『M:i5』の隠された魅力とは? アクション、テーマ、演出の特異性をひも解く

『M:i5』の魅力を3つの視点で分析

 『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』が好調だ。日本国内だけで興行収入54億円に達した前作「ゴースト・プロトコル」をさらに超える見込みで、「シリーズ最高傑作」との声も挙がるほど観客の評価も高く、勢いを後押ししている。 この成功の理由は、トム・クルーズの人気と、彼自身によるスタントアクションへの期待が、映画ファン以外の層にまで広く浸透を続けてきた結果だろう。だが、魅力はそれだけではない。スパイの暗部を語る危険なテーマと、新監督の個性的なアクション描写、さらに現在の映画の潮流を逆行する演出など、隠された要素がまだまだ詰まっている。それらが何故作品に必要だったのか、どう作品をかたち作ったかを明らかにしていきたい。

偶然のなかで生まれたシリーズの面白さ

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(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 トム・クルーズが初めて映画制作に乗り出し、自ら主演したのが『ミッション:インポッシブル』第一作だ。TVシリーズ「スパイ大作戦」をリメイクし、派手で刺激的なアクションとともに、トムが前面に出るヒーローアクションとして設定が改変され、サスペンスの鬼才ブライアン・デ・パルマ監督の演出も冴えわたり、予想を超えるヒット作となった。この一作目はシリーズ全ての基礎となっており、すでに古典的な風格すらある。その後、デ・パルマ監督は続編の企画を蹴り、『ミッション・トゥ・マーズ』という巨額のSF映画に挑戦し、興行的に惨敗してしまう。前作の監督を失った本シリーズ続編は、香港ノワール・アクションの異才ジョン・ウーに託され、その独特な美学による二丁拳銃の活劇は、作品世界を良くも悪くも異次元に運び、前作を超える大ヒットを記録した。ここで注目すべきは、作品の世界観より監督の個性の方が優先されたという点である。このような事情によって、このシリーズはその後、TVドラマ界の新鋭J・J・エイブラムス、天才アニメーション監督のブラッド・バードと、続編ごとに意外な人選で監督を交代するスタイルを確立する。その結果、極めて大衆的でありながら、それぞれの監督による演出の違いを楽しむことができる稀有なシリーズが生まれたといえるだろう。

 今回の監督クリストファー・マッカリーは、その中でも異端といえるほど強い個性を持つ監督である。細部にこだわったリアルな銃撃戦とカーチェイス、ナイフでの痛みをともなう格闘などを異様に遅いテンポで、粘着的にじっくりと撮る作風は、そのまま本作のオペラ座の足場での攻防や、ナイフの格闘戦に活かされている。これは、せわしくスピーディになっていくシリーズの流れに逆行するものだ。本作のカーチェイスでは、小回りの効かない四駆でまごつくシーンもあったが、まさにマッカリー演出を自嘲的に象徴しているように見える。しかし、このシフトダウンは、作品にリアリティと重厚感を与え、クラシカルな本格派の印象に引き戻したともいえよう。

「ローグ・ネイション」とは何だったのか

 クリストファー・マッカリーは、サスペンス映画『ユージュアル・サスペクツ』の脚本家として知られており、本作でも単独で脚本を務めている。監督作において、犯罪や裏社会を題材にしてきた彼が、今回描こうとしたものは何だったのだろうか。「IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)」という架空の団体名を用いて、アメリカのスパイ組織「CIA」秘密作戦部の活動を娯楽作品化したのが本シリーズである。しかし実際のCIAは、要人を殺害したり、大統領選を裏で操り権力を拡大しようとしたり、自国民の手紙すら勝手に開封し会話を盗聴するなど、正義のイメージとはかけ離れた歴史を持つ組織だ。例えば、本作冒頭の公聴会のシーンは、前作で核ミサイルが発射された事件についてIMFが追及されているが、かつて現実のCIAが、ソ連から核攻撃があったと誤認し、反撃のため軍に核兵器を撃ち返させる寸前まで行ってしまった実際の不祥事が基になっていると思われる。この荒唐無稽な脚本は、おそろしいことに実際のCIAの歴史とリンクしているのだ。

 それでは、本作で主人公イーサン・ハントの敵となる「シンジケート」とは、何を意味していたのだろう。かつて、ソ連に対抗するため、アメリカはCIAのもたらす情報と手引きによって、アフガニスタンの過激なゲリラ組織に強力な武器と資金を提供し、自分達の手先として戦わせた。それが、後にアメリカを裏切りテロ活動を行うことになる武装組織「タリバン」に成長したことは公然の事実だ。911同時多発テロ後、ブッシュ大統領は、親米でない国や武力組織を「ならず者国家(ローグ・ステイト)」と位置づけ、制限されていたCIAの権力を再び増大させ「ならず者」達に対抗させた。だが、そもそもCIAの行動が武装組織を作り、テロの原因にもなっていたのである。

 戦争に関わる国にとって、スパイ活動による情報戦や違法行為は不可欠なのかもしれない。しかしそれは、自国や世界を破壊する脅威ともなる。ならず者スパイたちの集団である、本作の「シンジケート」とは、IMF、そして現実のCIAの負の姿でもある。劇中での「ローグ・ネイション」成立をアメリカの失策であると直接的に描いていないのは、娯楽作として成立させるための配慮なのだろうが、それでも本作は挑戦的に、スパイ活動の暗部と、それによって引き起こされるリスクと責任を描いているといえるだろう。

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