみ方を見出すユーザー」を起点として駆動する。そして、何かしらの意図を持って環境をハックしていくような性質を(意識的に/もしくは無意識のうちに)兼ね備えたユーザーによって供給者側が触発されるプロセスを「協奏」という言葉で定義する。この概念の具体的な中身については追って字数を割いて紐解いていきたい。

 また、本書においてはフェスを「音楽イベント」として位置づけるだけでなく「大勢の人が集 まるタイプのエンターテインメント」「複数のプレーヤーが経済活動を行うための場」といった 側面から考えることも意識している。フェスが見せる様々な表情を多面的に捉えることで、フェスの隆盛を音楽業界の物差しで評価することに加えて、より俯瞰した視点からその意義を考えてみたい。ちなみに、音楽業界のことを「他の産業で起こる課題が先行して顕在化する」と評する向きもある。そう考えると今のフェスで観測できる状況のいくつかから、この先の日本の社会の行く末を少なからず読み取れる可能性がある。本書ではそういった観点からの分析(仮説の導出)にもトライする。

 本書は、前述したような議論を深めるための4つの章で構成されている。第1章では、そもそもフェスというものがステークホルダーにどのような価値を提供しているのかという枠組みを整理し、その中でも主催者とともにフェスを「協奏」していく存在である参加者の動きに着目する。そしてその動きがフェス市場の拡大にどのように寄与したかについて検討する。次に第2章では、「協奏」によって大きな成長を遂げたフェスのケーススタディとして「4大フェス」の一つであ るロック・イン・ジャパンの歴史について取り上げる。筆者はこのフェスに初回の2000年から2017年まで毎年参加してきた。自身の実体験も交えつつ、ロック・イン・ジャパンがどの ような変遷を遂げてきたかについて、第1章で提示する枠組みを踏まえて検証する。さらに第3章では、フェスが「協奏」によって大きくなった背景についてのブレイクダウンを行う。音楽業 界の状況だけでなく、その他のエンターテインメントの動向やメディア環境の変化なども視野に入れることで、フェスというもののあり方をより立体的に理解する。最後に第4章では、「協奏」 によって拡大した現在のフェスから読み取れること、およびフェスが音楽シーンに与える影響についてまとめる。

 なお、各章において、フェスに関する記事や音楽シーン全般に関する書籍の内容を適宜引用している。引用箇所にはそれぞれ出典を明記しているが、本書の執筆にあたっては円堂都司昭『ソーシャル化する音楽』(青土社/2013年3月)、永井純一『ロックフェスの社会学』(ミネルヴァ書房/2016年10月)、柴那典『ヒットの崩壊』(講談社/2016年11月)の3冊にて展開されている議論を参照している部分が多いことをあらかじめ表明しておきたいと思う。

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