米津玄師「Flamingo」はなぜ頭から離れなくなる? 3つの音楽的ポイントから分析

 米津玄師の新曲「Flamingo」のMVが公開された。圧倒的なロングセールスを記録したヒット曲「Lemon」に続く一曲とあって、MVの再生回数がわずか3時間で100万回に達するなど、さっそく大きな話題を呼んでいる。

米津玄師 MV「Flamingo」

 「Flamingo」は、一聴するととてもミニマルで、“地味”に感じられるかもしれない。前作「Lemon」や「打上花火」のように、リスナーの感情を盛り上げるドラマチックな展開はない。また、米津の作家性を特徴づける起伏に富んだメロディや、ラップに近づいていくかのような言葉数の多い譜割りも控えられている。にもかかわらず、耳にしたらなかなか頭から離れない中毒性がある。その秘密に迫ってみたい。

 ポイントになるのは、「小節(コブシ)を効かせたボーカル」、「“泥臭さ”と“クールさ”を両立させるメロディライン」、そして「歌声を大胆に強調しながらも、密度の高い緻密なサウンドメイク」の3つ。順を追って見ていこう。

 まず、第1のポイント、「小節を効かせたボーカル」について解説する。

 「Flamingo」でなによりリスナーに強いインパクトを残すのは、米津の歌声だ。もちろんこれまでも彼の魅力のひとつに歌声があったことは間違いない。それでもこの曲をとりわけ印象深くしているのは、メロディのなかに挟み込まれる小節だろう。ビブラートを強調し、ときには声を裏返す発声がしばしば見られる。加えて、独特の緩急をもった譜割りや、あえてリズムを訛らせるアプローチが、米津のシンガーとしての力量を見せつけている。この小節が、ファンキーでクールな楽曲に、演歌や民謡のようなちょっとした泥臭さをプラスする。七五調に整えられ、和の要素を思わせるボキャブラリーが盛り込まれた歌詞によくマッチしたボーカルだ。

 第2に、「“泥臭さ”と“クールさ”を両立させるメロディライン」を見ていこう。

 少し込み入った話になるが、まずメロディを作るスケール(音階、ドレミ)に注目する。この曲は基本的に、マイナーペンタトニックスケールという5つの音でつくられたAメロ、音が7つに増えてマイナースケールになるBメロ、そのままマイナースケールのサビのセットをぐるぐる反復している。なかでもAメロのマイナーペンタトニックスケールは、しばしば“日本的”なイメージと結び付けられ、演歌や民謡で多用されるニロ抜き音階と構成がほぼ同じ。Aメロでは小節を多用した節回しでくどいほどにこのスケールを強調し、サビまでに構成音を足していくことで、徐々にくどさをやわらげ、都会的なメロディへとスライドしていく。この手際が“泥臭さ”とファンクの“クールさ”を調和させているのだ。

 最後に、「歌声を大胆に強調しながらも、密度の高い緻密なサウンドメイク」。

 この曲では、カッティングギターやコーラス、エレクトリックピアノといった伴奏楽器を左右に大胆に振り分けることで、中央にボーカルのためのスペースが潤沢につくられている。加えて、いわゆるリズム隊(ベースライン、キックドラム、スネアドラム)も中央に配されている。これによって、ビートと歌声がのびのびと存在感を発揮できているのだ。ボーカルやリズム隊のために空間をあけてやるという方法自体はオーソドックスなものだと言えるが、ここまではっきりと各楽器の定位(特にミッド(中央)とサイド(左右))にメリハリをつけたサウンドメイクは、米津のこれまでの楽曲にはあまり見られなかった。だからこそ、いままでとは一味違うインパクトをリスナーに与えているのだろう。

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