Haimがシーンに与えた影響の大きさとは? 高橋芳朗が選ぶ“欧米フィメール・ポップス”ベスト10

01. Selena Gomez - Bad Liar
02. Lorde - Perfect Places
03. Taylor Swift - Gorgeous
04. Charli XCX - Boys
05. Little Dragon - Sweet
06. Haim - You Never Knew
07. MUNA - I Know a Place
08. Rina Sawayama - Ordinary Superstar
09. Allie X - Vintage
10. Paramore - Hard Times

 ワンテーマを設けての2017年ベストセレクションということで、少々雑なくくりではありますが、欧米メインストリームポップの女性アーティスト(女性シンガーをフロントに据えたバンドも含む)で10曲選んでみました。以下は、このシーンの昨今の動向と別掲のランキングを踏まえての雑感になります。

 まず、これは日々の新譜チェックのたびに考えていたことですが、Haimのデビューアルバム『Days Are Gone』(2013年)が今回のランキングにあげたようなメインストリームで活躍する女性アーティストに与えた影響にはやはり侮れないものがあると、改めて痛感しています。2017年のリリースでいくと、セレーナ・ゴメスの「Bad Liar」、レディー・ガガの「The Cure」、それからテイラー・スウィフトの「Dress」をはじめとする『Reputation』のいくつかの収録曲などは、基本的には『Days Are Gone』が醸成した空気を思いっきり吸い込んだ作品であると捉えています。

Selena Gomez「Bad Liar」

 なので、Haimが新作『Something to Tell You』のプロモーションでBBC Radio 1の『Live Lounge』に出演した際、まだリリースされてまもない「Bad Liar」をさっそくカバーしていたのにはすごく合点がいきました。本音を言ってしまえばHaimが自分たちの手で「Bad Liar」や「Dress」みたいな曲をつくってくれたら最高だったのですが、これについては影響源のサウンドをきっちりアップデートして本家越えしてきた現行王者、セレーナとテイラーのたくましさを賞賛すべきなのでしょう(ちなみに、Haimとテイラーとセレーナはプライベートでも積極的に交流を図っている模様。特に前作『1989』のツアー時にHaimをオープニングアクトに起用していたテイラーは、彼女たちと一緒にハワイでバカンスを過ごすなど非常に親密な関係にあります)。

HAIM - Bad Liar (Selena Gomez cover) in the Live Lounge

 そんなHaimが現在のシーンにもたらしたトレンドとしては、彼女たちのデビューを機にじわじわと盛り上がっていったFleetwood Mac/スティーヴィー・ニックスの再評価があります。Haimはアルバムデビュー前からFleetwood Macのトリビュートアルバム『Just Tell Me That You Want Me: A Tribute to Fleetwood Mac』(2012年)に参加して「Hold Me」をカバーしていたのに加え、ライブでも「Oh Well」「Rhiannon」「Dreams」などたびたび彼らの曲を取り上げてFleetwood Macへのリスペクトを強烈に打ち出していたわけですが(もっとも、彼女たち自身はFleetwood Macと比較されることに辟易しているようです)、この再評価の気運は同じようにFleetwood Mac/スティーヴィー・ニックスをアイドルと崇める、当時16歳のロードの登場によってさらに加速していくことになります。これは不思議なめぐり合わせなのですが、ロードのデビューアルバム『Pure Heroine』とHaim『Days Are Gone』のアメリカでのリリース日は同じ2013年9月27日だったりします。

Rhiannon - Stevie Nicks and Haim [Official Live Audio]

 ロードに関しては自身のトレードマークといえるゴシックな魔女っ子イメージからしてスティーヴィー・ニックスの影響が見て取れますが、実際彼女はFleetwood Macの代表作『Rumours』(1977年)を「完璧なアルバム」と評して、彼らの音楽に強くインスパイアされていることを認めているほか、17歳の誕生日当日にはTumblrに「スティーヴィー・ニックスの『Edge of Seventeen』を聴いて17歳を満喫する!」と書いていたほどの熱狂的なFleetwood Mac/スティーヴィー・ニックス信者。こうした彼女のラブコールを受けてスティーヴィー・ニックスは今年11月、ロードの故郷ニュージーランドでコンサートを行った際に「もしロードが私と同じ世代だったらきっと(自分とクリスティーン・マクヴィーに次ぐ)Fleetwood Mac第3の女子メンバーになっていたと思う」とコメント。感激したロードが自身のTwitterに「涙が出るほどうれしい!」と泣き顔の絵文字つきでポストしていました。

 これと似たケースとしては今年8月、スティーヴィー・ニックスのプレイリストに自分の曲が入っていることをファンに知らされたセレーナ・ゴメスが「うそでしょ!? 昨日ちょうどスティーヴィー・ニックスの曲を聴いてたんだよ。彼女はマジでレジェンドだと思う!」と興奮気味にツイートしていたことがありましたが、こうした現行メインストリームポップの女性アーティストとFleetwood Mac/スティーヴィー・ニックスを紐づけるトピックには枚挙にいとまがありません。たとえば『Rolling Stone』はFleetwood Mac再評価の高まりを受けて、スティーヴィー・ニックスを表紙にした2015年1月号内で「16 Best Fleetwood Mac Songs (Not by Fleetwood Mac)」というなんとも示唆的な企画を組んでいたりします。

 そのほか、マイリー・サイラスはここ数年コンサートのレパートリーに「Landslide」を組み込んでいるし、カーリー・レイ・ジェプセンは2016年2月にロサンゼルスで開催された『Fleetwood Mac Fest』に出演して「Hold Me」を披露。細かい話では女優のクロエ・グレース・モレッツがレディー・ガガの新機軸となった「Million Reasons」(2016年)を評して「スティーヴィー・ニックスのバイブがあるね!」とめちゃくちゃ的確な指摘をしていたこともありましたが、やはり決定打はついにスティーヴィー・ニックス本人をゲストに招いてしまったラナ・デル・レイの「Beautiful People Beautiful Problems」(7月にリリースされた最新作『Lust For Life』収録)になるのでしょう。この曲の登場により、かねてからのFleetwood Mac/スティーヴィー・ニックス再評価の動きはひとつのピークを迎えた印象があります。

Beautiful People Beautiful Problems (feat. Stevie Nicks)

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