ストリーミングサービス、スマートスピーカーは音楽シーンをどう変える? 柴那典&ジェイ・コウガミ&レジーが語り合う

柴那典&ジェイ・コウガミ&レジー座談会(前編)

 2017年はSpotifyの国内向けプロモーションが本格化し始めたことを始め、スマートスピーカーの発売や、Kickstarterの日本上陸など、音楽にまつわるサービスが続々と転機を迎えた一年といえる。そんな一年を振り返るため、リアルサウンドでは音楽ジャーナリストの柴那典氏、デジタル音楽ジャーナリストであり音楽ビジネスメディア『All Digital Music』編集長のジェイ・コウガミ氏、音楽ブロガーのレジー氏の3者による座談会を行った。前編では、音楽ストリーミングサービスとスマートスピーカーについての話題をお届けする。(編集部)

 海外と国内視点からみる、ストリーミングサービスの現在

ーーまずはお三方が2017年印象に残った、音楽にまつわるサービスについて伺えればと思います。

ジェイ:僕は日本だけというよりはグローバル寄りで、ビジネス~IT系の視点から。一番のトレンドはやはり、ストリーミングサービスが音楽業界においてメインストリームになったこと。プレイリストという文化も、音楽を聴くうえで欠かせないものになりました。これに関しては、やはりSpotifyの影響力が圧倒的だと思いますし、Spotifyから始まったプレイリスト文化がApple MusicやAmazon Prime Musicなどにも紐づいてきている。もはや一つのサービスの中で完結しない広がりを生みました。

ーー確かに、もはやプレイリストを作る・聴くことは当たり前で、それを使って何をするか、というフェーズに入っているような気がします。

ジェイ:ヒット曲もプレイリストから生まれ、プロモーションもプレイリストから始まるし、社会的・文化的な文脈もプレイリストから生まれるという時代になったのは面白いですよね。世の中で起きてることや、作成者の思想まで見えるわけですから。

 一方、その問題点として挙げられるのは、「キュレーター」と呼ばれるひとたちのパワーバランスであり、アルゴリズムのもつ影響力が大きくなってきていること。その良し悪しはまだ判断すべきフェーズではないと思うのですが、今後はそういったシステムが音楽の価値を決めるのは果たしてどうなのか、という議論に発展すると考えています。

レジー:日本国内に関しては、そのフェーズへたどり着くのはまだまだ先になりそうですね。

柴:ストリーミングサービスの展開については、海外と日本国内で全くレイヤーが違うので、両方の視点から議論が必要だと思います。

ジェイ:そこに関しては、サービスが遅れてスタートした国である以上、しばらくは海外の盛り上がりを追体験する形になるでしょうね。まずはストリーミングが浸透して、そのあとにプレイリストを聴くことが当たり前になって、というふうに。

レジー:Spotifyのローカライズについては、8月に見かけた「無料で聴ける音楽発見アプリ」という広告コピーには衝撃を受けました。いくら何でも品がないだろうという・・・(笑)。違法アプリが幅を効かせている今の日本において、月々約1000円支払うストリーミングサービスをどう普及させていくのかについてはすごく興味があるんですが、何かわかりやすいきっかけがないと爆発的には広がらないのかなとも感じています。ちなみに余談ですが、あるストリーミングサービスのレビュー欄を見ていたら「無料で聴けないなんてクソ」みたいなコメントが並んでいて、その何件かに1件の割合で「back numberが聴けない」という投稿がありました(笑)。

ーーSpotifyをきっかけにブレイクしたアーティストの代表格といえば、ロードが挙げられますが、今年のブレイクアーティストやその傾向について、変化を感じる部分はありますか?

ジェイ:これまでは「有名キュレーター・文化人のプレイリストから、新人アーティストがブレイクする」という流れがありました。ただ、今はメインストリームのアーティストが自分たちでプレイリスト的に作品を作るなど、アーティスト側が仕掛ける目的でプレイリストをスマートに使いこなせるようになってきている。なので、アーティストがアーティストをピックアップする、という流れに面白さを感じています。特に2017年のドレイクとケンドリック・ラマーの2人は完全にストリーミングを制した人たちです。メジャーのビジネスをやりながらストリーミングを制して、なおかつアーティストとして音楽カルチャーの中でのプロップスも得たという。

ーーキュレーターとしての能力も買われていると。

ジェイ:アーティスト側ではプレイリストの重要性に気づき始めています。なので、レーベルやマネージメントのアプローチの仕方にも変化が出てきて、そこに乗り切れない人たちはグローバルな音楽シーンから置いていかれている。

ーーそれぞれの国ではブレイクできても、グローバルな展開を狙うならそのような動きも意識しなくてはならないということですね。日本のアーティストで、その流れに乗れているのはAmPmでしょうか。あそこまでSpotifyのチャートをハックして、グローバルに名前を轟かせるアーティストがいるのかと驚きました。

ジェイ:そうですね。ただ、ストリーミング向けに音作りの方向性を変えているアーティストは増えたと思います。一番顕著なのはK-POPで、最近までリリースされる楽曲の大半がトラップを取り入れたもので、2017年後半はラテン系の音にシフトしてきていて、それもSpotify上の時流を考えた結果だったりする。

柴:確かに、トラップは多いですよね。あくまでこれは僕の捉え方ですが、トラップといわゆる広義の「ヒップホップ」はグルーヴが違うんです。90年代的なヒップホップはグルーヴが裏拍にあって、バックビートにノって言葉を乗せていくものが多い。ただ、トラップはサブベースの低音と、32分音符以下で細かく刻むハイハットがグルーヴを作っていて、小節の頭に重心のある音楽なんです。そこにボーカルが三連譜のフロウで乗っかっていくので、声とリズムの関係性がファンクをベースにしたブラックミュージックのフィーリングと抜本的に違う。テイラー・スウィフトやチャーリーXCXといった世界的にもブレイクしている女性シンガーソングライターも、トラップを取り入れていますよね。

ーーなるほど。BTS(防弾少年団)をはじめとしたK-POP勢の世界展開が順調なのも、そういった要素が含まれていると。続いて、柴さんが衝撃を受けた音楽サービスについての変化とは?

柴:僕もストリーミングに関わる話で、勝手に「エド・シーラン問題」と名付けている現象があるんです。彼はSpotifyのグローバルランキングで三冠をとっている。アルバム『÷(ディバイド)』が最も聴かれたアルバム、収録曲の「Shape of You」が最も聴かれた楽曲に輝いているうえ、彼自身が最も聴かれたアーティストにラインナップされている。間違いなく2017年を代表するアーティストのはずなんです。ただ、エド・シーランの『÷』はグラミー賞で総スカンだし、海外のこの時期に発表されるほぼすべてのメディアや批評家筋のランキングからもスルーされている。

ーー確かにそうですね。

柴:ここ数年は、アデルやジャスティン・ビーバーやドレイクなど、最も売れた作品、聴かれた作品がそれにふさわしい作品としての評価を得る、という流れがあったんです。ですが、エド・シーランはそうなっていない。ここまでセールスと評価の乖離が起こるのって、ここ最近だとワン・ダイレクションのようなアーティストくらいですよ。

ーーいわゆる芸能と呼ばれるジャンルですか。

柴:そう。だけどエド・シーランはアイドルではないし、シンガーソングライターである。しかもFUSE ODGのようなアフロビーツの新鋭をフックアップするなどキュレーターとしても面白いことをやっている。彼が誰より結果を残しているのに、ここまで権威にそっぽを向かれるのはなぜなのか、非常に興味があります。僕の中の仮説としてあるのは、「何かのために使われる音楽」として見られているのではないかということ。そういう音楽って、いつの時代も評価が低いんですよ。

ーーそうですかね?

柴:例えばEDMのヒット曲って、どれだけブレイクしても、作品としては評価されないことが多かったりする。それと同じく、エド・シーランも、リラックス・ポップ・ミュージックとしての有用性が強いと判断されたからこそ、作品として評価されなかったという考え方もあります。そういう意味ではすごくストリーミング的だしスマートスピーカー的な音楽なんですよね。それに加えて、彼は世界最大のSpotifyハッカーでもある。彼のチームは誰より上手くSpotifyを使いこなしていると思います。

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