ケンドリック・ラマー、ピューリッツァー賞受賞の衝撃 現地の反応からその意義を読み解く

 ケンドリック・ラマーが4月16日(日本時間では4月17日)、2017年に発売したアルバム『DAMN.』で、ピューリッツァー賞の音楽部門を受賞した。

 同賞は「ジャーナリズムの発展」を目指して開設された、アメリカでも屈指の権威のあるアワード。ジャーナリズム部門、文学、音楽の分野があるが、音楽部門でヒップホップ作品が受賞するのは初めての快挙だ。

ケンドリック・ラマー『DAMN.』

 当初はセロニアス・モンクやジョン・コルトレーンといったジャズミュージシャンの受賞が多かった同賞。1990年代中盤から他ジャンルの音楽家にもスポットが当たるようになり、2008年にボブ・ディランが特別賞を受賞し、ロック界では初の快挙だと話題になった。

 授賞の基準は「アメリカの生活を描写した」「卓越したものであること」。選考委員はケンドリックへの授賞理由について「現代を生きるアフリカ系アメリカ人の人生の複雑さを捉えながらも、文芸的小品として影響を与えている」ことを説明している。

 今回の受賞について、デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏は“現地の文化圏からみた影響の大きさ”をこう語る。

「一般的な反応やメディアの報道では、『DAMN.』のピューリッツァー賞 音楽部門受賞に喜ぶ声が大半でしたが、クラシックやジャズを重視してきた同賞がポップスに追従することへの不満や疑問の声もネットで上がっています。受賞を逃したファイナリスト二人はどちらもクラシックの作曲家でした。過去のピューリッツァー賞審査員の中にも、ケンドリック・ラマーが受賞したことに対して、『ピューリッツァー賞は目的を見失った』とまで非難する人も現れたほどです」

 同氏は、これらの批判的な声が出てくる理由と、その現象が意味するものについてこう続ける。

「伝統的にクラシックやジャズなどの作曲家やミュージシャンの芸術性を評価する賞というイメージが定着していた中で、ヒップホップ作品の受賞にアメリカ文化圏の教育者や批評家から反発の声が上がったことは、エンタメとアート、メインストリームとアンダーグラウンド、ジャンルやカテゴリーの再評価を伝統的なジャーナリズムの世界に起こすほどのインパクトがあったということです」

 また、ボブ・ディランの受賞との違いについても、このように語ってくれた。

「ピューリッツァー賞音楽部門の受賞は『特別功労賞』ではないと審査員はコメントしています。ボブ・ディランを意識したコメントなのかもしれませんが、『DAMN.』の受賞は作品性、独自性、どれもが高かったとする評価であって、ディランのように往年の活動や作品の蓄積を評価する賞とは異なってきます。ピューリッツァー賞がヒップホップやポップス音楽に寄ったとされる議論も間違いで、革新的な現代音楽家の作品としての受賞として捉えられますね」

 『DAMN.』は、2014年に起こった白人警官による黒人青年射殺事件を機にスタートした抗議活動“Black Lives Matter”を描くなど、社会への問題提起をヒップホップアーティストならではの切り口で作品に昇華し、音楽的に優れた作品でもありながら、報道と批評としての側面も兼ね備えたアルバムだった。同作の受賞を機に、より社会への影響力を持つものとして、アメリカのヒップホップシーンが評価されるのだろうか。

(文=編集部)

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