AKB48、柏木由紀プロデュース公演が示した“アイドルをアイドルとして見せること”

AKB48、柏木由紀プロデュース公演レポ

 AKB48は柏木由紀がプロデュースする新公演『アイドル修行中♡』を5月4日からスタートさせた。村山彩希によるプロデュース公演に続いて、所属メンバーとしては2人目のプロデュース公演となるが、アイドル像を構築し自ら上演することに関して当代随一の力とキャリアをもつ柏木がプロデュースを担うことはもちろん重要な意味をもつ。

 『アイドル修行中♡』公演の出演メンバーはAKB48の16期生およびドラフト3期生から選抜されている。同公演は、実践者としてのトップランナーでもある柏木が監修する側に回ったことで、トータルの構成の秀逸さが目を引く公演になった。ここでは5月3日のゲネプロの様子から同公演について伝える。

 「キミが思ってるより…」「NEW SHIP」を並べて始まるセットリストは、新鮮さをもちつつも、出演メンバーたちを正統かつ華やかにみせる幕開けになった。今回の柏木由紀プロデュース公演は全編を通して、AKB48のレパートリーのなかでも比較的古くから存在する楽曲で編まれている。それでも、埋もれた楽曲の発掘が目的化するわけでも既視感が強くなるわけでもなく、柏木の組んだ一連の流れに各曲が貢献していた。田口愛佳ら主としてセンターポジションを担ったメンバーが、序盤から中心としての存在感をみせていたことも大きい。

 「Blue rose」「投げキッスで撃ち落せ!」「蜃気楼」「ツンデレ!」と続く流れで構成されたユニット曲パートでは、起伏に富みつつもおさまりの良さを感じさせる展開をみせる。とりわけポイントになったのは、矢作萌夏によるソロ曲「虫のバラード」だった。一見すると当人の印象とは異なる楽曲を与えられた矢作が見せたパフォーマンスは、彼女のもつポテンシャルの幅広さをうかがうに十分なものだった。

 そして終盤のパートは、「RIVER」「最終ベルが鳴る」を続けて披露したことで、序盤からの流れを含めて、AKB48に加入しパフォーマンスする者たちとしての物語を上演しているような趣きが強くなる。そうしたストーリーを集約するハイライトとして、グループの代表曲の一つであり、かつ対世の中への打ち出しが強い「RIVER」を配置したことは効果的だった。また、ここでも「だけど…」で本編を締めくくるまでの展開に抑揚をつけながら見せてゆく、セットリスト運びの鮮やかさがみえる。

 柏木由紀の色が本編とは別のかたちでみえてくるのは、「遠距離ポスター」「チームFresh推し」、そして同公演の選抜合宿課題曲「君と虹と太陽と」が披露されたアンコールだった。2010年のチームPB楽曲「遠距離ポスター」はセンターを務めた柏木のイメージが強く、また「チームFresh推し」はもちろんかつての「チームB推し」をオリジナルとする楽曲である。セットリスト全体としてはプロデュースする側としての柏木のバランス感覚がうかがえたが、アンコールでは演者としての柏木の若手メンバーとしてのキャリアをも想起しやすいものにもなっている。こうした遠近感もまた興味深い。

 柏木の代表的な武器は一人のアイドルとして見せ方の技術に長けていることだ。柏木由紀プロデュース公演とは、彼女自身がそうした細かなテクニック面を伝授する立場に回ることも意味する。柏木本人も自身の開拓してきた技術を余すことなく出演メンバーに伝えてきた旨に言及している。

 ただしまた、それがすぐさま若い出演メンバーたちに身体化されるかといえば、まだ時間は要するだろう。もちろん、柏木由紀をトレースすることは柏木にとっても公演メンバーにとっても意図するところではないはずだ。柏木がプロデュースする立場で伝えたテクニックが、やがて今回のメンバーの身体を通じて各人オリジナルなものになっていくとき、今回柏木がセットリストで組んでみせた細やかな起伏やストーリーも、真に意義深く見えてくるのだろう。

(画像提供=(C)AKS)

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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