細野晴臣イギリス・ブライトン公演レポ 海外でも見せた刺激的で純粋な音楽表現

細野晴臣イギリス・ブライトン公演レポ

 彼がイギリスを訪れるのは10年ぶり。2008年、Massive Attackがキュレーターを務めた『メルトダウン・フェスティバル』にYMOとして参加して以来、ソロとしては初となる細野晴臣のイギリス公演が、6月23日にロンドン・バービカンホール、25日にブライトン・オールドマーケットで行われた。客席にいた坂本龍一、高橋幸宏、それに小山田圭吾を呼びこみ、ラストでYMOの「Absolute Ego Dance」を突如披露したロンドン・バービカンホールが、ロンドン交響楽団の本拠地でもある約2000名収容のコンサートホールだったのに対し、ロンドンからまっすぐ80キロほど南下した海辺の町ブライトンで、レコード店や雑貨店が居ならぶ街並の一角にあるオールドマーケットは、さながら下北沢界隈の老舗ライブハウスといった風情。<Light In The Attic Records>の設立16周年記念、そして坂本龍一のキュレーション企画『Thirty Three Thirty Three’s summer series of arts and music,MODE』を兼ねたイベント出演だったロンドンーーとはいえ約50分、YMOの再結集という特大のおまけ付きだったけれどーーとはまた違い、単独公演のブライトンでは計19曲のフルセットを、ステージと客席との距離がとても近く、イギリスの細野ファンが多く詰めかける、熱のこもった空間で聴かせた。

 開演前の期待感と高揚感から、ざわざわと落ち着かないオーディエンスの前に、まずバンドが登場。続いて1920~30年代に人気を博したジョセフィン・ベイカーのレパートリー「La Conga Blicoti」の軽快なリズムに合わせて、おなじみのステップを踏みながら細野が現れる。序盤はカルメン・ミランダ「South American Way」、シルヴァーナ・マンガーノ「El Negro Zumbon(Anna)」といったミッドセンチュリーのラテン曲が、70年代に発表した“トロピカル3部作”収録の「北京ダック」「ジャパニーズ・ルンバ」「香港ブルース」と入りまじる構成。マンドリンの音色が導く、海から風を運ぶようなエキゾチックサウンドが、聴く人をうっとりと、心地よく魅了する。早々に「さよなら」と言ってステージを去りかけ、「イッツ・ジョーク」と舞い戻る、細野流のユーモアもここブライトンに初上陸。日本人の観客が大勢いることに気づき、「じゃあここを日本だと思ってやるね」と日本語で宣言するMCに、客席は笑いで包まれた。

 確かにライブそのものは、選曲も演奏もよそ行きでない、いつも通りのものだった。デイル・ホーキンスによる57年のヒット曲「Susie-Q」から、シェルビー・フリント「Angel On My Shoulder」、レス・ポール&メリー・フォード「I’m A Fool To Care」に続く中盤の流れでは、細野にとって愛着のある50~60年代の歌、メロディが、彼の声とバンドのアンサンブルによって新鮮な響きと彩りを与えられる。そしてゆったりと緊張感のあるアレンジで聴かせる「Radio Activity」「バナナ追分」を挟み、「ここからはブギウギ・タイム」という細野のMCを合図にして、「Ain’t Nobody Here But Us Chickens」「Cow Cow Boogie」「Pom Pom 蒸気」と、観客の体を小刻みに揺らす、最高のブギウギナンバーが続いていく。「マイ・オールド・ソング、Pom Pom 蒸気」。そうやって英語で曲紹介をしながら、レコーディングした70年代に思いを馳せ、「ロング・タイム・アゴー……アイム・タイヤード・アンド・ボアリング」と自虐して笑いを呼ぶ、その軽妙洒脱なスタイルは日本でライブをやるさまと変わらない。

 客席のリアクションも、日本における反応と変わりないものだったことがうれしいと、ブライトン公演の翌日、細野は話してくれた。近年、デヴェンドラ・バンハートやマック・デマルコや、それ以外にもたくさんの海外ミュージシャンが細野への敬意と、その音楽からの影響を公言している。それは50年のキャリアを経てなお、細野が刺激的な音楽を聴かせてくれるミュージシャンだと、日本だけでなく海外でもとらえられていることの証だ。オールドマーケットを埋めた、大半は若く、おしゃれな現地の観客たちにも、細野は音楽の純粋で本質的な楽しさを届けてくれる、いま最も優れたミュージシャンのひとりだと受けとめられたに違いない。だからそこには伝説の存在を崇めるような、ぴりぴりとした緊張感とは異なる、もっと軽やかで、カジュアルな空気が生まれていた。

 終盤、「アイ・ドント・プレイ・テクノ」と告げてから、海外でも人気の高い「Sports Men」をカントリースタイルで演奏すると、観客は快哉。ライブの定番曲でありキラーチューンでもある「Tutti Frutti」「The House Of Blue Lights」で最高潮に達したオーディエンスの前には、最後のフレーズを勢いよくギターで爪弾き、そのまますべてを出し尽くしたかのようにパタリと倒れこむ細野の姿があった。そしてラストの「Body Snatchers」。アンコールでは「モースト・ビューティフル・シスターズ」という細野の呼びこみに、水原希子・佑果姉妹が飛び入りでコーラス参加して、「東京ラッシュ」を披露。この日のライブでは唯一、いつも通りではないサプライズに、ブライトンは沸いた。

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(文=門間雄介)

■スペシャルムービー企画「昨日の1曲」番外編
「ブライトンの1曲」
「ロンドンの1曲

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