けやき坂46は“無謀な挑戦”に打ち勝った 西廣智一が武道館3Daysを分析

けやき坂が打ち勝った“無謀な挑戦”

 けやき坂46が初の日本武道館単独公演を、1月30日から2月1日の3日間にかけて実施した。本来この武道館3DAYS公演は30日をけやき坂46、31日と1日を欅坂46がそれぞれライブを行うことがアナウンスされていたが、欅坂46が公演を見送り、けやき坂46が3公演を敢行するという、新年早々波乱含みの幕開けとなった。

 確かにけやき坂46には欅坂46に先駆け、昨年1年間を通して全国ツアーを進めてきた実績がある。事実、公演を重ねるごとにそのスキルは確実に向上しているのを、筆者もこの目で確認している。筆者は昨年3月のZepp Tokyo公演、11月の福岡サンパレスホール公演、そして12月の幕張メッセイベントホール公演を観覧しているが、福岡公演で感じた成長の度合いには目を見張るものがあり、9月に兼任解除となった長濱ねる抜きでも存分に戦えること、そして欅坂46とは異なる個性を早くも確立させつつあることを、見事に証明してみせた。

 だからこそ12月の幕張公演では、直前に柿崎芽実が腕の骨折によりライブを欠席したことが残念でならなかった。当日はひらがな2期生のライブ初出演という大きなトピックはあったものの、やはり1期生11人が揃った形でツアーファイナルを迎えるその瞬間を目撃したかったという思いもある。もちろん、柿崎を欠く10人でもまったくパワーダウンを感じなかったし、堂々としたステージを繰り広げていたが、柿崎が骨折を押して参加したアンコールラストの「W-KEYAKIZAKAの詩」を観てしまうと、ほんの少しだけ物足りなさを感じてしまったのも事実だ。

 そういった意味では、今回の武道館3DAYSはけやき坂46の新たな挑戦であると同時に、「11人全員揃っての全国ツアーファイナル」の仕切り直しと見なすこともできる。少なくとも筆者はそのつもりで1月30日の初日公演に臨んだし、同じように感じていたファンも多かったのではないだろうか。

 さて、そんな思いで迎えた30日の初日公演。ステージにはサーカス小屋のようなセットが組まれており、これからどんなパフォーマンスが繰り広げられるのか期待を高めてくる。2期生による影アナを経て恒例のオープニングSE「OVERTURE」に突入すると、早くも会場はペンライトで緑色に染め上げられ、熱気が一気に上昇。終了と同時に、ステージにはピエロが登場し、大道芸を披露していく。これに続くように、1期生の面々がハットやステッキを使ったダンスパフォーマンスを次々に見せていき、最後に11人揃ったところで「ひらがなけやき」でライブをスタートさせた。彼女たちは2段構えのステージを二手に分かれ、観客に笑顔を振りまいていく。そこから「二人セゾン」「僕たちは付き合っている」へと続いていくのだが、特に「二人セゾン」ではステージ上段にひとり登った井口眞緒が激しいソロダンスを披露。ダンスに関しては他のメンバーよりも若干劣ることが否めない井口だが、ひとり必死に踊るその姿は感動的ですらあり、早くも涙腺が刺激されたことを付け加えておく。

 最初のMCでは、佐々木久美が会場を見渡しながら「今まで見たことのない景色」と語り、柿崎も「噂には聞いていたけど、お客さんがこんなに近いと思ってなくて」と笑顔を浮かべる。加藤史帆も「武道館には乃木坂(46)さんのライブで何回か来たことがあるけど、自分たちがそのステージに立つとなると鳥肌が」と、驚きを隠せない様子だ。

 このように書くと、彼女たちが初の武道館ライブに対して緊張しているように感じるかもしれないが、実際にはその逆のように見えた。もちろん初日は特に緊張はしていただろう。しかし、すでに彼女たちは12月の平日2日間、幕張メッセイベントホールを満員にした実績を持っている。いくら武道館が特別な場所であろうと、ガチガチになって本来の実力を発揮できないなんてことはない。事実、この日の彼女たちは昨年12月の全国ツアーファイナルからの勢いをそのまま引き継ぎ、堂々としたパフォーマンスを我々に提供してくれた。

 それに加えて、今回の武道館公演では全国ツアーとは異なる演出が豊富に用意されていた。サーカスをイメージしてショーアップされた構成はもちろん、ステージ壁面に設置されたスクリーンを巧みに使用した「語るなら未来を…」の演出は、ライブ前半のハイライトのひとつと言っていい。メンバーがステージ上段でパフォーマンスしていると、途中からメンバーを当てる照明が消灯し、ステージ下段のスクリーンにメンバーがダンスするシルエットが映し出される。さらに下段のスクリーンが消えると、今度は上段のスクリーンにもメンバーのシルエットが映され、彼女たちがステージ上下を高速移動しているかのような錯覚に陥る。実際にはこのシルエットの映像が流れている間に、メンバーはステージ上下を何度も移動し、現実と虚像が入り混じった見応えのある演出で観る者を楽しませてくれた。

 この「語るなら未来を…」「東京タワーはどこから見える?」のパートは、可愛らしくてハッピーなイメージの強いけやき坂46とは相反する、激しくてクールな側面が打ち出されている。原曲を歌う欅坂46のイメージが強いのは否めないが、それを抜きにしてもこの2曲でのけやき坂46からは頼もしさが感じられ、新たな魅力を打ち出そうとしているようにも受け取れた。齊藤京子や東村芽依、影山優佳を筆頭に、激しいダンスが目を引くメンバーが多く、こんなこともできるんだ、ここまでやれるんだという彼女たちの気迫が客席まで伝わってくる。

 ライブ中盤のユニットパートでは、大道芸を披露するパフォーマーを交えた演出も導入。これまでのメンバーのみで進行してきたライブとは異なり、演出の幅が大きく広がったことが実感できた。このユニットパートは一部の楽曲が日替わりとなっており、それらの大半が欅坂46の楽曲になるのだが、けやき坂46の面々がパフォーマンスすることでオリジナルとはまた違った魅力が生まれていたのもまた事実。特に30日公演の「バレエと少年」で見せた佐々木美玲と東村芽依のダンスと表情、1日公演の「AM1:27」での柿崎、影山優佳、佐々木美玲、東村によるキレキレのダンスに目を奪われた者は少なくないはずだ。

 このユニットパートの締めくくりに用意されたのが、長濱ねるのソロ曲「100年待てば」のけやき坂46バージョン。1期生11人で歌うこの曲では、ステージ上を小さな街に見立てて、いろんな場所でいろんなストーリーが展開していく見どころの多い演出で、大勢の大道芸人やダンサーを交えて一緒に踊る場面は圧巻の一言。曲後半では天井から無数もの風船が落ちてくるなど、ここが今回のライブ前半のクライマックスとなった。兼任解除によりけやき坂46を離れた長濱に対して、今もほかのメンバーは強い愛情を寄せていることが強く伝わってくる、そんな素敵なカバーだった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる