社会学者 太田省一が語る、“テレビとジャニーズ”の過去と未来 書籍刊行記念インタビュー

 社会学者・文筆家の太田省一が、書籍『テレビとジャニーズ 〜メディアは「アイドルの時代」をどう築いたか?〜』を2月21日に発売した。

 『中居正広という生き方』、『SMAPと平成ニッポン』などを著書に持つ同氏の最新刊は、タイトルとおり「テレビとジャニーズ」がテーマ。長きにわたり共に歩んできた「テレビ」と「ジャニーズ」2つの軌跡を追った、現代メディア・アイドル論の最新版となる。

 リアルサウンドでは同書の刊行を記念し、ジャニーズやドラマをテーマにした執筆活動を多く行っている芸能ライター・佐藤結衣氏を聞き手に、著者である太田氏に話を聞いた。太田氏が考えるジャニーズの魅力から“テレビとジャニーズ”を起点としたさらなるエンターテインメントの可能性にまで話は及んだ。(編集部)

ジャニーズはもともと想像以上にテレビ向きな集団

太田省一『テレビとジャニーズ 〜メディアは「アイドルの時代」をどう築いたか?〜』

佐藤:連載執筆や書籍化までのプロセスを振り返るとどのような感想がありますか?

太田:私は普段テレビなどメディアの歴史を研究しているのですが、ジャニーズへの個人的な関心もずっとあって、これまでも『中居正広という生き方』などの本を執筆してきました。だからジャニーズの出演番組は人並み以上に見ているつもりだったのですが、「ジャニーズとテレビ史」の連載を始めるにあたり、改めて今ジャニーズがどんな番組に出て、どういうトレンドや特徴があるかということをチェックするようになると、「これはそんなに安請け合いをするものではなかったな」と思いましたね。歌、ドラマ、バラエティ、ニュース……とジャンル問わず日々様々な番組で活躍しているので(笑)。でもその中で、1回目の『ミュージックステーション』に関する原稿を書いている時に「音楽番組の歴史とジャニーズの繋がり」といった発見がありました。そのような発見がたびたびあったのは書いていてとても楽しかったです。今回書き下ろしで総論の「テレビとジャニーズの55年史」を書いたことも良い経験になりました。双方の歴史を一気に見通した文章は書いたことがなかったので、自分なりの考察が書けたかと思います。

佐藤:奇しくも『SMAP×SMAP』が終わるなど、ジャニーズとテレビの歴史が動くタイミングで連載が始まりましたよね。

太田:そうですね。SMAPの解散もあったし、KAT-TUNの活動休止などもありました。これは本当に偶然ですが、ジャニーズとテレビのある意味、節目だった。そこには巡り合わせを感じます。

佐藤:この本の「はじめに」では滝沢秀明さんの『クレイジージャーニー』出演にフォーカスしています。滝沢さんは先日、その際の出演でも焦点が当てられていた溶岩湖研究の分野で注目を集めました。この巡り合わせもすごい偶然ですよね。

太田:そうなんです。僕も、「ジャニーズは学術の分野にも進出していくのか」という意味でも驚きました。そもそも滝沢さんの『クレイジージャーニー』出演は衝撃だったんですよ。特に溶岩がわきたっている傍で彼がたたずんでいる画面はとんでもないものを見ているような気になりました。滝沢さんといえば、一般的にはテレビで活躍するというよりは『滝沢歌舞伎』をはじめとした舞台に打ち込んでいるイメージがありましたよね。それが『有吉ゼミ』でのヒロミさんとのDIYリフォーム企画あたりから意外な一面を見せる番組にも出るようになり、感心していたところでの『クレイジージャーニー』だったので。ちょうど「はじめに」を書くタイミングで放送があったので、どうしても書きたくなってしまったんです。

佐藤:総論「テレビとジャニーズの55年史」は私もとても勉強になりました。太田さん的に一番「おもしろかった時代」や「思い入れのある時期」は、いつになるのでしょうか?

太田:タイミングとしては2回あります。僕は1960年生まれで、小学校高学年くらいの時に最初にテレビで出会ったジャニーズがフォーリーブスなんです。間もなくして郷ひろみさんが登場しました。フォーリーブスは歌や踊りだけではなく、バラエティやMCやコントに挑戦したジャニーズグループの先駆け的存在です。対して郷ひろみさんは歌手だけでなくドラマでも活躍していく。彼らがジャニーズのテレビでの活動スタイルの原型を作った人たちだと思っています。フォーリーブスは音楽シーンでも歌謡曲全盛の中で新しい立ち位置を築きました。洋楽っぽいおしゃれさと、バク転なども取り入れた本格的なダンスを踊るという点が新しかったですね。当時の歌手はスタンドマイクで直立不動で歌うのが主流でしたから。今の若い人たちには想像がつきにくいと思いますが、ステージ上を動きまわるかっこ良さがとても新鮮でした。一方、郷ひろみさんは声が個性的で中性的な美少年、そういった感じも新しかった。それが今思えば「ジャニーズ」的なパフォーマンスやビジュアルにつながっているのだと思います。そしてもう一つは、やはりSMAPです。いろいろな本でも書いていますが、ジャニーズの中で「普通の男の子」のかたちをはじめて確立した存在。そして研究という立場は離れて、彼らが『SMAP×SMAP』のような本格バラエティで才能を発揮していく姿にはいち視聴者としてとても興奮を覚えましたね。

佐藤:なるほど。ジャニーズに関心のある男性の中には、彼らに憧れて自分も「ジャニーズに入りたい」という方もいらっしゃると思うのですが、太田さん自身はどのようなスタンスで、ジャニーズの活躍を追っていこうと考えていらっしゃったんですか?

太田:応援ですね。世代的なこともあるかと思いますが、「なりたい」という感覚はなかったです。あとは尊敬ですかね。たとえばSMAPがすごいのは、お笑い芸人ではないのに、コントに挑戦すれば芸人にも劣らないくらいのレベルに到達できる。なんでもこなせる“テレビの達人”になっていったと思うのですが、そういった部分は尊敬の念を覚えます。また、メンバーそれぞれの人間性にも惹きつけられました。仕事人として評価しているだけではなく、「この人たちのことが好きだ」という、いちファンとしての感覚ももちろんあります。

佐藤:ジャニーズのタレントたちがここまでテレビで活躍できるようになった一番の要因はなんだと思いますか?

太田:テレビ番組には、音楽、バラエティ、ドラマ、報道、ドキュメンタリー……と様々なジャンルがありますが、基本的にそういったカテゴライズはだんだんなくなっていくものだと思うんです。たとえばバラエティだと、90年代には『進め!電波少年』のようなドキュメントバラエティが出てきたり、あるいは今回の本でも書いたように、久米宏さんが『ニュースステーション』でニュースをエンタメ化していくというような流れもある。一方のジャニーズはもともとそういう総合的なエンタメ志向を持った集団で、ノンジャンル/ボーダーレスなエンタメがジャニーズの本質です。だからこそ、「ジャンルの融合」という特性をもつ近年のテレビ番組と彼らがフィットするのではないかと考えています。つまりジャニーズはもともと想像以上にテレビ向きな集団なのではないかということです。アイドルの活躍の場であった『ザ・ベストテン』や『夜のヒットスタジオ』などの歌番組が終わりを迎えていく中で、結果としてSMAPが時代を切り拓きジャニーズの可能性を開花させましたが、どのグループにもやはりテレビで活躍できる資質があるのだと思います。

佐藤:たしかに。太田さんがおっしゃっていたように、SMAPの活躍は「普通の男の子」たちがスターへと成長していくドキュメンタリーそのものでした。そういった意味ではSMAPは少年隊や光GENJIなどとはまた違った、私たちの生活している延長線上にいる人たちという存在感があったことも大きいですよね。視聴者が「アイドル」に対して求めるものも時代の流れとともに少しずつ変化していったのかなとも感じたのですが。

太田:そうですね。私たちの生活の中でのテレビのポジションの変化も関係しているかもしれません。昔のテレビには家具のようなフォルムのものがあって、観ない時にはわざわざ画面に布をかけてあたかも劇場の幕のようにしている家庭もあったんですよね。テレビを見ることがありがたい時代があったんです。それが一家に1台以上あるのが普通になって、それぞれが好きな番組を選んで見るような時代になり、どんどんパーソナルに、一人ひとりに近いものになっていった。そういった意味では、テレビに出ているアイドルたちも憧れの存在から視聴者に近い存在へと変化していったというのはあるかもしれないですね。

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