米津玄師が武道館公演で示した、“音楽家”と“ロックボーカリスト”高レベルの両立

米津玄師、武道館公演ライブ評

 22公演にわたって計7万人以上を動員した、米津玄師の全国ツアー『米津玄師 2017 TOUR/Fogbound』。その追加公演『米津玄師 2018 LIVE/Fogbound』の最終公演が1月10日、日本武道館で行われた。現行のUSヒップホップ/R&Bを巧みに取り入れた挑戦作『BOOTLEG』と呼応するように、アーチ状のオブジェが組まれたステージはまさに未来的である。ステージ下方から投影された光を鏡面状のオブジェが反射し、シンプルながらも幻想的な空間を作り出していた。

 最新アルバム収録曲の「砂の惑星」「飛燕」「春雷」などを立て続けに演奏した前半部では、ポップミュージックの先端を行くサウンドメイカーとしての米津玄師が強くアピールされた。アコースティック楽器とデジタルサウンド、そしてメロディとリズムが複雑に絡み合う音楽は、今の彼にしか作れないものだろう。

 そんな緻密に組み立てられ音楽世界に、新たな色が加わったのは「orion」を歌った後のMCがきっかけだった。ツアーを終えたことへの感謝を述べたあとに、「今日、この瞬間が人生で一番楽しいという体験をしたい」と叫ぶように語った米津玄師。そのエモーショナルなMCの後、米津の歌声はさらに躍動感を増していく。思えば、これほど情熱的に歌い上げる彼の姿を見るのは初めてかもしれない。長い手をしなやかに揺らしながら、時に驚くほど強い歌声でメッセージを伝える。ロックボーカリストとしてのカリスマ性を感じさせる場面だった。

 サウンドクリエイターとしての手腕と、ロックボーカリストとしての身体性。その二つを高い次元で両立させている点で、今の米津玄師はやはりアーティストとしてずば抜けた存在である。

 ツアー後の追加公演ということもあって、この日のライブには特別なカードも用意されていた。多彩なスペシャルゲストである。「LOSER」に登場した”ダンスの師”辻本知彦、「Moonlight」で官能的なダンスを披露した菅原小春。そして「灰色と青」では菅田将暉が登場すると、館内からは悲鳴にも似た歓声が上がった。

 このステージが今年最初の仕事だという菅田将暉は「ここにいられて最高です!」と言い、米津玄師は「この曲は彼なくしては成立しない」としみじみと語った。2人による名曲「灰色と青」は、米津の伸びやかな歌声と菅田の柔らかい歌声が響き合う、パフォーマンスとしても特別なものとなった。

 アンコールのMCでは過去を回想しつつ、音楽を生み出す喜びを率直に語った米津玄師。多面的な才能をトータルで発揮した、彼のキャリアにおいても画期的なステージだった。

(文=神谷弘一/撮影=中野敬久)

米津玄師『Lemon』

■リリース情報
『Lemon』
発売日:2018年3月14日(水)
レモン盤(初回限定・CD+グッズ)¥2,000+税
映像盤(初回限定・CD+DVD)¥1,900+税
通常盤(CD only)¥1,200+税

■ドラマ情報
TBS金曜ドラマ『アンナチュラル』
毎週金曜日22時~放送中

■関連リンク
米津玄師 Official Site
米津玄師 Official Twitter

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