渡辺志保が選ぶ、年間ベスト・ヒップホップ・アルバム10 “ラップが持つパワー”感じた1年に

・Kendrick Lamar『DAMN.』
・JAY-Z 『4:44』
・Drake『More Life』
・Migos『C U L T U R E』
・Future『FUTURE』
・Young Dolph『Thinking Out Loud』
・2 Chainz『Pretty Girls Like Trap Music』
・Playboi Carti『Playboi Carti』
・Rapsody 『Laila’s Wisdom』
・BIG K.R.I.T.『4eve Is a Mighty Long Time』

 全米で最も聴かれている音楽ジャンルはヒップホップ・R&Bと、データ調査会社のニールセンが発表し、来年1月に控えた第60回目のグラミー賞ではジェイ・Zが最多ノミネート数を誇り、それに次いでケンドリック・ラマーが名を連ねるなど、ヒップホップは史上最も追い風に吹かれている。そんな2017年に筆者がよく聴いたアルバム10選を紹介する。もちろん個人的な趣味も含んだラインナップなので、これと併せてビルボードチャートやSpotifyなどのチャートも参照すると、より分かりやすくヒップホップ・マップを追うことができるのではと思う。

Kendrick Lamar『DAMN.』

 まずはトランプ政権への批判も含み、時代を反映した2枚から。先述したケンドリック・ラマーとジェイ・Zの2作である。怒りや憤り、鬱積した気持ちや慈愛など、人間のあらゆる感情と自身の二面性に深く切り込んだ『DAMN.』は、冒頭から、ケンドリック自身が狐につままれたように盲目の女性に撃たれるところから始まるというアルバムそのもののストーリーにも深く魅せられた。また、本作に関しては収録曲を逆順に再生してもストーリーが完結するようになっている、とケンドリック本人が明かしており、実際に、逆順バージョンのコレクターズ盤も発売されたほど。入れ子細工のようにトリックや伏線が重なって完成されたアルバムでもある。前作よりもあえてトレンドに寄せたサウンドやトリッキーなフロウは、どれを取っても現代のラップ・キングの名にふさわしい。

 そして、ヒップホップシーンのベテランであるジェイ・Zの『4:44』は、自身の不貞を配偶者(妻のビヨンセ)に謝る描写や、実母が同性愛者であることなどを赤裸々に語りつつ、「The Story of O.J.」などでは若い世代に向けてビシっと先人の教えを説きながら、アメリカ国内が抱える不条理さも唱える。ヒップホップの誕生から40年余りの今、「成功したアフリカン・アメリカンの男性は、一体何をラップすべきなのか?」という問いに対する答えを示して見せた。TIDALを通じて発表されたインタビュー動画や、ルピタ・ニョンゴやマハーシャラ・アリらを起用し、丁寧に作られたMVの数々も素晴らしい出来だった。こうした観点からは、他にもロジック『Everybody』やラン・ザ・ジュエルズ『RTJ3』、そしてジョーイ・バッドアス『All-Amerikkkan Badass』、エミネム『Revival』も、2017年だからこそ生まれた傑作アルバムであると思う。

 そして、トレンドという意味ではやはりドレイクの右に出るものはいない。彼は今年、“プレイリスト”と銘打った作品群『More Life』を発表。初っ端からハイエイタス・カイヨーテを大胆にサンプリングし、UKや南アフリカのアーティストを招くとともに、ラテンやジャマイカのビートをも我が物顔で(褒め言葉です!)取り込み、一方でカニエ・ウエストやトラヴィス・スコットといったUSのスターMCらをも呼び込んで全22曲、80分を超えるほどのデカい作品を打ち出した。同じく、これでもかとトレンドを盛り込み、プレイリスト的な楽しみ方を提示したのは、DJキャレド『Grateful』も同じだろう。ジャスティン・ビーバーからチャンス・ザ・ラッパー、そしてカルヴィン・ハリスらを招いてアルバムを作れるのは世界中でキャレドだけだ。

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