DJ KAORIのミックスCDが支持される理由 最新作で表した90年代以降の“J-POPの多様化”

DJ KAORIのミックスCDが支持される理由

 1990年代中盤~2000年代初頭にDJ集団・Big Dawg Pitbullsの唯一の女性メンバーとしてNYで活躍し、マーク・ロンソンらとともに現地の一流クラブでプレイ。その後2005年に帰国すると、海外の最新動向を伝えるミックスCDシリーズ『DJ KAORI’S INMIX』を開始して大ヒットを記録したDJ KAORI。彼女の最新ミックスCD『DJ KAORI’S JMIX BEST』が、2月7日にリリースされる。この作品は彼女が日本語曲だけを集めて発表してきた『JMIX』シリーズのベスト盤。累計480万枚以上のミックスCDを売り上げたクイーン・オブ・DJによる最新作となる。

 ミックスCDといえば、2017年のDJ和による『ラブとポップ ~好きだった人を思い出す歌がある~ mixed by DJ和』がオリコン週間アルバムチャートで2週連続トップ5に入ったことも記憶に新しいが、デジタル全盛の時代にミックスCDが売れていることにはいくつか理由が考えられる。まず、近年人気のミックスCDに共通するのは、「公式ミックスならではの贅沢な選曲」が楽しめること。ストリーミングサービスの普及によってリスナーの間ではプレイリスト文化への興味が高まりつつあるものの、その歴史が浅い日本ではまだ未登録の楽曲も多く、また、好きな楽曲が複数のサービスにまたがっている場合それらを一度に聴くことはできない状況がある。その中にあって版権のクリアランス作業を経て発表される公式ミックスCDはいわば究極のプレイリストを実現する方法のひとつであり、このミックスCDという形式は、そもそも権利の問題でiTunesをはじめとするデジタルフォーマットではリリースができない。また、DJがすべての曲を繋ぎ、「どの楽曲を選ぶか。どこで繋ぎ/どこで切るか」によって様々なストーリーや楽曲のさらなる魅力を楽しむことができるミックスCDは、通して聴いたときのうねりや高揚感がストリーミングサービスのプレイリストとは圧倒的に違うという魅力もある。そうしたDJならではの方法で新たな音楽との出会いが生まれるメディア機能を備えていることが、近年の人気の要因になっているように思える。

 今回の『DJ KAORI’S JMIX BEST』には、1990年代~2000年代、そして2010年代までのJ-POPや海外アーティストの日本語のヒット曲をノンストップで収録。そうして浮かび上がるのは、「J-POPにおけるR&B/ヒップホップを中心としたブラックミュージックの浸透度」だ。収録曲のうち最も古い楽曲がリリースされた90年代の日本といえば、渋谷を中心に初めてヒップホップやR&Bに特化した大型クラブが誕生した時期であり、そこから登場したアーティストの活躍や、2001年のMTVジャパン開局などを筆頭にしたメディアの多様化も相まって、特に2000年代以降、日本語のブラックミュージックはJ-POPの中で存在感を増していった。今回収録されたEXILEの「I Wish For You」や加藤ミリヤ×清水翔太の「Love Forever」、青山テルマ feat. SoulJaの「そばにいるね」、AI + EXILE ATSUSHIの「So Special -Version AI-」といった多くの楽曲はそうした時代の流れを思い起こさせるものばかりで、Crystal Kayによる「Boyfriend -part II-」が「loves」シリーズで共演したm-floの楽曲「come again」に繋がる瞬間など、随所にニヤリとする展開も隠されている。そこにMay J.やDJ KAORIらによるカバーで収録されたSugar Soulの「Garden」やTERIYAKI BOYZの「I still love H.E.R. feat. Kanye West」といった90年代後半~00年代初頭のシーンの発火点となった面々がかかわった楽曲を加えることで、J-POPにおけるヒップホップ/R&Bの歴史の連なりが丁寧に表現されている。

 また、「歴史=時代の縦軸」だけではなく、「同時期にその外側にあった様々な他ジャンル=時代の横軸」にも焦点が当てられている。たとえば中島美嘉「雪の華 (REGGAE DISCO ROCKERS FLOWER'S MIX)」やPUSHIM「I Wanna Know You」、m-flo loves MINMI「Lotta Love」など同時期に市民権を得ていった日本語レゲエの魅力を広めた楽曲群はまさにその象徴で、他にもBoAの「LISTEN TO MY HEART」や少女時代「Genie」、BIGBANG「ガラガラ GO!!」のようなK-POPアーティストの日本語曲、サカナクションの「アイデンティティ」や[Alexandros]の「Feel like」など邦バンドの楽曲も収録。様々なジャンルが流入して多様性を増した20数年来のJ-POPの変化が、多角的な視点で表現されている。この手法はDJ KAORIのミックスに共通する魅力でもあり、たとえば洋楽に特化した『INMIX』シリーズの新作『Dj Kaori's INMIX 7』(2017年)でも、Rae Sremmurdの「Black Beatles ft. Gucci Mane」やその片割れであるスワエ・リーが参加したフレンチ・モンタナ「Unforgettable ft. Swae Lee」といったヒップホップ曲にカルヴィン・ハリスらの楽曲をブレンドすることで様々な音楽が混ざり合うシーンの魅力を再現していた。そしてこの『JMIX BEST』では前述のTERIYAKI BOYZ「I still love H.E.R. feat. Kanye West」や三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEの「Summer Madness feat. Afrojack」などによって『INMIX』シリーズとの接点も作られ、ここから様々なリスナー体験が可能な作品に仕上げられているのも印象的だ。また、終盤にはすべての収録曲の源流のひとつとして小沢健二「今夜はブギー・バック(nice vocal)feat. スチャダラパー」が挿入されるなど、作品全体の構成も考えられたものになっている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる