TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDが語る、アニメ『魔法陣グルグル』劇伴の仕掛け

TECHNOBOYSが語る『グルグル』劇伴の仕掛け

 2017年に3度目のテレビアニメ化となった、衛藤ヒロユキによるギャグファンタジー漫画の名作『魔法陣グルグル』。今回のアニメ化において、音楽面で大きな役割を担っているのが、主題歌の大半と劇伴を手掛けるテクノポップユニット・TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(以下、TECHNOBOYS)だ。

 2010年代以降はユニットやソロ名義でアニメ劇伴・主題歌・キャラソンへも積極的に参加する彼ら。リアルサウンドでは、12月27日にリリースする『「魔法陣グルグル」オリジナルサウンドトラック Grugruppo Musicale』の話題を中心に、TECHNOBOYSの音楽論や、40台を超えるアナログシンセを導入した同作の工夫、3人が考える『魔法陣グルグル』の魅力などについて迫った。(編集部)

アナログシンセは40台超え、木管までProphet T-8で再現

ーー『魔法陣グルグル』は、過去に二度アニメが放送されてきた作品ですよね。今回の劇伴制作にあたって、これまでのアニメについてはどの程度意識しましたか。

フジムラトヲル(以下、フジムラ):聴くには聴いたんですけど、それを意識したわけではないですね。

松井洋平(以下、松井):俺は未だに聴いてないですよ。

石川智久(以下、石川):見てしまって、引っ張られるのも嫌ですしね。

ーーその代わり原作は徹底的に読み込んだというわけですね。

フジムラ:そこを命綱としていた感じですね。シーンを指定しているような曲に関しては、それこそ徹底的に。

ーーですよね。曲の話についても伺っていきたいのですが、これまで3人が手掛けてきたアニメ劇伴とはテイストも違っていて、ポップなものが多いという印象です。と、同時に、ものすごく狂気的なものを感じるのですが……。

石川:どこにそんな要素があるの(笑)。

フジムラ:そんな角度から入ってくると思わなかった(笑)。

松井:嬉しいですよ、その切り込み方は(笑)。

ーーだってこの劇伴、ほぼアナログシンセで作っているんですよね? メロディ系の楽器は勿論、木管まで。

松井:ああ、そこに狂気を感じてくれたんですね。

フジムラ:まあ、通常の2〜3倍ぐらいは時間がかかってるので(笑)。丸1年くらい使って作り上げましたから。

ーーアナログシンセで生楽器をとことん再現する形というのは、冨田勲さんがよく使われていた手法ですよね(『月の光』『展覧会の絵』など)。彼が亡くなったことへの敬意もあったとか。

フジムラ:アナログシンセに限らず、冨田さんはシンセ界の巨匠でもありますから、敬意を表したいという気持ちはもちろんありました。

松井:でも、そもそもは作り始める際に「TECHNOBOYSというアイデンティティを保つためにはどうすればいい?」というのを石川が考えていて、そこと状況がリンクしたということでもあるんですよ。

石川:『魔法陣グルグル』という作品だからこそ、できることもできないこともあるんですよ。僕らはこれまで、劇伴ではエレクトロニカ的なアプローチをやってきたんですけど、今回はそういうテイストの作品ではないし、かといって全部メロディアスというのも、TECHNOBOYSっぽくはない。

ーー作品のコンセプトと自分たちらしさの間で葛藤したわけですね。

石川:サウンドトラックの中に自分たちらしさを入れるというのは、本当は避けた方がいい考え方かもしれないんですけどね。ただ、選んでいただいたからには、自分たちの強みも活かして、作品にも合致したものを作りたかったので、方法論を考えた結果としてアナログシンセサイザーに辿り着いたわけです。冨田さんといえば、アニメ創世記にやっていた劇伴の作り方は参考にしましたね。でも、実は冨田さんって、アニメ劇伴ではシンセをほとんど使っていない。

ーーそうですね。『リボンの騎士』など、オーケストラサウンド主体のものが多い印象です。

石川:そうそう。だから『月の光』『展覧会の絵』みたいなシンセのアルバムを3人で聴いて、現代ならこういうアプローチのほうがアニメーションに合うはずだという結論になったんです。

松井:冨田さんのオマージュは、ある意味必要に迫られたアプローチでもあるんですよね。ただ、これを始めたことによって、1年でアナログシンセがめちゃくちゃ増えました(笑)。

ーー結局、全部で何台くらい使ったんですか?

フジムラ:40台はゆうに超えてました。サウンドトラックを買っていただければ、ブックレットに使用したアナログシンセの機種が全部書いてますのでぜひ(笑)。

ーー各自で持ってる機材を持ち寄ったわけですよね。3人共通で使っていたものもあったりするのでしょうか。

松井:各自の家にあるのはOberheim SEMだけ。

フジムラ:基本的には、誰かが持ってたら買わなくていいだろうと。

松井:俺とフジムラだけ被ってるものもありますけどね。Oberheim Matrix-6とか。

ーー最も重宝した機材は?

石川:ダントツでProphet T-8ですね。

松井:今回の要じゃないかな。あれがなかったら作れなかった。Prophet T-8って制作直前に仕入れたんだよね。生音系を再現をするとき、特にウィンド(木管)系の音を作るのに大活躍しましたよ。

石川:オーボエはすごかった。

松井:あれは演奏ではできないよね。

ーー「演奏できない」とは? そこまで複雑な感じはしないのですが。

松井:これに関しては再現が難しいというか。あれって細かいタッチで薄く弾くことによってオーボエっぽくなるんですけど、手で弾いたら実音になっちゃうんです。なので、手弾きでやった後、ベロシティを下げるんです。

ーーそれでオーボエっぽさを出しているということですね。アナログシンセって、あまり狙って音を出すような楽器ではないというイメージがあるのですが。

フジムラ:狙うんですけど、まあなかなか狙い通りになってはくれないですよね。

松井:ただ、近い音を狙うことはできるから、そこから調整していくという感じです。

石川:今回は割と狙って作ったものが多かったですね。すでに存在する楽器のシュミレーションが大半だったので。

ーーあらかじめ完成形のある音だと狙いやすいということですか。そのなかで、全ての音色をファミコンゲームっぽいものにしたのはなぜでしょう。

石川:そこは『魔法陣グルグル』が『ドラゴンクエスト』っぽいからじゃないかな(笑)。ドット絵を使うことも聞いていたので。

フジムラ:だからと言ってチップチューンをやるタイプではなかったので、この形になったんです。

ーーもともと『魔法陣グルグル』が『ドラゴンクエスト』のオマージュ(ともにスクウェア・エニックス社の作品)ですもんね。これらの方向性は、割とスムーズに決まりましたか?

石川:どういう方向性で行こうかっていうのを明確にするまでは、結構かかったね。

フジムラ:冨田さんのシンセ曲を含め、改めて参考になるであろう音源を聴くのに、かなり時間は費やしました。完璧にアナログシンセだけっていう作り方をしたことがそこまでなかったので。先人の方々がどういう風なやり方でやってたのかを、この機会に色々調べたりもして。

石川:シンセサイザーだけじゃなくて、リバーブがやっぱり重要になってくるな、とか。そういうコンセプトをアニメーター側、監督側の思惑とどう合致させていくか、というのが最初の難関でしたね。

「こんなことで悩みながら曲作るやつ、他にいるのか?」(松井)

ーーこういった機材を使っている以上、制作にあたって想定していなかった苦労もあったかと思うのですが……もっとも苦戦したポイントは?

石川:流し込みに時間がかかるところかな。

フジムラ:これは単純に機材的な問題なんですけど。うちに和音の出るアナログシンセが少なかったこともあって(笑)。Oberheim Matrix-6とProphet-600の2つに頼るしかなくて、それをとにかく使い倒しました。

松井:Mono/Poly問題だ(笑)! 僕とフジムラは、ソフトシンセで曲を作ってから、音を一つずつアナログシンセに差し替えてたんですよ。

フジムラ:直で弾いて作ると、キリがないと判断したんです。でも、いざ作り始めると、ソフトシンセで出てた音がアナログシンセで出なかったり(笑)。

松井:ソフトシンセには成り立ってた和声が崩れちゃったりね。

石川:倍音が全然違うから。

松井:そう。だから「できた!」と思っていたものが、全然完成じゃなかったというケースが多くて。

ーーそこでの微調整にもかなり時間を要したわけですね。

松井:トップノートを変えたりとか。「こんなことで悩みながら曲作るやつ、俺らの他にいるのか?」と思いながら(笑)。

フジムラ:「これでOK!」って出してもいいところなのに、そこからが勝負って、恐ろしいですよね。しかもそれが2クール。

松井:それに、グルグルはこれまでの作品よりある意味「ちゃんとした曲」にしないとダメだったので。

フジムラ:雰囲気だけで曲ができないんですよ。

松井:ビートで突っ切って、背景音楽として成り立たせることのできるアニメとは違って、ちゃんとメロディを書いて展開があることを要求されてましたから。

ーー必然的に選択肢が少なくなっていくわけですね。

石川:クラシック音楽の基礎、楽譜で作るのと似てるかもしれないですね。

松井:僕はそれを学んでいないので、間違いもいっぱいあって(笑)。「この一音間違ってます」って言われたら、もうまるごと録り直しなんです。

フジムラ:両方同じ機材を持ってて、パラメータを一緒にしても、個体差で出る音が変わったりしますからね。

ーー2人が苦戦している一方で、石川さんは別の制作方法で進めながら、一番多い曲数を担当されていました。

石川:僕の悩みは……勇者ものなので、やっぱりブラスは生なんですよ。メインテーマを含め、重要な曲ではブラスを入れているんです。こういう管楽器って、管によってキーが違うじゃないですか。僕もクラシック出身の人間ですが、実はキーが違う楽器が嫌いで……(笑)。楽譜を書くときに、学生時代の思い出がフラッシュバックしてきました。

ーー管楽器のスコアを書くにあたって、難しいポイントは?

石川:管楽器って、ストリングスと違って倍音が多いので、音がぶつかっちゃう可能性が高い。だから、それを避けようとするために、各自の楽譜を調整して……将棋をやってる感覚に近いかもしれない。でも、レコーディング現場に行ったら、楽器の個性や特徴で、全く思い通りにならなかったりもしますから。ホルンなんて、世界で何番目かに難しい楽器で、ピッチコントロールが難しかったり。そのぶん、演奏者にはかなり頑張っていただきました。

フジムラ:理論上は出るけど、演奏できるかはわかりませんよ、って音もありますもんね。調(キー)によって変わったりもするし。

石川:キーもそうだよね。だから、ブラスはどちらかというとフラット系が強い。ストリングスはシャープ系が良い、とか。

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