小袋成彬、芸術性と歌を軸にした濃密な1時間 『分離派の夏』以降のビジョン示した東京ワンマン

小袋成彬ワンマン公演レポ

 シンガーソングライターの小袋成彬が10月10日、東京・渋谷WWW Xにて初の東阪ワンマンツアーの東京公演を開催した。今年4月に1stアルバム『分離派の夏』でメジャーデビュー。今夏は『FUJI ROCK FESTIVAL '18』『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO』をはじめとする大型フェスに次々と出演し、そのたびに大きな注目を集めてきた小袋だが、今回のツアーで彼は、その音楽的な才能とパフォーマーとしてのポテンシャルの高さを改めて証明してみせた。

 開演30分前にWWW Xに入ると、フロアはすでに観客で埋まっていた。年齢層の中心はおそらく20代半ばから後半。(筆者の勝手な印象ですが)総じてオシャレ度が高く、音楽偏差値もかなり高そう。静けさのなかにも、ライブに対する期待の高さが伝わってくる。

 19時を少し過ぎた頃、ひとりでステージに登場した小袋は、椅子に座り、ライブをスタートさせた。最初のナンバーはアルバム『分離派の夏』の収録曲「再会」。目線をやや下に落としたまま、美しい低音が響くトラックとともに、豊かなファルセットボイスを響かせる。そのまま「Game」「茗荷谷にて」「Loneley One feat.宇多田ヒカル」などアルバムの収録曲を次々と披露。MCを挟むこともなく、一人だけで淡々とステージを続ける。観客はほとんど拍手もせず、じっと彼の歌に耳を傾けている。以前にも彼のライブを観たことがあるが、ボーカルの質は確実に向上していた。日本語のリリックをナチュラルに響かせる独特のフロウ(それはおそらく、彼の身体のなかにプリセットされているものだろう)を存分に活かし、濃密なグルーヴと匂い立つような色気を同時に放っていたのだ。“感情を込める”といった曖昧なことではなく、韻の踏み方、ドラム、ベースのアレンジなどの具体的な操作によって歌を際立たせていることも印象に残った。歌うという行為に対する冷徹な視線、そして、自らの声を正確にコントロールする技術がなければ、こんなパフォーマンスは絶対にできないと思う。

 6曲目の「Summer Reminds Me」以降はギタリスト、マニュピレーターが加わり、3人でステージを構成。生楽器の音が入ったことで、サウンドの手触りはゆっくりと変化していく。アップテンポの曲はまったくないが、トラック、歌、ギターが有機的に絡み合うことで、思わず身体を揺らしたくなる心地よいグルーヴへと結びつけていた。周囲の音と呼応しながら、まるでエフェクターのモジュレーションを変化させるように声の表情を変えていく小袋のボーカリゼーションも絶品。厚みのある低音から美しくも儚い高音をバランスよく配置する歌いっぷりからは、シンガーとしてのセンスの良さがはっきりと実感できた。

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